「此処が、今日からお前の部屋だよい。」

 案内役を買って出てくれたらしいマルコに指し示された一室。
 ガランとした広い部屋の中は必要最低の物しか置かれていなくて、暫く使われていなかったのか、丸い窓から射し込む光に埃がちらちらと反射していた。

「この部屋は2番隊の隊長部屋なんだが、今は誰も使ってねぇ。好きに使って構わねェよい。」
「えっ……、いいんですか?」

 おどおどとした様子で問い掛ける綱吉に、マルコは肩をすくめて笑った。

「ここ以外の部屋は物置になっちまっててねぃ……誰かが新しく隊長になればそっちに移って貰う。」
「分かりました。」
「暫くツナの仕事はこの部屋とその物置……倉庫の掃除になるよい。掃除道具は倉庫の方から持って来い。水汲み場は行き掛けに教えるよい。」

 はい、と返事を返してもう一度部屋中を見回した。埃っぽいといっても積もる程ではないので、1、2時間もあれば綺麗になるだろう。
 パタンと扉を閉めると、それを確認したマルコが歩き出す。道順を頭に叩き込みながら、綱吉はその背を見失わないように追って歩いた。






 首筋がじりじりする。

 その感覚に耐えられなくなって誤魔化すように手で擦った。並盛に居た頃のように殺気こそ籠もってはいないが、あちこちから向けられる強い視線が気になって、マルコの話がいまいち頭に入ってこない。
 ……それでも誰も近付こうとしないのは、有り難いけれど。

「……チッ。」

 突然前から聞こえた舌打ちにビクッと身体を跳ねさせると、悪い、お前にじゃないよいと苦笑される。

「どうにも新しい末っ子が気になるらしいねい。悪気はねェんだよい。許してやってくれ。」

 急に近づく事はないからねい、と言うと、そこでマルコは足を止めた。
 大きな扉が開けられ、急に太陽光に照らされた綱吉は思わず目を庇った。眩しさが収まると今度はマルコの背中越しに空と海が目に飛び込んでくる。

「ここが甲板だよい。」
「――――。」

 声が出なかった。

 久し振りに感じる風が綱吉の頬を撫でる。潮の匂いと波の音、銀色に輝く水面。
 地平線すら曖昧にしてどこまでも続く2つの青が、とても綺麗に見えた。

「どうしたんだい?」
「いえ……この世界は、本当に綺麗だと思って。こんなに澄んだ空と海は初めて見ました。」
「そうかい。」

 人の多い甲板の中心を避けて、マルコは手すり沿いにゆっくりと歩く。

「グランドラインは何でもありな海だよい。綺麗なものにも不思議な現象にも事欠かねェ。……せっかく『世界最強の男』の船に乗ってんだからねい。安心して、色々な景色を見つければいいよい。」
「――はい!」

 ああ、嬉しさでどうにかなってしまいそうだ。
 胸の奥に生まれたふわふわとした温かいものを感じて、綱吉は柔らかく笑う。

 その時だった。




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