「は?」
いつの間にか起き上がっていた藍那含めて4人全員がハモった。
馬鹿言うな、自分たちはいまこの瞬間、こうして呼吸をして立っているじゃないか
それを、もうすぐ死ぬだろうと?
「言っていることに理解し得ないんだが…」
獅龍の言うとおりだった。
「うん、さっき君たちの身に何が起きたか覚えてないの?」
背筋が凍る。そうだ、あれは確かにこの身に起こったことだ。
痛みこそは感じなかったが
「『向こう』の君たちはぁ、あの事故で瀕死の状態です。死にそうです。」
来夏と名乗る青年は人差し指をたてて言った
助かる方法はただ一つ。
君たちの精神を別の世界へ移すことなのさ
そんな呑気に言われても意味が分からない。
精神だけ?移す?
「あ、精神だけって言っても身体もちゃんと付いてくるよ。キズものじゃない元の君たちの」
「そんな無茶な話あるわけないだろ…?」
突拍子のなさすぎる話に混乱している藍那をかばうように立ちながら、獅龍が言った。
「だからぁ、この世界じゃない世界…つまりパラレルワールドっていうのがあって…あー!もうめんどくさくなっちゃった!行けば分かるよ!っていうかもう着いてるんだけどね。別世界に」
来夏はどうやら気の長い性格ではないらしく、説明が長くなると察した途端全てを投げ出した。
でも、なんとなくだが理解できそうな気がしてくる。
相当大きなものだと予想できる事故に巻き込まれながらこうして無傷でいるのはおかしいし、それに近所で『並盛神社』など聞いたことがない。
「君たちならなんとかなるよ、ジャパニーズマフィアさーん。こちらには同業者がうじゃうじゃといるから」
なんでそのことを知っているんだ。という質問は見事にスルーされた。
細かいことは後にしてとりあえず覚悟を決めたほうがいいようだ
「じゃあそちらの方向に進むといいよ。この森の出口が見えてくる。詳しいことは僕の友人に聞いてくれ」
そう来夏が言った直後に突風が吹いて思わず目をつぶった。
目を開けるとそこにいた来夏は消えていた。
「なんなんだ…」
「まあ、来夏さんの行った通りあっちに行ってみようよ…僕お腹すいたし」
来夏が指差した方向からは微かにだが話声が聞こえた。
元々じっとしているのが苦手な4人なのでとりあえず進む
「そういえばさぁ、同業者って言ってたけど…」
「なんで知ってるかといったら神様と返されるのがオチだ」
「武器は持ってるし大丈夫だよ!ウチら強いし!」
「お前に言われると腹立つな」
「ひっどい獅龍!!この白髪!」
「藍那、そのへんにしとけ。お前死ぬぞ。っと森から抜けそうだ」
前方で揺らぐ光は蛍光灯とはまた違った温かなもので安心感に包まれる
「神社?」
出た先は地面が石畳に覆われていて鳥居もある要するに立派な神社だった。
そういえば来夏が『並盛神社』と言っていたことを思い出す。
「ひいっ!いきなり森から人が!」
「落ち着けツナ。こいつらはオレの知り合いだ」
「…赤ん坊と?」
いきなり森から4人が現れたことに驚いた同い年ぐらいの少年と、スーツを着こなした赤ん坊
藍那がぼそっと呟いた声はあちらにまで届いていたのか赤ん坊が「オレは赤ん坊じゃねぇ。家庭教師だ」と返してきた。
緋漣はと言えば、赤ん坊に蹴りを入れられ悶えている浴衣姿の少年を見つめていた。
「もしかして…こいつらが同業者?」
「そうだぞ緋漣。ツナ、こいつらはジャパニーズマフィアでオレの友人の紹介でボンゴレに入ってもらうことになってんだ。4人とも、こいつはツナと言ってボンゴレファミリーの10代目ボスだ」
どうしてどいつもこいつも名前を知っているのかはさておき。
緋漣が見つめていた少年はマフィアのボスで、けれどその瞳はマフィアの親玉とは思えない優しい光を湛えていた
あどけなさを残した瞳
(その目に吸い寄せられるように)