こんな真夜中に
「シンジ!プレゼントもらいにきたわよ!」
「……ん……」
「もう…このあたしがわざわざプレゼントをもらいにきてやったんだから起きなさいよ!」
何か知らないけど誰かが僕の近くでわーわー騒いだと思ったら、体をその誰かにゆさゆさと揺すられた。それで重い目蓋をゆっくりと開けると、襖の向こうから入ってくる光のせいで逆光になって真っ黒な誰かがまだ僕のことをゆさゆさしてる。
えっ…何?誰?何で僕のことゆさゆさしてるの…?あっ、そうか…もう朝なんだね。それで誰かが起こして……って、あれ?時計の針が両方とも12を指してるけど…えっ?もしかして、まだ朝じゃないの…?じゃあ、この人は何で僕のことを起こそうとしてるの…?
そんな軽く混乱している僕が「…何…?」といまだに僕をゆさゆさしてる人に言うと、そのゆさゆさの人は僕をゆさゆさするのをやめて仁王立ちをすると「だーかーらー、プレゼントよプレゼント!プレゼントをもらいにきたってさっきから言ってんでしょ!」って大きな声で言ってきた。
あぁ…この仁王立ちはアスカだ。逆光で真っ黒だけど、このシルエットでわかる。アスカだ。アスカが僕をゆさゆさしてたんだ。そっか…そっかそっかぁ…
…で、プレゼントって何…?
「…プレ、ゼント…?」
「そうよ、プレゼントよ!」
「……何の…?」
「なっ!?あ、あたしへのプレゼントに決まってんでしょ!」
「…アスカへの…?何で…?」
何でアスカにプレゼントを要求されるのかいまいちよくわからない僕と、そんな僕を見て「えっ…本当にわかんないの…?」と悲しそうな声の逆光アスカ。
か、考えるんだ…考えるんだ、僕。アスカが僕にプレゼントをねだるわけを、アスカがこんなにも悲しそうにしているわけを考えるんだ…!
寝起きで働かない頭をなんとか働かせてうんうんと考えるあいだにも、アスカは「そう…」とか「わかんないんだ…」ってぼそぼそと震える声で言ってて…
…どうしよう…考えても考えてもわからないどころか、こんな状況なのに眠気がすごくて目蓋が……でも、このまま寝たらアスカが…アスカが…
……あっ…そうだ。アスカを寝かそう。アスカを寝かしてそのあいだにゆっくりと考えればきっとアスカがプレゼント!プレゼント!って騒いでたわけがわかるはず…
「…アスカ…」
「何よ…」
「こっち…」
「は?」
「ここ…おいで…」
「んなっ?!」
閉じそうになる目を必死に開けながらタオルケットを捲ってポンポンとベッドを叩くと、それを見たアスカは「バッ…!バッカじゃないの!?」「な、何であたしがあんたなんかと一緒に寝なきゃなんないのよ!」「つーか、もしかしてそれがプレゼント?ふざけんじゃないわよ!」ってわーわー騒いでたけど、部屋の外の電気を消すために眠い目を擦りつつベッドから降りてやっとのことで電気を消して襖を閉めたあと、ベッドにダイブしようとしたら…あれだけやだやだ騒いでたアスカがベッドのすみっこで横になってた。
やっぱりアスカも眠かったんだね。なのに、それを僕に悟られないようにやだやだ言ってたんだよね?まったく…素直じゃないなぁ、アスカは。
でも、その枕は僕のだから占領されると困るというかなんというか…うーん……あっ、腕枕!アスカには僕の腕枕で我慢してもらおう。うん、申し訳ないけどそうしてもらおう。
「アス「な、何よ!べ、別にあんたと寝たくてここにいるわけじゃないんだからね!あんたが勝手に襖閉めちゃうから…だから仕方なくここで寝るだけなんだから!」」
「うん…わかってる。そんなことよりアスカ…腕枕してあげるから、その枕僕に貸して…?」
やっと目が慣れてきたみたいで、真っ暗なこの部屋でアスカが僕を見ながら口をパクパクしてるのがわかる。空気でも食べてるのかな?なんて思いつつアスカと同じようにベッドに横たわった僕は、腕枕しやすいようにアスカにくっついたあと足元でくしゃくしゃになってるタオルケットをアスカにかけてあげる。
ここまでしても何も言わずにパクパクしてるってことは、僕が枕を使ってもいいってことだよね?そうだよね…?
