ウルビダにゴミ捨てを頼まれた。突如目の前にゴミ袋を放られ、一言「行け」。頼み事にしてはあんまりな態度じゃないだろうか。半ば追い出される形で行くはめになる俺も俺だけど。ゴミ捨て場までの道のりを辿りながら、そういえばお日さま園ではゴミ捨ても当番制だったなあ、と少し懐かしい気分になった。
別にウルビダの人使いの荒らさを言及したい訳じゃない。彼女とは長年付き合ってきたのだ。こんなことは日常茶飯事と言っていいレベルだから一々気にはしない。しかしゴミ捨て場にゴミ袋を放り投げた瞬間、彼女に手渡されたゴミ袋の中身に気づいてぎょっとした。喉の奥で生まれた悲鳴を慌てて押し潰すと同時に、散歩中のお爺さんが俺の後ろを通り過ぎて行く。半透明のゴミ袋に詰め込まれていたもの。それは女性が月に一度お付き合いするであろう、生理用品だった。普通、こういうものは不透明な袋に入れて捨てるものじゃないのか。しかもそれをわざわざ男に捨てに行かせるなんて。嫌な衝撃と戸惑いとが、胃の中で消化しかけの朝食を押し上げる。足下がぐらぐらと揺れる。込み上げた吐き気を耐えながら、彼女の生理の周期が近づいていたことを思い出した。
ウルビダの生理周期を知っていることに関して、決して勘違いをして欲しくないのだが、俺が彼女に対して性的な興味を抱いているわけではないのだ。同じ家で生活している以上気づいてしまうのは仕方がない。エイリア時代の服装から彼女がかなりスタイルの良い方だと気づいていたけど、残念ながら俺は心身ともに円堂くんフォーエバーラブである。きっと彼女の着替えを生で見るより、目の前で赤く頬を染める円堂くんの方が何倍も興奮するだろう。勿論そういう意味で。彼女は恋愛対象とするにはかなり高圧的だし、何より幼なじみとして余りに多くの時間を共有してきたから、俺の中ではどんな成長を遂げようとも彼女がウルビダであることに変わりはないのだ。しかし、だからこそ戸惑う。生理用品って…。生々し過ぎて心中穏やかで居られない。興奮とはまるで違う衝動が沸き上がる。左側の頬がひきつった。ちくしょう、嵌められた。そうとしか思えなかった。
ウルビダには、生理がくるのだ。円堂くんの子供が産めるのだ。彼女が円堂くんと結ばれるに値する根拠を、俺には手に入れることのできない正統性を見せつけられるためだけに、俺はこの寒空の下ゴミ袋を抱えて立ちつくしていた。恋をした女はなりふりかまわないものだ。女性は恐ろしいなあと呟いた声は、白く凍った息と共に虚空に溶けて、消えた。胸がずくずくと鈍い音で軋んでいた。

なんだか、無性に円堂くんに会いたくなった。


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