頭上から気配を感じ、片膝立てて刀を握る。天井を睨んでいると、
「あー、疲れた!」
どさりと突然目の前に猿飛が降ってきた。
落ちてくるのを視界にとらえ、瞬きをひとつの間にそいつは仰向けで大の字になっている。
おい、声をかけつつ鞘に収めたままの刀で頭を叩く。
「痛い痛い」
「何しに来た」
「ちょっと休憩?」
寝転んだまま首を反らしてこちらに見せた顔は逆さまだがいつもの様にへらへらと笑っていた。
ふと、こいつの顔をこんなに近くで見るのは初めてだということに気付く。
「なに?」
刀を置き膝でにじり寄り逆さまのまま真上から見下ろす。
動こうとする猿飛の頭を両手で挟むと慌てたように手足をばたつかせる。
「ちょっと!なに?!なに!」
「なにもしねぇからじっとしてろ」
「なんもしないったってアンタ!」
「うるせぇ」
珍しい色の髪だとは前々から思っていたが、よくよく見るとこいつは睫毛も髪と同じ色をしていた。特殊な染料で染めているのかとも思っていたがどうやら染めているわけではないらしい。
「片倉の旦那!」
「ああ悪い」
「一体なんだって……いった!」
怒鳴る猿飛から離した左手が無意識に髪を一本引き抜いていた。
「なにさ!ほんとに…」
流石に怒ったのだろう、勢い良く座り直し頭を押さえてこちらを睨む。
その目と自分の指に絡まる髪を交互に見比べる。
やはり珍しい色だな。
手を伸ばして猿飛の顔に触れる寸前反射的に閉じられる瞼。そのまま瞼に触れて、
「痛い!」
睫毛を摘んで抜いた。
同時に手裏剣が飛んで後ろに刺さる音。
振り返って壁を確認して猿飛に向き直ると姿は無かった。
少しばかり残念に思う自分に驚き猿飛が出ていったであろう窓から外を見る。
明るい日が差していて畑仕事にもってこいだ。
人参でも、育ててみようか。
手元に残る髪と睫毛を日に透かすと、明るい橙色に変わったような気がした。
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2011/09/04/