愛、形成文字。可愛がり、慈しむこと。また、その心。男女が恋しく思い、慕い合うこと。また、その心。恋。大切に思い、それに引かれること。また、その気持ち。

散々悩んだ末に国語辞典に頼ったのは、自分でも馬鹿だったと思っている。俺はただヒロトの愛って何?と聞きたかっただけなのだ。形成文字だのなんだの知るかそんなん。俺が知りたかったのはヒロトがいつまで俺に愛してると言うのか。
一体いつまで愛してくれるの?ずっと?もうちょっと?まだ先?嘘ついてない?愛、ヒロトの中で消火されて無くなってない?磨耗して消え失せてない?今、俺のこと愛してる?本当は沢山聞きたいけど、本当はヒロトの返事が少し怖くもあって、だからいつも俺はただ喘いで、何も言えないんだと言い訳することを選んでしまう。


「…円堂くん、何考えてるの」

ちゃんと俺のこと見て、と真上から落とされた言葉は、お腹辺りの強烈な痛みのせいでどこか輪郭を失っていた。

俺のこと愛してる?そう、口に出すのはたやすいだろう。メールでもすればもっと簡単に聞けるのだろう。文字にすればたった9文字で終わってしまうような、結局はそんな話なのだ。だからといってそれをよしとしないのは、円堂守という個人がそれこそ愛と同じようなありふれた消耗品のひとつでしかないんじゃないかと不安で仕方ない、卑怯者な俺自身に他ならない。きっと多分、チームの皆が期待する俺はキャプテンでサッカーが大好きであまり難しいことは考えない、そんな人間であって、こんな風にベッドを軋ませたりしない。上擦った喘ぎを聞き慣れることなんてない。皆の抱えるイメージから遠く離れて、ヒロトと二人きりで動物臭さを剥き出しにする時間はいつまで経っても体に馴染むことなく不安定だ。ぐらぐら揺れる足元に酔って、転んで、いつか倒れてしまうんじゃないかと不安にかられてしゃがみこんでしまうくらい。

円堂くん、好きだよ、大好きだ。うわ言のようにただそれだけを繰り返すヒロトを見上げて、「なあ、」と呼び掛けた声は思いの外掠れていた。
「お前のこと、あいしてるよ」
あれだけの葛藤も結局はたったの5文字にしかならなかった。そのことがあまりにも虚しすぎて、少しだけ涙が出た。見上げたヒロトの目玉も潤んでいた。俺も、俺もあいしてる、ぽたんぽたん、嬉しいよ、ぐちゃり、あいしてる、ぎしぎし、あっはは、嘘くせー。

目を閉じて音に満ちた部屋でもう一度と放り出した5文字は、いとも容易くたおやかに姿を消した。



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