大概の吸血鬼は色白なのだと、掠れた表紙の作者は語っていた。彼らは日に当たると死んでしまう。故に彼らの肌が日に焼けることはなく、その透きとおる雪花のような美しさはこの世のものとは思えない程だという。

「だって、本人的にはどうなんだ?」
「どうって言われてもねぇ。確かに日焼けはしないんだけど」

そんな大したものじゃないとひらひら揺れる手を引き寄せて眺める。成る程白い。光っていると錯覚しそうな白さだ。だけど、一目で骨格を見てとれる程に痩せこけたヒロトの手はどちらかというと骨の白さを彷彿とさせる。真っ白というよりかは蒼白が近い。こいつ全体的に血色悪いし。

「ああ、ああ。守、今すぐ手を離して」
「嫌だ」
「君に触れると我慢がきかないのに」

泣きそうなのか嬉しそうなのか微妙な表情を浮かべたヒロトは、言い終わるが早いが首筋へと頭を埋めた。
だけど肌と同じく血の気の薄い唇をひっつけるだけで何もしない。口を開いたら終わってしまうのだとでも言いたげに唇をきつく閉ざしてぴくりとも動かない。すうはあと押し殺した吐息が骨を通して耳に届いた。ヒロトはいつも俺の血を吸うことを躊躇うせいで、吸血鬼の癖に貧血症だ。本人は持病だと否定するけど、たまに血を吸ったあとのヒロトを見ていればすぐわかる。ヒロトは血を飲まなくては生きていられないのだ。

「なあヒロト、俺なら大丈夫だから。俺の血を、飲んでくれよ。」
「いやだ、いやだよ守。俺、本当は君の血なんて飲みたくないんだ」
「だけど、もうそんなにふらふらじゃないか、俺が見てられない」
「駄目だよ。だって守、血を吸ったら痛いよ。守の方が具合が悪くなってしまうよ。」
「だけど、」
「お願いだから守。お願い。君の首に噛みつかなくては生きられないなんて、俺にはそれこそ死んだ方がましだと思えるんだ。君を傷つけるのは嫌なんだ。」
「でも俺は、ヒロトに死んで欲しくない!」
「お願いだから、わかって守」
「確かに血を吸われたら痛いけど、吸わなきゃヒロトはその何倍も苦しいんだろ。だったらヒロトは俺の血を吸えばいいじゃないか」
「俺はいいから」
「良くない!」

嫌だ嫌だとただをこねるように首を振ったら、いつの間にか目尻に溜まっていた涙がぽろりと落ちた。ヒロトはそれを美しい指でそうっと掬い上げ、困ったような微笑みでぺろりと舐めた。

「守の涙はとっても美味しいね」
「味なんて、皆一緒だろ」
「違うよ。守の涙は優しい味がするんだ。」

守、キスしようと呟いたヒロトの手と、頷きだけを返した俺の手が恋人のように絡みあった。握った白い手は不安になる程細くて冷たい。こいつの手を雪のようだと言うのなら色よりもよっぽど冷たさの方があっているだろうと、一際強く握りしめながら思った。そして、ゆっくりと、キス。
今この瞬間身体の中で一番薄い皮膚二枚を隔てて俺とヒロトの血が重なっている。赤い血がとくとくと流れて巡って、身体中がヒロトに触れた血でいっぱいになる。だから、普段だったら聞こえないくらい小さなヒロトの声だって今ならちゃんと聞こえた。

「         、」

そんなことない、と動かした唇にヒロトの涙が触れた。優しくて暖かい涙は、俺の涙となんらまったく変わりなかった。


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