※現代
メンソールの香りがする。今寝ているソファから香るものか、と再び眠ろうとして寝返りを打つ。
左側を下にしてソファに鼻を擦ったところで気付く、メンソールを吸うのは自分で、この家の住人は吸わない。そして自分はこの家ではタバコは吸わない。
睡魔が行ったり来たりしているなか目を薄くひらいた。
目の前に見えるのは自分の手のひら、ソファ、ソファと同じ高さの机、机の上にある自分のタバコ、灰皿。
すべてぼやけているが間違いは無いだろう。タバコは寝るときに邪魔だからと乗せたのだし。
んん、と小さく呻く。
気のせいか、と再び微睡む。
――留守番頼まれて勝手に寝てるとか俺様最悪じゃないかな。
きっとあの人なら呆れたように笑うだけだ。なんとも思われていない。
――悪い夢、みそう。
眠気をすこし追いやり、目だけで部屋をみまわす。
足元に目線をうつしたとき白い煙がゆらゆらとゆれているのが見えて、一瞬固まってからゆっくりとだるい体を起こした。
「起きたか。」
足の方のソファにこの家の住人がいた。
ソファを占領してしまっていたからだろう、床に座りソファに持たれてタバコを、ふかしている。
「……タバコ…」
「においで目ぇ覚めたってか?てめえのタバコだろうが。」
言い方はあらい。だが珍しく彼は笑っていて、どこか楽しそうにみえた。
メンソールやはり俺にはあわねぇなあ。そういいながらも彼はタバコを吸う。
穏やかに笑う彼にほう、自然と胸から空気をはく。
――ああ、もしかしたらこれは夢なのかな。
ぼんやり彼を見て思う。本当にこんな些細なことでも幸せなんだろう。
「タバコ、なんで…?」
「……ああ、てめえが吸ってるものがどんなものかと思ってな。」
「…なんで?」
眠たいんだろう。なんでばっかりじゃねぇか。
煙を吐きながら彼は笑う。
「………まだいい、寝ていろ。」
タバコを持っていない右手で軽く肩を押されただけで体はソファに沈んでいた。今度こそしっかりと目をとじ、眠る体勢に入った。
すぐさまかすみがかかる頭。
眠りに落ちる直前、馴染んだタバコの味が口内に広がった気がした。
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2011/10/21/
雰囲気的なものを目指しました。