リップクリームをつけた。冬が近づいて空気が乾燥し始めたせいでグラウンドで大声を出す俺の唇が切れるのを見かねた立向居がわざわざ薬局で買ってきてくれたものだった。ありがとうと言って袋を受けとったけど、唇に何かをぬりたくるのはほぼ初めてに等しかった。ドキドキしながら付けた白いそれは、突き刺すようなハッカの匂いとひんやりとした刺激がどことなく苦手に思えた。落ち着かない口元をもごもごと動かしていたら、それを見た立向居がちょっとだけ笑って「駄目ですよ、取れちゃいます」と言って、そっと俺の両手首を握った。そしてゆっくりとした動作で小さいキスをした。一秒、二秒、三秒。唇がゆっくりと離れていった。少しだけ頬を赤く染めた立向居が、「実はファーストキスだったんです」と言って恥ずかしそうに目を伏せた。その真っ赤な耳を見て、何て恥ずかしい奴なんだろうと思った。



「…うん、俺も」

俺も、相当恥ずかしい奴だった。


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