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それを呆然としたままの状態で、彼の後ろ姿をぼんやりと見ていたアーシェは我に返り、浅い溜息を吐いた。
―――階段、二段飛ばしで掛け上がっちゃったわね…とても追い付けそうにないわ。
定期券だけを持ち、少しの間立ち尽くして居た彼女は出口へ向かって歩き出す。
そして何となしに彼が持ち去ってしまった自分の鞄を持って居た右腕を見てみた。
腕は車内でぶつけたせいで赤みを帯びていた。
それを見てアーシェは車内であった事を思い出す。
―――少し痛かったわね、でも痣になったりはしなさそうで良かった。
―――それにしても、ヴァンが居なくなってからいきなり圧が増したわね。
―――扉側だったとは言え、あまりにもキツかったわ…。
そこでハッと気付く。
元々察しの良い彼女はすぐに判った。
“誰か”が自分を庇ってくれて居たのだと。
以前より混雑した電車に乗ったにも関わらず、圧力が少ない事にもっと疑問を持てば良かったのだ。