ブン太はどうして、そこまで仲良くない私の話を聞いてくれたんだろう。ブン太はどうして、抱きしめてくれたんだろう。ブン太はどうして、あんなに優しいんだろう。 窓際席の特権の、教室から見える空を見て、今日あれからブン太のことしか考えてないな、とふと思う。もしかしたら、このままブン太のことが好きになるかもしれないとも思った。そしたら嬉しいな、とも思った。ブン太を好きになれたら、この泣きたい気持ちもなくなるかな…?とも思った。 それでも心の奥で、それは逃げているだけじゃないか、と言っている自分がいることに気付いた。雅治を、好きでいたいと言う自分がいることに気付いた。 ブン太を好きになりたい。雅治を好きでいたい。両方叶えることが不可能な選択で、私は戸惑った。混乱した。 ただでさえ混乱した状態なのに、それを更なる混乱に追い込む事件が起きた。 一通のメールだった。そのメールには酷く驚いた。でも、それ以上に嬉しかった。私は返事をしようと指を進めた。が、すぐに止めてクリアボタンを押した。 「ごめん…」 新たに打ちはじめた文章を見ながら私のそう呟いた声は、誰にも聞かれることもなく消えていった。今日は、泣いてもいいよね…?誰に聞くわけでもないが、私はそう聞いて、静かに泣いた。 翌日。 教室は、いつもと変わりなかった。唯一変わったことといえば、雅治がいつも来ていた教室に今日は来なかったこと。女子は、明日は来るよねーと残念そうに言ってたけど、多分…いやもう来ないと思う。 私の思った通り、それからも雅治は教室に来ることはなかった。雅治ファンが多いこの教室は、普段より女子のテンションがずっと低かった。 雅治が来なくなっただけなのにこの様子だったら、もし雅治と私が付き合うことになりでもしたらどうなるのだろうか。そう、ふと考えると怖くなった。まあ、ありえない話なんだけど。 「名前!」 お昼になって友達と弁当を食べようとしたら、ブン太が来た。友達がこっちを向く。なぜか目が輝いている。ブン太は私の手を掴んだ。私は拉致された。友達は満面の笑みで手を振った。私は苦笑いを返した。 そして、ブン太に拉致されて着いたのは屋上だった。 「なあ。前にさ、話聞いただろぃ?」 「…うん」 「あの時は気の効いたこと言えなかったんだけどさ、俺考えたんだ」 ブン太が、わざわざそんなことをしてくれる理由が分からなかった。でも、嬉しかった。 「ん」 「小さい頃言ったことなんて覚えてないもんだろぃ。そんなこと考えても仕方ねえと思う」 「…うん。ありがと」 「しょうもなくて、ごめんな」 申し訳そうに言うブン太に、私のほうが申し訳なくなった。取り合えず、話題を変えたかった。 「ブン太は、好きな子とかいないの?」 私がそう尋ねると、ブン太は笑った。 「いるよ」 このブン太の笑顔はなんだか切なくて、これ以上は聞けなかった。聞いては、いけない気がした。 メール。 (言ったほうが、)(いいのかな) |