「あのさ、ブン太…」
「ん?」
「言い忘れてたんだけど、私…雅治に、好きって言われた」
私がそう言うとブン太は少し固まって、笑った。
「じゃあ、」
「……告白、断ったよ」
ブン太の言葉を遮って言った。言葉の続きを聞いたら、言い出しにくくなりそうだと思ったからだ。
ブン太は、目を見開いた。なんだかおかしくなって、私は笑った。
「だって幼馴染みとかは関係ないとしてもさ、私言っちゃったもん。由良に、協力するって」
「………それでいいのかよ」
「…由良に、嘘つきたくないから」
「……俺はさ、仁王に告白したらいいと思う」
「………」
「由良は、同情好きなのかよ」
「…嫌い」
「ん」
私が顔を上げると、ブン太は笑った。なんだかブン太の笑顔を見ると、何もかもが上手くいきそうな気がした。
だから言おうと思う。メールのは本心じゃないって、雅治に。雅治のことが好きなんだって、由良と雅治に。由良とは、ちゃんと話したい。

キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン

「とっ取り合えず、教室戻ろっか!」
「お、おう」
お昼のチャイムが鳴り、お互いてんぱった。そういえば話をしてて、弁当食べてないなと思った。弁当は教室なんだけど。
私とブン太は、お互い急におかしくなって笑い合った。由良への報告と雅治への告白は、放課後にしよう。雅治が、部活終わるのを待とう。
取り合えず今は、ブン太と二人で教室に戻った。


放課後。
私はテニス部の練習を見に行った。普段来ないテニス部の練習に、私は色々と驚いた。あ、ブン太がいる。雅治は……
「仁王、部活来てないぜぃ」
いつの間にか私の前にいたブン太に、私は思わず後ずさりしそうになった。ていうか…え。
「部活、来てないの?」
「おう。HR終わったらどっか行った」
「まじで…んじゃ捜してくるっ」
ブン太が何か言っていた気がしたが、私はこの場から離れた。そして、雅治のいそうな所に向かった。


「やっぱり…此処に、いた…」
走ったせいで乱れた息を整えながら、屋上のタンクの所で寝ている雅治を見た。
雅治のいそうな所とは、屋上だ。雅治は、何かと屋上に来るから。でもまさか寝ているとは思わなかった。私は、雅治の寝顔を食い入るように見た。
「雅治…。可愛いなあ…」
本当に、可愛い。これでコート上の詐欺師って言われてるんだから、凄いよなあ。そんな雅治と私は幼馴染み。うわー…よく考えるとめっちゃ凄いことじゃないか。凄い雅治に私は告白された。私は、傷付けた。…別に雅治が私に凄く惚れてるって自惚れてるわけじゃないけど…ただ、雅治は遊び半分では告白しないと思う。いや、出来ないと思う。雅治って意外とヘタレだから。そんな雅治を私は…。
そんなことを考えてたら、段々瞼が落ちてきた。

「……何で、名前が泣くんじゃ」

そんな雅治の言葉は、夢の世界に入った私に届くはずもなかった。


「……ふあ…」
起きると、少し暗くなっていた。…今、何時だろ…。そう思って辺りを見渡すと、雅治がいた。
「な、何でいるの…?」
思わずキョドってしまった。だって驚いた。雅治は、私と顔も合わせたくないものだと思っていたから。もしそうだとしても、いてくれたことが、ただ嬉しかった。
この気持ちを雅治に伝えたいけど、口が開かなかった。だから私は、雅治の言葉を待った。
「…あいつと、付き合おうかと思う」
会話が噛み合ってないことは、この際気にならない。私は雅治の言葉に、頭を殴られ、そして心臓を鷲掴みされた気がした。
「あいつ、可愛えからのぅ」
雅治の顔は、見れなかった。どんな顔して言ってるのか知らない。知りたくない。
「性格とかも可愛」
「もういい!……分かった、から…もういい…」
何がもういいのかは分からない。ただ、それ以上聞きたくなくて、この場から早く逃げたかった。
下を向いてると涙が流れそう。でも上を向いたら雅治にこの顔を見られる。雅治に、こんな顔は見られたくない。
私は、下を向いたまま屋上から逃げた。
そんな私の後ろ姿を、雅治は私と同じような顔でずっと見てたなんて、知らなかった。知るはずも、なかった。
階段を下りているとき、ブン太を思い出した。
ごめん、ブン太…。私、失恋したみたい。今度はブン太の恋を応援するね。



れ違い
(好き、好き…!)((俺が、お前以外を好けたら苦労しない))

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