「どうしたの?」
額と額を、ぴったりくっつけたまま黙っていたら。間近すぎる位置にいる、やけに嬉しそうに笑っている表情はそのままで、彼女からそう問われる。
それはゆったりとやわらかな声で、まるで触れている額から伝わる温度のように、心地よく鼓膜を震わせた。
「…いや、」
本当は、その目線が自身より少し高いことに、少しだけ。何度目かもう分からない悔しさを、こっそりと思っていたのだが。
「なんでもねぇよ」
そんなことよりも、大事にしなければならないものが、あることを。
俺自身、知っているし強く心にも、決めているから。
またこっそりと、その想いをやわらかく、噛み締める。
「ほんとうに?」
「ああ」
応えたなら、ほんとうかな、と。くすくすと笑う彼女に視線をからめて、つられるように笑った。
こうして触れて、温度を通い合わせて。
ただ君と想い合うこの瞬間が、何よりも大切でいとおしく、しあわせなのだ。
了.