―――あれから、色々な事があったのだな。



―――私達の力が及ばないばかりに……]世には辛い思いをさせてしまった。



 そう言って頭を下げる、半透明の青年。時折ちらちらと輪郭が輝くのは綱吉の炎を媒介としている為だろうか。

 指輪に触れた途端に姿を表した初代に飛び起きた形のまま固まっていた綱吉は、ここまできてハッっとしたように慌てだした。

「あああ頭を上げて下さいT世っ!!」
『私達は何がなんでも]世を護らなくてはならなかったのだ。本来謝って済む問題ではないのだが………それでも、謝らせて欲しい。本当にすまなかった。』
「そんな……っ、T世達はなにも悪くありません!」

 あの少女の手に渡った大空の『オリジナル』ボンゴレリングは形を変え、3日としない内にその輝きを失っていた。
 頑なにリングに指を遠さなかった少女だったが、彼女に大空の炎が少しでも出せれば、それに関係なく無理やりにでも離れようとしていただろう。
 それが分かっている綱吉には、項垂れるT世を責める事なんて、到底出来なかった。

『]世……いや、今は綱吉と呼んだ方が良いだろうな。』
「――、はい。そうして貰えると嬉しいです。」

 ………T世には申し訳ないが、もう自分はボンゴレ十代目でも、関係者でもない。

『綱吉、もうこの場所が生まれ育った世界とは違うことに気が付いているな?』

 こくり、とひとつ頷く。

『この世界に大陸はなく、海と島で構成されていて、海賊と海軍といった者達が権力を持っているようだ。』
「……海賊……。」
『ここも海賊船のようだな。』
「ああ、それはなんだか納得出来ます。」

 商船とも客船とも違う様子に不思議に思ったことがあったが、なる程、海賊船だったのか。
 でも、なんで海賊がこんなに親切にしてくれるんだろう?
 綱吉の持っている海賊のイメージといえば、略奪や殺人を繰り返す粗野な男たちで、アリアやマルコとは全く結び付かない。

「ここは横の時空軸………平行世界なんでしょうか?」
『いや………マーレは関わっていないだろう。ここは書いて字のごとく、異なる世界と思っていい。』

 彼がそういうのなら、間違いないのだろう。マフィアの業とは全くの無関係の世界。まるで夢のような話だ。
 そんなことを考えていると、ふと目の前のT世の姿がぶれた。心なしか炎が色褪せても見える。

「あ……炎が足りませんでしたか?」
『いや、単にこの世界では維持が難しいだけだ。そろそろリングの中へ戻る。』

 T世の真っ直ぐな眼差しが綱吉に向けられる。

『ここに来る時に他の歴代達は弾かれてしまったようで、今は私しか居ないが……いつでも力になろう。遠慮せずに呼び出してくれ。リングも、綱吉の思うように使って欲しい。』

―――ああ、それと。

 そう言ってすんなりと伸びた指先がベッドサイドを差した。

『衝撃に耐えかねて動けなかったのだな。炎の気配に目が覚めたらしい。』
「ナッツ――?」

 ――カタン。
 まるで返事をするように、匣が小さく音を立てた。

「ナッツ……良かった。ちゃんとそこに居るんだね。」
『……リングの中から……る限り、ここには信頼……も良い人間が多いよう―――――。』
「――T世?」

 急に混じる雑音。
 眉を寄せた初代の姿にノイズが走り、掠れが酷くなり……そのままかき消されるように見えなくなってしまう。
 どうやら限界が来たらしい。

「……………。」

 まるで今まで白昼夢を見ていたように、呆気なく消えてしまったT世の姿。
 それでも綱吉は胸の底に温かいものが満ちるのを確かに感じた。

「……ありがとうございました。」

 立ち直りかけている綱吉に、人気のない時を見計らって出てきてくれた。
 そんなT世の心遣いが純粋に嬉しかった。





「ナッツ、」

 そっと手に取った匣から、喜びの感情が伝わってくる。
 今まで無機質な冷たさしか返ってこなかったのが嘘みたいだ。そのまま自然に胸に抱え込んで、ポスン、とベッドに身体を預ける。


「今は出してあげられないんだ。でも……いつになるかは分からないけど、また一緒に―――。」






「――ツナ?」

 物音一つしないことに不安を覚えたアリアは、そっとカーテンの中を窺った。
 ベッドの上で身体を丸めて、くうくうと寝息を立てて眠るツナ。倒れた訳ではないと分かって、アリアは安堵の息を零した。

 リハビリも頑張っていたから、きっと疲れたのだろう。
 寝息を立てる少年を起こさないように、アリアは静かにその場を離れた。





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