塔子と私と秋が立ち話を始めたとき、それこそ話が筒抜けになるくらいの距離にあなたがいたのを私は知っていた。
恋バナ全開のガールズトークが盗み聞きされていることを黙っていたのは、どうしたって醜い秋への嫉妬心に他ならなかっただろう。


「あたしさ、円堂が好きなんだ。秋もだろ?」
「…うん。私も、円堂くんが好きよ」

「    」

あなたらしくもなく余裕無さげに歪んだ顔とかみ殺された叫びが、これ以上なく私の幼稚な行為を糾弾した。後悔の二文字を頭の隅に焼き付けながら、私は懲りもせずにあなたを追いかけた。罪悪感と、つけいろうとする浅ましい思いを抱えて。

秋の告白を聞いたあの時、あなたは確かに泣いていたのでしょう。とても強い人だから涙なんて流さなかったけれど、震える手で私のユニフォームを握りしめてほんの少し俯いたあなたは、きつく瞼を閉じて祈っていた。「かみさまかみさまかみさま、お願いだからあの子を下さい」
私が、それを知らないとでも思っていた?いいえ知ってるわ。だってあなた口に出してたもの。小さな小さな声だったけど、私にはそれがまるで赤子が泣き喚く声のような大音量で聞こえたの。余りにあなたが必死なものだから、思わず笑ってしまった。あの笑みは今でもよく覚えている。脳味噌がぐちゃぐちゃにかき混ぜられていく感覚と、視界を揺らす程のショック、潤む瞳を見せないよう咄嗟に閉じた瞼、あちこちで生まれていく歪みがケミカルに混ざり合って私の口角を引き上げる。不思議と、綺麗に笑えている自信さえあった。
私は確かに笑った。泣いてるあなたを前に、笑った。


リカはいつも明るいね
リカの笑顔は元気をくれる
笑ってる方が、いいと思うよ

困ったように笑いながらあなたが言っていた言葉を全部覚えてる。あなたがほんの少しでも私を見ていてくれたという事実が、本当に本当に嬉しかった。秋だけじゃなかった、私の笑顔だって見ていてくれた。素敵な笑顔だと、好きで好きで仕方ない笑顔で言われた。


だから、今笑う。笑顔だったあなたが泣いてるから。今、私は笑う。どうか、この笑顔に込めた"元気出して"と"泣かないで"がこの人の元へ届きますように。あの子を嫉まないでいられる欠片ばかりの私が、二人の幸せをちゃんと願えますように。
祈るように泣くあなたの前で、私は祈りを込めて笑った。



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困った笑顔しかさせられなかった私とは違うあの子のために、あなたは美しく笑っていて下さい



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