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彼女が満員電車を嫌う理由は、誰しもがそうである様に、あの暑さや圧迫感、満員にも関わらずマナーの無い行為を平気で行う少数の人間にうんざりしたからだ。
中でも電車が揺れを受ける度に、ぐらぐらと激しく揺れる車内は苦手だった。
バランスを失った人々が一定方向に傾いた時のあの圧力は中々凄まじい物である。
それを思い出すと憂鬱さは更に増し、晴れそうになかった。
そんな事を考えていると“嫌な事は重なる”と言う事を実感する出来事が起こった。
「あっ、アーシェじゃん。」
相変わらず何処か気の抜ける声を掛けて来た少年。
彼女は彼の事を認識すると思わずまた溜息が漏れた。
少し睨みを効かせながら彼の方を向いて、何時もより低い声でハッキリ述べる。
「“先輩”でしょ?」
そう一言だけ述べると、彼―――ヴァンはキョトンとした顔でアーシェの隣である最後尾に並ぶと不思議そうに、そしてほんのちょっと不服そうに口を開いた。