彼女の手が好きだ。

小さくて柔らかくて温かくてそれはそれは可愛い手のひら。この手が日々努力を重ね、俺や世界と渡り合う実力を宿すのだ。
たゆまぬ練習の証に、彼女の手のひらには血と汗を滲ませ固くした大小様々のまめがある。不恰好だと彼女は眉をひそめるけれど、俺はそんな手のひらがこの世のどんな美術品よりも神聖で美しく思えて仕方がなかった。

俺の手と比較してみると、その瞬間手のひらを通してより一層彼女の素晴らしさと価値と魅力が身にしみる。だから俺は彼女と手のひらを合わせて言い様のない愛しさに浸るのが好きだし、彼女の手のひらに頬を包まれるのも頭を撫でられるのも手を繋ぐのも大好きだ。
目尻と口端が弛緩して表情を瓦解させると、何時もとは少し違った滲み出るような笑顔が返ってくるのがこの上なく嬉しくて、その笑顔に幸せだねだとか、大好きだとか、そういう幸福の欠片のような尊い言葉が散りばめられているような気がして、もっともっと嬉しくなる。

神様が与えてくれる奇跡のような幸せに限界などなくて、二人でひっそりと身体を寄せ合って彼女の蜂蜜みたいな笑顔を眺めていることが出来ればそれだけで1日中幸せだったねと笑い合えるし満たされる。何にもしてないと笑う君を抱きしめて眠りにつく以上に穏やかで美しい終わりがあるだろうか。甘い砂糖菓子みたいに腐り落ちそうな優しい1日の最後は、やっぱり綺麗なままが良いに決まっているのだ。



瞼の落ちかかった彼女の柔らかな髪をひと撫でして、優しいキスをひとつと愛の言葉。そうして俺と彼女の夜はふけてゆく。





おやすみ、いい夢を見てね


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