ある男子の疑問と企み


みんなは僕のことを鈍感だって言うけど、そんなことはないと僕は思ってる。だって、もし僕が鈍感だったらアスカがここ最近ずっと僕を見てるってことに気付くはずがないもん。だから、そのことに気付いた時点で僕はもう鈍感なんかじゃないんだよ。むしろ、アスカの視線に気付くことができた僕は敏感なんじゃないかな?
うん、そうだよ。僕は敏感なんだよ。敏感すぎて逆に鈍感に見られてるんだよ、きっと。

……ん?敏感すぎて逆に鈍感…?あれ?何か矛盾してるような…



…そんなわけで、僕はここ最近毎日アスカにチラチラと見られてる。
最初は何か言いたいことがあるのかな?と思って何?どうしたの?って聞いてたんだけど、その度にアスカが顔を真っ赤にしながら「な、何でもないわよ!」とか「あ、あんたには関係ない!」って怒るから今はアスカの視線を感じても何も言わないようにしてるよ。その代わり、アスカのことをチラチラと見るようにはなったけどね。


えっ、何でチラチラ見るようになったのかって?うーん…何でだろう?話しかけると怒られるから、かな?
まぁ、ジーッと見ると「な、何よ!何なのよあんた!」ってこれまた顔を真っ赤にしながら怒るからどっちにしても怒られることには変わりないんだけどね…

…アスカ、僕のこと嫌いなのかなぁ…




そんな元々怒りっぽいけどさらに怒りっぽくなったアスカのことをトウジとケンスケに話して、どう思う?やっぱり僕って嫌われてるのかな?って相談するも「センセは鈍感やからなぁ」とか「まったく…あんなにわかりやすいのにどうしてわからないんだよ、お前は」って言われてこのふたりに相談したことを後悔したり、委員長に「あの…アスカも悪気があるわけじゃないのよ。だから、アスカのこと嫌いにならないであげて?」ってお願いされたり、相変わらずアスカは僕のことをチラチラと見てきて僕と目が合うとぷいってしたり、綾波も相変わらずにんにくラーメンはチャーシュー抜きだったり、洗濯はアスカのパン……みんなの洗濯物がきれいになるから別に苦ではないけど他のことはしたくないなぁって思ったり、ほぼ毎日行われるシンクロテストの前後に見られるアスカ達のプラグスーツ姿にちょっとムラッときたりで割と忙しい毎日を送ってる僕だけど、やっぱりというかなんというか…アスカのあの視線の意味が気になってね、暇さえあればそのことばっかり考えてたんだよ。
それでね、ついにわかっちゃったんだ…アスカが僕を見る本当の理由が。



「はぁ…まさか、アスカが僕のことを監視してるなんて…」

…ミサトさんが頼んだんだと思うんだ。ミサトさんは前にサードチルドレン監督日誌ってやつをつけてたから。でもそれが僕にバレて大変なことになったから、自分でやるのは諦めて家でも学校でもネルフでも一緒にいるアスカに僕のことを監視して定期的に報告するように言ったんだよ、きっと。
…いや、僕を監視してるからアスカは家でも学校でもネルフでも僕と一緒にいるんだよね。そうじゃなかったら僕と一緒になんかいてくれるわけないもんね。こんな何の取り柄もないうえに暗くてダメダメな僕となんか…


…って、落ち込んでる場合じゃないよね。これからどうするか考えないと。
えっ?結構ひどいことを一度ならず二度までもされてるのに何でそんなに普通でいられるんだ、だって?いや、全然普通じゃないよ、むしろ、裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!父さんと同じに裏切ったんだ!って叫びたいくらいには怒ってるよ。でも、そんなことしたら僕が監視に気付いてるのがバレて復讐的な何かをしようとする前にミサトさん達にうやむやにされておしまいでしょ?だから怒りを押し殺してるんだよ、碇だけに。

つ、つまり僕を裏切ったアスカやミサトさん達に一泡吹かせてやろうってことだよ。
ふんっ、僕だってやるときはやるんだからな!



「ね、ねぇシンジ?」

「わっ!」

「…何驚いてんのよ、あんた」

「べ、別に驚いてなんか…」

「…ま、いっか。それより今日の晩ご飯何?ハンバーグ?ねぇ、ハンバーグでしょ?ハンバーグにしなさいよ」

僕がアスカにとってよくないことを考えてるのを察知したのか何なのか知らないけど、いつものタンクトップに短パン姿のアスカが僕に話しかけてきた。
あぁ…そういえば僕、晩ご飯の支度をしてたんだった。いやぁ、すっかり忘れてたよ。晩ご飯のことを思い出させてくれたアスカに感謝しないと…って、おい!感謝なんかしちゃダメだろ、僕!アスカは裏切り者なんだから!

