小説 | ナノ

※パラレル
※ちょっと長い


ああ頭が痛い。
深く息を吸って、吐く。
病院の廊下、椅子に座って頭の後ろで指を組んだ。袖口からは嗅ぎ慣れた薬品の匂い。それが今は無性に気にくわない。

「灰原」

コツン、と正面で小さく革靴がなる音。目を開かなくても分かる、霧島だ。

「どうしたんだお前。」
「……帰ってくれ」

霧島の低く、高く響く声とは対照的に俺の声は擦れるように喉の奥で高く、低く絞り出た。
一度コツ、と革靴がなって、霧島はそこから動かず黙り込んだ。
ハア、と聞こえた音は自分の口からだった。



姉さんが大事だ。何よりも、誰よりも。そして姉さんと同じくらい大事なのは亞夜子。俺の血肉を分けた愛おしいむすめ。亞夜子が俺を父親と知らないとしても。
二人とも俺のすべて。

二人の病が治るのなら俺のできることはなんだってするつもりだ。

そう例え罪を犯してでも、

「灰原、あまり思い詰めるな」

アンタは心が読めるのかといいたくなるタイミングで声が届く。口癖でもある勘でも働いたのか。

「アンタには関係ない…」
「…関係ない、か。…灰原俺は刑事時代の癖でな、細かい事まで見てしまうんだ。…人が、隠しておきたいものも。見つけてしまう。机に何気なく置いてある書類の走り書きも、な。」

書類、走り書き。はっとした。自分の意志とは関係なく固まる体、開く目。それに気付かず続けられる。

「俺は、もう、刑事じゃない。だからなにか起きる前に出来る事をしたい。…まあ何も起きないのが一番だが、」

起きてしまってから出来る事が減ってしまったのだから。と霧島は呟く。
霧島は見つけたのだろう。走り書き、

これでうまくいけば姉さんに

失敗すれば患者の容体は悪化するだろう。それは人体実験を意味する。人の道を外れるんだ。
医者でもない他人に、霧島に言われて決意が揺らぐ。わかっている。皆同じように苦しんでいることぐらい。わかって、いる。でも俺は二人のためならなんだって。
組んだ手に爪が食い込む。

「頼む。頼むから、お前がお姉さんを思う気持ちの少しだけでいい。他の患者やその家族のことを考えてやってくれ。」

たたみかけるように霧島が言う。
視界の端に革靴が見える。手を解き、ゆっくりと視線をあげていくと心配そうな顔をした霧島と目が合った。

「……わかっている…。」
「灰原」
「俺は、俺は」
「灰原。俺に出来ることはないか…?」

なんでアンタがそんな顔をする?お人好しめ、放っておけばいいことじゃないか。関係ないと言ったのに。ああ、アンタは実験台にされるかもしれない人間も、俺達も、見捨てられないのか。どっちも取れないのは俺も霧島もかわらない。

なぜか霧島は大丈夫だ、と浮かんだ。
俺が座ってくれと言ったことに逆らわず、隣に静かに腰をおろした。


「…霧島…どうしていいか正直わからない…」
「……」
「考えるのも、疲れた。」
「…そう…だな。」
「だから今だけ…、アンタと二人の時は忘れてもいいかな。」

逃げ場を作ることを姉さん達に許しを請うように。
吐き出してしまうと気が少し楽になったきがする。
霧島に向かって笑ってやったら安心したように霧島も笑った。
借りをつくったようなのが悔しくて笑う霧島の髪を引いて耳に噛み付いた。

いっ、と縮こまった霧島の服からする日の匂いは自分の薬品の匂いをわからなくした。






――――――――――
2012/01/05

うーん詰め込んだら収拾がつかなくなって焦りました
耀ちゃんが別人ですみません




耀長(零 月)
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