これの続きっぽい







「円堂くん。皮、俺が剥くよ」

「え、いいのか?」

「うん。」


顎を引きながら伺うような表情で切り出したヒロトは、少し考えてから再び口を開いた。

「円堂くんこそ、人が剥いたのとか嫌じゃない?」

「いや全然、大丈夫だけど」


安心したように強ばりを解く顔を見ながら、だってヒロトだろ、という言葉を言うか言うまいか悩んで、結局呑み込んだ。ちょっと気恥ずかしくなる。

頬の熱を誤魔化すかのように逸らした視線の先で、細い指先がするすると葡萄の皮を剥いていく。白くて綺麗な指は思っていた以上に器用らしく、皮は一度も千切れることなく皿へと落とされた。ヒロトは指でつまんだ葡萄を俺の口元に差し出した。

「円堂くん、はい」

「……あーん」


鈍い鈍いと言われる俺だけど、流石に差し出された葡萄の意味くらいわかっている。指先が唇に触れるか触れないかの絶妙なところで葡萄が口内に転がりこんできた。決して冷やされてはいないはずの果肉は不思議と冷たく甘い。おぉ、と感嘆の声がもれた。


「美味しい?円堂くん」

「うん、めちゃめちゃ甘いなこれ」

「おばさんが一番美味しそうなのをくれたんだ。」


円堂くんが喜んでくれたんなら買って良かった、もっと剥くね。ときらきらを振りまくヒロトの指先が再び動き出す。二個、三個と剥くうちに、爪の先が紫色に染まっていく。たまに差し出された葡萄を押し返してヒロトの口に放り込みつつも、基本的には餌を待つ雛鳥みたいな状態だった。
存外暇なその態勢でとうとう船を漕ぎ始め、口をぱかりと開けつつも瞼が落ちているという非常に間の抜けた図になった。向かい合って座るヒロトは葡萄の皮を剥いているから顔を伏せていて、表情がよくわからない。ひょっとしたらものすごく呆れてるかもと思いつつも、練習の疲れからか重くなった瞼は中々上がらず、心地良いうたた寝におちてしまった。



下顎にひやりとした感覚を覚えた。
違和感から必死に瞼を開こうとするけど、常日頃風丸にため息をつかせる寝起きの悪い身体は思うほどに動かない。そうこうしているうちに、空気が動くと共に肌と肌が近づいて熱を孕む感覚がして、軽いリップノイズを立てて一瞬だけ口を塞がれた。

「えっ」

流石に瞼が動かないなんてなくて、むしろ勢い余って全開になった。さっきよりは離れているのであろうヒロトの瞳とごくごく至近距離で目が合い、じわりと頬が火照る。
笑みを浮かべて「おはよう、円堂くん」なんて少し嬉しそうに目を細めるヒロトは、またもやきらきらを惜しみなく振りまいていた。






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