…だけど、もしあのまま考え事をしてたら晩ご飯の時間までに作れてなかっただろうしやっぱり感謝しないと…でも、アスカは現に僕を裏切ってミサトさんと通じてたわけだし…うーん…


…あっ、そうだ。いいこと思いついた。アスカにうんと優しくしよう。そうすればアスカのことだから「ま、まぁ悪くないわよ、あいつ」って素直じゃない報告をミサトさんにするだろうし、そんな報告を聞いたミサトさんは「アスカがそんな報告をするなんて…よっぽどシンちゃんの行いがよかったのね!」って気分をよくしながら父さんにそのことを報告するだろうし、それを聞いた父さんは「そうか…シンジがそこまでいい子になっているのなら」って僕と一緒に住むことを決心してくれるだろうし…それにこれならアスカに感謝しても別にダメじゃないもんね!
よし、そうと決まれば…!



「ア、アスカ」

「な、何よ?もしかしてハン「き、今日はアスカの大好きなハンバーグだよ」」

「えっ、ほんと!?やった!…って、ああああたしは別にハンバーグなんか「あの…アスカのためにおいしいハンバーグを作るから待っててね」」

「…えっ?あたしの、ため…?」

「うん、アスカのために腕によりをかけて作るよ」

というわけで、まずはアスカの大好物を作ることから始める僕。まぁ、元々今日はハンバーグにする予定だったからそんなことができたんだけどね。ふふっ、今日の晩ご飯をハンバーグにしてよかった。
そんなことを思いつつハンバーグを作るためにいろいろと準備をし始めた僕の服の裾を誰かが引っ張る。この場でそんなことができるのはもちろんアスカしかいないわけで…

何だろう?ハンバーグにかけるソースのことかな?それともハンバーグの付け合わせのこと…?



「ア、アスカ…?」

「…ねぇ、本当?」

「えっ?」

「本当にあたしのために作ってくれるの…?」

「う、うん…そのつもり、だけど…」

え、えっと…僕の服の裾を控えめにくいくいと引っ張りながらうるうるした目で僕を見るこの真っ赤な顔の女の子は誰?というか、このかわいい生き物は何?ペット?ペットなの?じゃあ、飼っていい?このかわいい生き物飼っていい?僕、ちゃんとお世話するよ。いっぱいかわいがるから…ねぇ、飼ってもいいでしょ?
…そんなよくわからないことをぐるぐると考えてるあいだにもアスカは僕のことをうるうると見つめ続ける。

か、かわっ…かわいすぎる…!



「…かわいい…」

「え、えぇっ?!」

「…ん?どうしたの、アスカ。そんな大きな声出して」

「えっ…!?あっ…その…えっ、あんた…自分が何言ったかわかってないの…?」

「…僕、何か言ったっけ?」

「はぁ…あんたってやつは……もういい、何でもない」

「?」

結局僕が何を言ったのかアスカは教えてくれなかったけど、僕の作ったハンバーグをおいしそうに食べてくれたあと「シ、シンジ…あの、あんたが私のために作ってくれたハンバーグ…その…す、すっごくおいしかったわ。だから…ありがと」ってもじもじと顔を真っ赤にしながら言ってくれたから…まぁいいや。
でも…いきなりどうしたんだろう?いつもなら僕が味はどう?って聞いても「まぁまぁね」しか言ってくれないのに。やっぱり、僕が優しくしたから?だからアスカも僕に優しくなったのかな…?

もしそうだとしたら……うん、アスカにもっと優しくしよう。もっともっと優しくして、あのかわいいアスカをもっと…むふふっ。







「シ、シンジ…?」

「な、何?」

「こ、この手…」

「あっ…こ、これはアスカのために繋いでるんだよ」

「あたしのため…?」

「う、うん。アスカが転ばないようにって…い、嫌かな?」

「う、ううん…シンジがあたしのためにしてくれてることだから、嫌じゃない…」

あの日から僕はアスカに優しくするようになった。
アスカは『アスカのために』って言われるのが好きみたいで、僕がそう言うといつも僕の服の裾を掴んではにかむんだよ。それがもうかわいくてかわいくて…僕はそんなアスカが見たくて毎日アスカのためにいろいろしてるのかもしれない。


えっ、監視?裏切り?何それ?アスカがそんなことするわけないじゃないか。
まったく、誰がそんなくだらないことを…



「あっ…ねぇ、アスカ。今日は何食べたい?」

「別に…何でもいいわ。シンジがあたしのために作ってくれるなら何でも…その…す、好きだから…」

「…っ…」

ねぇ、アスカ。僕、おかしくなっちゃった。アスカがそんなこと言うから心臓がおかしいくらいドキドキし始めて、体が…特にアスカと繋いだ手が燃えるように熱いんだ。
もうアスカのせいで僕の体、おかしくなっちゃったよ。
だから、責任取って僕の彼女になってよ。それで大人になったら僕のお嫁さんになってよ。

もうそんなことしか考えられないくらい、君が好きだよ。



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