碇、ブリーフやめるってよ


※オリキャラ注意




僕は激怒した。とにかく激怒した。だって、僕以外で唯一パンツがブリーフだった佐藤くんが、密かにブリーフ同盟を結んでいたあの佐藤くんがいつものブリーフではなくトランクスを穿いていたからだ。
僕のクラスの男子のほとんどはトランクスで、それ以外の男子はボクサーパンツか僕みたいな白いブリーフなんだ。ここでまず少数派はからかわれることになるんだけど、ボクサーパンツを穿いてる男子をからかうやつはいない。それはなぜか?ほら、ボクサーパンツって何かおとなっぽくてかっこいいでしょ?それでからかわれないんだよ。


そんなわけで、少数派なうえにダサいブリーフを穿いてる僕や佐藤くんにその矛先が向く。
もうね、すごいんだよ。体育の時間になる度に「碇ー、お前まだそのダサいブリーフ穿いてんの?」とか「ブリーフとか小学生かよお前」とか。トウジやケンスケまでからかってくるからもうほんと嫌になっちゃうよ。

だけど、それでも僕がブリーフを穿き続けられたのは佐藤くんがいたから。佐藤くんがブリーフを穿いていたからなんだ。


佐藤くんとはあまり話したことなかったんだけど、僕と同じブリーフ派ということで親近感を覚えたんだよね。きっと、佐藤くんもそうだと思う。体操着に着替えてるときに目が合うとふっと優しく笑いながら頷いてくれたから。
そんな佐藤くんがいたから僕は中学生になってからもブリーフを穿き続けることができたんだ。

でも、それももう無理かもしれない。だって、佐藤くんがトランクスを穿いたから。僕を…僕を裏切ったから…!



「裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!クラスの男子と同じに裏切ったんだ!」

顔を枕に押し付けておもいっきり怒鳴る僕。もしかしたらアスカに「うるさいっ!」って怒られるかもしれないけど、そんなの関係ない!僕は怒ってるんだ!トランクス派に堕ちた佐藤くんに怒ってるんだ!
だけど、そうやって怒れば怒るほど何か悲しくなってきて…結局、顔に押し付けた枕を濡らしちゃった…

ブリーフ派がもう僕だけしかいないなんて…そんなのってない…


……うん、本当はわかってるんだ。僕もトランクスに替えればいいんだってことは。そしたらみんなにからかわれずに済むってことはわかってるんだよ。
でもダメなんだ!トランクスはダメなんだ!あんな風通しがよすぎるパンツ、僕には穿けないよ!絶対ぷらぷらして落ち着かないもん!無理!無理無理!股間にフィットしてないと無理だよ!


えっ?じゃあボクサーパンツにすればいいだろって?ダ、ダメだよ!僕なんかがボクサーパンツを穿いたら「碇のくせに生意気だぞ!」っていじめられちゃうよ!そんなのやだよ!パンツがきっかけでいじめられるなんて嫌すぎるよ!



「…どうすればいいんだろう…」

僕の涙でぐしゃぐしゃになった枕を放り投げて、見慣れた天井を見つめる。
本当はこのままずっとこの穿き慣れたブリーフを穿いていたい。でも、そんなことしたら佐藤くんがトランクス派になって孤立無援な僕は前以上にからかわれることになる。それはなんとしても避けたい。だけど、トランクスは穿きたくない。ブリーフがいい。ブリーフじゃないとダメなんだ。じゃあ、みんなにからかわれるのを覚悟でブリーフを穿き続ける?それは嫌だ。からかわれたくない。トランクスも穿きたくない。やだやだやだ。

…頭の中でブリーフとトランクスがぐるぐる回ってる。同じパンツなのにどうして仲良くできないんだろう?同じパンツなのに…


……同じパンツなのに、か……



「ミサトさん…お金ください」

「えっ…シ、シンジくんどうしたの?目が赤「お金ください」」

「…お小遣いは?あげたでしょう?…って言いたいところだけど、何に使うのか教えてくれたら考えないこともないわよん」

「えっ…で、でも…」

「…ふ〜ん、お姉さんに言えないようなものを買うつもりなんだ〜。ま、シンちゃんも男の子だもんね。でもね、そういうのは「パ、パンツ!パンツを買うんです!勘違いしないでください!」」

「えっ、パンツ?シンちゃんパンツダメにしちゃったの?」

「そ、それは…」

結局、僕も佐藤くんと同じようにブリーフを捨てトランクスに堕ちることにした。それで、ミサトさんにパンツを買うお金をもらいにリビングまできたんだけど、まさかミサトさんにそのことを言うハメになるとは…
だけど、ブリーフからトランクスに替えるわけを話したおかげでお金をたくさんもらえたからよかったのかもしれない。それに、ミサトさんに聞いてもらって少しすっきりしたし。

