陶磁器のようだ。とハワード・ライトは思った。それも希少価値の高いもので、名のある美術館に飾られるような。
この目でそんな物を見たことも、ましてや触れたこともないのに、この指で触れる肌はとても同じ男とは、としうえのそれと信じられなかった。
「犀賀」
呼ばれた男が瞬きをひとつ、次いでゆるりと視線があった。常通りの彼であるならこの指が頬に触れる前に叩き落とすに違いなかった。出会ってそう時間がたっているわけではないのに確信があった。犀賀は、プライドの高いシェパード犬のようだ。飼い主以外になつかない飼い主に忠実な。
けれど自ら飼い主から離れて共に居る。それはきっともう生きている人間がお互いしか居ないと感づいているから。
犀賀は寂しいだけだろう。
死ぬに死ねない身体で、永遠をこの空間で過ごすその恐怖感を紛らわしたいだけだ。
「犀賀一緒に行こう。美耶古も一緒だから。」
「…美耶古様はお前にしか見えないのだろう?」
「美耶古は居るよ。」
犀賀の手を引き立ち上がる。美耶古と目配せして、次に向かう場所へ歩みを進める。
美耶古がいるから、正直犀賀が居なくても正気を失ったりしない自信がある。でも日本人は繊細で、周りの人間を気にするらしい。
その証拠に引きずるようにだが、犀賀は手を振りほどかずについてくる。
目的を失って犀賀は落ちた。
あの凛とした空気は変わらないが覇気が、気力が、失われた。
歩き続けて歩き続けて、疲れたら休んで、それはいい。休み過ぎてはいけない。犀賀かますます落ちてしまう。
あの日のように、叫びもがいてしまうから。
犀賀がたたらを踏んだ。
どうやら今回は休みが少し長かったようだ。今度はどんな風に宥めよう。
「……殺してくれ、ハワード…」
頼む。犀賀を殺せるのは自分以外いないのだ。しかしそう言われても望まれてもそんなことが出来るわけがない。
自分にとっても犀賀はただ一人、触れられる、会話ができる存在だ。
世界が羨む陶磁器を、自分一人のものとできた喜びを知るのは肉体を失った少女だけ。
さみしいんだね、あなたも。
日本語で美耶古が呟いたが意味をしることはできなかった。
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2012/09/16
うりえんをハワードにとられて自害できない犀賀先生
自分のさみしさを犀賀先生のせいにするハワード
ハワ犀(警報NT)