―――ふわり、と身体が空に投げ出された。
透き通る青色のグラデーションが視界を占領する。大小さまざまな色合いに瞬く星たちが、巨大な真白い月を取り巻いて、ゆっくりと揺れていた。
ぼんやりと何処で得たかも分からない知識が脳裏を掠める。星の隙間を縫うように漂うあれは、塵だ。恒星が爆発を起こして散りばめられた、断末魔のような………。
粉雪のように光の粒子が降り注ぐなか、右手の指先に綿菓子のような質量を持った雲が掠めた。かすかに押し返されたあと、ふっと消えた柔らかな感触。
腕を動かそうとしてみて、それが出来ないことに気付いた。
―――あぁ、俺、夢を見ているんだ。
そうと分かれば何も恐ろしいことはない。
絵物語の挿し絵をそのまま切り取ったような不思議な美しい景色。
宙に浮いたままの手足をふわりと伸ばして、大きく呼吸をしてみた。柔らかな空気に包まれ支えられている心地よい感触に、そのまま身を任せて―――。
―――どさっ
「いっ―――!?」
あまりに突然の事に受け身一つもとれぬまま、天草 透は地面に叩きつけられた。腰から背にかけてを強打して一瞬呼吸が止まる。脊髄反射で頭を庇った腕の隙間から声にならない呻き声を上げた。
なんだ、なにがあったんだ。
痛みに呆然としながら、自分が『落ちてきた』らしい空を見上げる。滲んだ涙を拭ってから、もう一度見上げる。
木だ。
それもかなり背の高い大樹だ。自分がこうして生きているのは、目の前に広がる密集した木の枝がクッションになったからなのだろう。
もしここが森でなかったら……ろくに働かない頭で「もし」の結末を考えてしまいゾッとする。
覚えているのはあの美しい夢の中。
微睡むような、文字通り夢見心地で目を閉じた途端、青空の中で柔らかく身体を支えていた空気がすっと薄くなった気がした。その後の突然の風圧と衝撃と痛み、枝の折れる音だけが、やけに現実味を帯びて記憶に残っていた。
息をする度に痛む背中が、目を逸らすな、これは現実だと叫んでいるようだ。
木々の隙間から覗く青空。
そこにあの白い月と星々の影はなかった。
死にそうな程痛かったが、幸い、骨折は免れたようだった。
腕に体重を乗せておそるおそる上体を起こす。シャツをちらりと捲ってみると、早速色の変わり始めた皮膚が覗いた。内出血で人は死ぬのだろうか………深く息を吐く。
「なんで、こんな所に森があるんだよ……。」
そもそも、俺はどこから落ちたんだ?
当たり前だが学校帰りの通学路に崖なんて無いし、それどころか落ちるようなマンホールすら見当たらない平坦な道だ。夕暮れ独特の色合いに染まった町並みを思い出して、首を傾げる。
それにあの不思議な夢は一体なんだったのだろうか? 関係がないとはとても思えない。
いや、その前に、何で青空なんだ。時間が巻き戻っているとでも言うのか。
溢れ出した疑問と不安が重く募っていく。
(俺、とうとう頭おかしくなっちゃった、とか……?)