…明日にでも買ってこようかな、トランクス…



「バッカじゃないの?ブリーフが好きなら穿き続ければいいじゃない!」

「えっ…アアアアスカ?!な、ななっ…何で…!?」

「アースーカー…盗み聞きしちゃダメ「いくらみんなにからかわれたくないからって好きでもないトランクスに逃げんじゃないわよ、バカ!」」

「あっ…えっ…その…えっ?えっ…?」

き、聞かれた!アスカに聞かれた!アスカにブリーフをやめてトランクスにするって話、聞かれた!
う、うわぁぁぁぁ!!!アスカに僕がブリーフだってことがバレた!もしかしたらベランダに干してある僕のブリーフを見たことがあってそれで知ってるのかもしれないけど、とにかくアスカにバレた!ブリーフのことがバレた!


ぼ、僕もう生きていけないよ!だって恥ずかしい!穴があったら入りたい!でもアスカには入れたい!
あぁっ!どうしよう!どうすればいいんだ!どうすればアスカに入れられ……ち、ちがっ!違うんだアスカ!僕は決してアスカの体が目当てなわけでなく、むしろ心のほうが目当てであって…だけど、心が通い合ったら次は体も……って、うわぁ!ご、ごめん!謝るから!謝るからこれ以上僕の側にこないで!僕を叩こうとしないで!僕に優しくして!



「ご、ごめ「謝るくらいなら最初っから逃げんじゃないわよ!」」

「う、うん!ごめんなさい!」

「…アスカ、シンちゃんにもいろいろ「ったく、佐藤がブリーフを穿かなくなったからって何よ。佐藤はね、負け犬なの。今のシンジみたいにからかわれたくない一心でトランクスに替えたただの負け犬なのよ」」

「ま、負け犬…?」

「そう、負け犬。そんな負け犬のあとを追ったって何の得にもなりゃしないわよ。それよりも、誰に何を言われようが自分の好きなもの…あんたの場合はブリーフね。それを貫くほうがあんたにとってもあたしにとっても得なのよ!」

「得…?何が「あんたバカぁ?そのくらい自分で考えなさいよ!」

アスカに叩かれると思って身構えてた僕だけど、予想に反してアスカは僕のことを叩かなかった。それだけでも結構びっくりしたんだけど、アスカがブリーフが好きならブリーフを貫きなさいよ!って言ってくれたことにもっとびっくりしたというかなんというか…
…でも、嬉しい。アスカはクラスのみんなと違ってブリーフのことをバカにしなかった。それがすごく嬉しい。



だけど…いいの?


僕はブリーフを穿いていてもいいの?


みんな、ブリーフのことが嫌いなんじゃないの?


だから僕のことをからかうんじゃないの?




…僕はそんなみんなが嫌いだ


でも、アスカのことは好きだ


アスカが…アスカだけでも僕のことをわかってくれているのなら、からかわれても大丈夫かもしれない


だから僕はブリーフを穿いていてもいいのかもしれない


うん、僕はブリーフを穿きたい


ブリーフを穿き続けたい


そうだ、僕はブリーフを穿いていてもいいんだ…!



「…ねぇ、アスカ。シンちゃんは自分の好きなパンツを穿き続けられること自体が得なことだってわかるけど、シンちゃんがブリーフを穿くことでアスカには何の得があるの?」

「べ、別にそんなのどうだっていいでしょ!」

「ふ〜ん…」

「な、何よ!何なのよ!」

「べっつに〜」

「あ、あたしは別に「アスカ!」」

「ひゃい!」

「わかったよ!アスカの言う『得』が何なのか、僕わかったよ!」

「えっ…ちょっ…シ、シンジ?あの…ち、近「僕の『得』はアスカなんだ!アスカがいるから僕はブリーフを穿き続けることができる!」」

「シンジ…」

「だから、アスカ…これからも僕の側にいてくれないかな?僕が僕であるために、ブリーフがブリーフであるために」

「ふ、ふんっ!どうせあんたのことだからあたしがいないと不安なんでしょ?し、仕方ないから側にいてあげるわ!感謝しなさい!」

「うん、ありがとう。アスカ」

「あっ…う、うぅ〜…」

「……えっ、何これ?あたし、どうしたらいいの…?」



アスカにありがとう



佐藤くんにさようなら



そして、すべてのブリーフに






おめでとう




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