夢を見てる。

大量の料理を腹に収めながら自覚した。
ごくんと香ばしい肉の塊をのみ込み腹部を眺める。特に膨れもしない直下降の腹が呼吸に合わせて微かに揺れた。もう随分と食べ続けている気がするが、満腹感はいつまで経っても訪れない。カロリーにもなっていないのだろうか。うーん、消えるのは………胃の辺り?まあいいけど。味はちゃんとするし。大変美味です。目の前の食品エベレストに再度手を伸ばした。

ふとかぶりついたお握りの味に、首を傾げる。どこかで食べたことがある気がした。ちょっと強い塩味ときつくも崩れやすい握り方の、製作者の不器用がありありとにじみ出たいびつなお握り。

「…あ、円堂」

円堂のお握りだ。
不器用で思い出した。その途端お握りは手の中で輝き始める。いや比喩でなく。恐る恐るかじると、微妙に美味しくなってる気がした。夢補正すげえ。
お握りは相変わらず腹にはたまらないものの、気持ち的な何かが満たされた。起きたら料理の味など忘れているだろうけれど、円堂のお握りを食べたことと満足感は覚えていたい。そして円堂にお握りを作ってもらうのだ。現実ならばきっと、不格好なお握りで腹がふくれるはずだから。

「さっきから、不器用だの不格好だの失礼だぞお前」

いきなり隣に円堂が現れて文句を言い始めた。完璧と言って差し支えない再現度だ。夢ってすげえ。

「もう二度と作ってやんないからな、馬鹿」

ただをこねるようにばたばた両足を振り回す。子供じみた仕草で不満を示す円堂の頬は鮮やかに赤く、不思議と食べ物に囲まれた室内に良く馴染んでいた。手を伸ばしてゆっくり歯を立てると、しゃりしゃりと爽やかな音がした。やわらかな肉の食感はない。円堂の頬は林檎味。あまりに馬鹿馬鹿しくて短絡的な思考に笑いがこみ上げた。誰だこんなこと考える馬鹿。ここが俺の夢である以上、俺なんだろうけど。
俺の歯形をくっきりと頬に残し、雪国美人とイエローモンキーの合の子みたいな内部を曝した円堂は暢気に「美味しかった?」と尋ねる。歯形の跡からは、血の代わりに透明な果汁が溢れていた。

「お前、頬っぺたかじられといてそれだけ?」
「あはは。南雲ってたまに、すごく可愛い言い方するよな」

何やら聞き捨てならないことを言って円堂は手を叩き、あいつにしては珍しく喉を鳴らすように笑った。いつもの快活な笑い方は成りを潜めている。
果汁は円堂の頬を伝って顎の先からぽたぽた落ち、無駄に敷かれたテーブルクロスに味気ない染みを点々と描く。人指し指でたどると染みが日本地図を描き始めた。不可解すぎる。

「なあ南雲」

果汁の行方など欠片も気に止めず、にこにこと円堂が口を開いた。

「俺、起きたらお前に好きだって言いたいな」
「…好きにしろよ」
「南雲も好きだって言ってよ」
「知るか」
「けち」

落胆したような表情でゆるりと首を振って円堂は消える。残された俺はと言えば、夢の醒まし方もわからず途方に暮れるばかり。
口に残る円堂の残滓がからからと笑い声をあげた。



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SUNNY*SUNNY様に提出させていただきました。
南円モエルーワのタギリーヨ!から何故これができたのかよくわかりません。でも愛は溢れてます。それと結婚式はベタに6月がいいと思います。南円幸せになあれ!
彩香さん素敵な企画ありがとうございました。


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