というわけで、枕の隙間に左手を入れてアスカの頭が僕の腕に乗ったところで枕をそっと取る。そしてスポッと自分の頭の下に。
パクパクアスカは僕が腕枕をした途端、うーうーアスカになったよ。よくわからないけどうーうー唸ってるんだ。
何か…アスカって動物みたい。撫でたら鳴くかな…?
「い、一体何が目的なのよ…」
「…目的…?」
「そ、そうよ!こんなことであたしが喜ぶと思ったら大間違いなんだから!」
「んー…別にアスカが喜ぶとは思ってないけど……僕は嬉しいかな。アスカって柔らかくて、髪の毛もふわふわしてて気持ちいいし…それにいいにおい…」
「ひゃん!」
頭を撫でても鳴かなかったアスカが、くんくんとにおいをかいだらひゃん!って鳴いたよ。ふふっ、ひゃん!だって。かわいいなぁ…小動物みたい…
……って、こんなことしてる場合じゃなかった。早いとこアスカを寝かしつけないとプレゼントの意味を考える前に僕の目蓋が限界を迎えちゃうよ…
だけど、正直アスカが寝たら考える間もなく僕も寝ちゃいそうというか…アスカが起きてようが寝てようがどっちにしろゆっくり考えるなんてできないというか………うーん…ダメもとで聞いてみようかなぁ…
…いや、それはさすがにまずいからヒントくらいにしておこうかな…
「も、もう!変なことすんじゃ「ねぇ、アスカ…ヒントちょうだい?」」
「…えっ?ヒントって?」
「ほら…プレゼントのやつ…」
「あぁ…あれね。別にいいわよ、もうもらっ「よくないよ…だってアスカ、悲しそうだった…だからヒントちょうだいよ。ねぇ、アスカ…ヒント…」」
諦め気味のアスカにヒントヒントってうるさく言うと、口の端をムズムズさせたアスカが「…今日は何月何日?」って僕に聞いてきた。それで僕が「今日は…12月3日?」って答えると「もう日付かわった!」って耳元で大声を出されてぎゃっ!ってなったんだけど、そのおかげでアスカが何で僕にプレゼントを要求したのかがわかったよ。
うん、そうだね。今日はアスカの誕生日だもんね。プレゼントほしいよね。
…でも、いくら日付がかわったからってこんな真夜中にプレゼント!って言われてもわからないよ、アスカ…
「…今日は12月4日…アスカの誕生日、だね」
「ふんっ…遅いわよ、バカシンジ」
「うん…ごめん…すぐにプレゼントあげ「ううん、今はいい」」
「えっ…でも「いいって言ってんでしょ!そ、それよりもう寝るわよ!明日も学校なんだから」」
そう言って僕の胸にぐりぐりと顔を埋めるアスカ。僕はそれを見て、やっぱりアスカって小動物みたいだなぁなんて思いながらもそんなアスカを抱き枕のようにぎゅっと抱きしめる。
あぁ…柔らかいなぁ、アスカは……抱き枕もこんなかんじなのかな?でも、抱き枕は僕がぎゅってする度にビクッとしないから…違うのかな?
…僕が買ったサルの抱き枕もアスカみたいに柔らかかったらいいなぁ……そしたらきっとアスカも気に入ってくれるはず…
「…アスカ…」
「…何…?」
「誕生日、おめでとう…」
「ひゃあ!」
今は渡せないプレゼントの代わりにしたキスでアスカがかわいく鳴いた。
そんなアスカが本当にかわいくてかわいくて、唇でもわかるぐらいの柔らかほっぺに何度も何度もキスを贈る。
おめでとう、アスカ
誕生日おめでとう
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