痛い。
指先を少し切っただけで、血も出てはいないのだが。
いつの間に切ったのかも分からないが一度気が付くとどうも気になってしまう。戦でついた大きな傷よりもこういう小さなもののほうが厄介だ。
「どうした」
声をかけられて、片倉の旦那が傍にいたことを思い出した。そりゃ旦那が書を読んでいて相手にされていなければこっちだって自分の世界に入りますよ。
「ああ…いや別になんでもないですよ」
「なんにも無くててめえはじっと指見ながら固まってたのか?」
「そんなに見てないでしょうが」
「そうか?てめえがあっ、と言ってから十数える暇はあったんだがな」
知らぬ間に声をあげていたらしい。どうもこのお人の傍では気がゆるむのだ、よろしくない。
「…あんまり暇なんでね、指先の小さな小さな傷が気にもなりますって」
「傷?」
「舐めりゃすぐにでも治るもんだよ」
言い終わりにぺろりと傷を舐める。と、ほぼ同時に舐めた手の手首を捕まれた。
「何その顔…怖いんですけど」
片倉の旦那はそりゃもう楽しそうに、例えるなら玩具を見つけたように笑っている。
「痛むか?」
「……ぴりぴりしてるだけですが」
「そうか…」
旦那は手を掴みなおすと、指を口に近づける。
「もう乾いたのか」
赤い舌が指を舐めた。
驚き手を引こうとするも強く掴まれていてどうにもならない。
ふっ、と笑った彼はそのまま、ふぅ、と息をかけた。
ぴりぴりぴりぴりと傷に響く。
むず痒くて仕方ない。
ああこれだからこういう小さな傷の方が厄介なのだ。
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2011/12/21
なんだかほもほもしたのをかけた気がする