秋も半ばと言うのに、日光がサンサンと降り注ぐ外界はうだるような真夏の暑さだった。
それはもう、棒立ちしているだけで汗が滲んでくるほどの暑さであり、いつものように「サッカーしようぜ!」と部屋を飛び出した俺とヒロトが小一時間もしないうちにマネージャー達に引きずり戻されたくらいだった。(「もう!今日は練習禁止って言ったじゃない!」「けどさ、こんなに晴れてんのにサッカーしないなんて勿体無いって!なあ、ヒロト!」「うーん…でも円堂くん沢山汗かいてるし、心なし顔色悪いし、確かに休んだほうがいいんじゃ」「基山さんの言う通りですよ!さあ、宿舎に戻りましょう!」「えーやだー!」)


苦笑いを浮かべるヒロトの横でぶすったれながらだらだらとした足取りで宿舎へ戻る途中、ポツンと店を構えた八百屋で葡萄を見つけた。
小さな水の粒を沢山纏っているそれがとても美味しそうに見えて、思わず歓声をあげたら、店番をしていたおばちゃんがにこにこと人の良さそうな笑みを浮かべつつ、安いよ、おひとつどうだいと言った。それに合わせてじゃあひとつ下さい、と同じくらいにこやかにヒロトが返す。
二人の間にいた俺はといえば、あまりのテンポにどこか置いてきぼりで、目の前のやり取りをきょとんと眺めているだけだった。それを見たおばちゃんは豪快に身体を揺らして笑い、つられてヒロトも品の良い控え目な笑みをこぼした。
頬をゆっくり緩めるヒロトの笑顔は何だかきらきらと光る粒々を辺りに振りまくようで、暑さで溶けそうな視界の中でひときわ鮮明に浮き上がる。ヒロトときらきらは葡萄と水滴に似ていると思った。

ヒロトの笑顔から零れ落ちたきらきらが葡萄にぶつかって霧散し虚空に消えていく様を眺めている間にヒロトはお金を払ったらしく、葡萄ときらきらから目を逸らして振り返ると、ビニールの袋を片手に提げたヒロトがにこりと微笑んだ。きらきらが俺とビニール袋にふりかかる。払う気なんて欠片も存在せず、むしろ落とさないようそっと動いてしまうくらいだった。


八百屋のおばちゃんにお礼を言って歩き出してからしばらくして、宿舎の少し前あたりで何故か顔を赤くしながらヒロトは「この葡萄、一緒に食べ…ま、せんか」と小さな声で恥ずかしそうに呟いた。

いいに決まってるだろ!と返したら、嬉しそうにきらきらを溢したヒロトにそっと手を引かれて歩く。こういうときの力加減とか、暑いのに練習に付き合ってくれる優しさとか、さりげなく葡萄を買うくせに後になって照れるところとか、俺はすごく好きだなぁって思った。







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -