すき、だいすき

コナーとRK900に懐かれる話。




突然だが、変異体であるアンドロイドのコナーを育てている。

というのも、まだ変異体になっていない時から彼のことを密かに見てはかわいいと思っていた根暗刑事なのだが、彼が変異してからこのかた、表情やしぐさがあまりにもかわいらしくてどうにも見ているだけでは物足りなくなってしまった。
それで悶々とした気持ちを抱えながらも仕事に追われている時にちらりと見た、何か重要な手がかりを見つけたらしいコナーに対して偉いぞとでも言うように頭を撫でるハンクの姿を見て、そしてハンクに撫でられぎこちなく微笑むコナーを見て爆発してしまったのだ。私のこの行き場のない母性が。
そんなわけで、たいして関わりがあるわけでもなかったハンクに私にもコナーを撫でさせてほしいと懇願し、「いや、勝手にすればいいだろ…」と呆れられつつ「どうぞ?」と側にいたコナーが頭をこちらに向けてくれたことによって、いつも見ているだけだったコナーの頭を撫でるという欲求を解消することができたのである。

この出来事だけでは、なぜそれがコナーを育てていることになるのかわからないと思うが、この話にはまだ続きがある。
こちらとしてはあの奇跡のひと撫でによって、暴走しかけた母性をうまいこと押さえつけることに成功したのだが、署内で会う度にこちらに頭を向けてくれる彼の気遣いによって何度も彼を撫でる機会があったのと、回を重ねるごとに少しずつ彼の表情が変わっていくことにより母性による愛しさを覚え、つい頭だけではなく頬なども撫でてしまうこともあったのと、母性による愛しさが募ってしまいこれまたつい偉い偉いなどという言葉まで出して撫でてしまったことによって、今では私の姿を見ると駆け付け、にっこりとした笑顔で頭をこちらに向けてくるまでになってしまった。
そのことについて、コナーのバディであるハンクに対していろいろと申し訳ない気持ちでいっぱいになり、コナーがいない時を見計らって謝りに行ったのだけれど、その時に「あいつは刑事としては一流だが、人としてはまだ生まれたての赤ん坊みたいなもんだ。だから、お前が俺の代わりに褒めて育ててくれて感謝してるよ。俺にゃできないからな、そんなこと」と逆に感謝されてからは、より一層コナーのことを撫でて褒めるようになった。
というわけで、私は変異体であるコナーを“褒めて”育てているのである。




コナーが私を見つける度に笑顔で駆け寄ってくるようになってから何となく経ち、今でも頭をこちらに向けて撫でてほしそうにする彼に毎度母性が爆発している。
しかし、数か月前から私のバディとなったコナーの後続機であるRK900ことナインにあまりいい感情を持っていないようで、常に私の側にいるナインを見る度に頬を膨らまし、不服そうにしている。それに対してナインはまだ変異体になっていないため、そんなコナーを見ても眉一つ動かさない。これがもし変異体であったなら、ナインももう少し表情を変えるのだろうか。

ここでナインの話になるが、彼が自分の意思で声を出すことはほとんどない。捜査で必要にかられた時は仕方なくという風に単語をぽつりと呟くが、それ以外で話すことはまずないと言っていいだろう。そして表情を変えることもほぼない。無表情で私の数歩後ろに立っているのである。
それでどうやって彼と仕事をしているのかと言えば、彼の手首に埋め込まれている3Dプロジェクターのようなもので必要な情報やらなんやらを映してくれるため、今まで特に困ったことはない。それ以外でも疑問に思うことがあると無表情ながら首を傾げたり、私をジッと見つめることによって訴えてくるなどの意思表示はしてくれるので、意思の疎通はできている。と、私は思っている。
ちなみにナインにもコナーと同様、いいことをしたら褒めるという“褒める育児”を積極的に行っている。そうすることによっていつか変異体となり、今よりも少しだけでもいいから感情を持ってくれればという下心があることは彼には秘密だ。



「なぜ?なぜRK900をあなたの自宅に?僕だってまだ連れて行ってもらったことがないのに。一体なぜです?」

さて、大変なことになった。
捜査中の事件で犯人を確保できたはいいが、油断してしまい犯人からの捨て身の一撃を私の代わりにナインが受けてしまった。それにより腕を交換しなければならなくなり、新生サイバーライフ社で交換してもらおうと連絡したのだが、その腕が3Dプロジェクターの他にもいろいろな機能が搭載されているとても珍しいものだとわかり、替えの腕を用意するまで数か月かかることが判明。いい機会なのでメンテナンスも兼ねてその数週間はこちらで預からせてほしいという返答にナインが拒否反応を示したため、彼は腕が用意されるまでのこの数週間、片腕で行動しなければならなくなったのである。
しかし、大変なのはそこではない。職務が終わると署内のアンドロイド専用の部屋に行き、時間になるまで待機しているナインが、職務が終わっても私から離れようとせず、しまいには自宅に帰ろうと署内の出入り口に向かう私についてきてしまった。
相変わらず言葉を話そうとしない上に、頼みの綱である3Dプロジェクターもないこの状況で、ナインが何を考えてこのような行動に出ているのか、皆目見当がつかない。だけど、私のせいで彼が腕を一時的にとはいえ、失うことになったのだ。そんな彼が恐らくではあるがこうして私を頼ろうとしてくれている。ならばやることはひとつだ。
ということで、ナインの腕が元通りになるまで自宅に彼を連れて帰る旨を署長に話し、割とすんなり許可を得て、さぁ帰ろうというところでいつも以上の早さで駆けてきたコナーになぜなぜ攻撃をされている。
これが先ほどいった例の大変なことである。

なぜなぜコナーの疑問を解消すべく、かくかくしかじかとこうなった経緯を話すと「確かに署内でスリープモードでいたらいつの間にかサイバーライフ社に…ということがあるかもしれないけど、それにしたって職務外も彼女と一緒だなんてずるいぞ」と、ナインに対してぷんすかと怒るコナー。ナインはぷいっと顔を背けているが、そんな彼を見て「RK900!」と声を荒げるコナーは、こちらが思っている以上に怒っているようだ。
これ以上怒らないでほしいのと、以前ならともかく新しくなったサイバーライフ社がそのようなことをするはずがないということをコナーに伝えようと、とりあえず頭を撫でて鎮静化を図り、ふにゃっとした笑みを浮かべるコナーにそれらを言おうとしたところで「コラ、何やってんだ」と現れたハンクに首根っこを掴まれたコナーは「ハンク!聞いてください!RK900が!」と再度興奮した様子でこれまでのことをハンクに話し始めた。だけど、そこは面倒なことが嫌いなハンク。すぐに「あー…俺はもう帰る。後はよろしく」と言うと、そそくさと署から出て行ってしまった。なんてことだ。
ハンクの背を呆然と見送る私に「ハンクから僕のことを託されてしまいましたね」と言うコナーの瞳は、心なしかキラキラと輝いているように見えた。


「あの…手を繋いでも?」

ハンクからコナーを託されたらしい私は、「では帰りましょうか、あなたの自宅に」と満面の笑みで話すコナーと、服の袖を引っ張り帰宅を促しているのであろうナインと共に帰路についている。
ナインはともかく、普段なら会話が弾むコナーすら口数が少なくてどうしたのかと心配していたのだけれど、あと少しで家に着くというところで遠慮がちに発せられた言葉に思わず笑ってしまった。何だ、手を繋ぎたいけどなかなか言い出せなくて静かだったのか。
ふふっと笑う私になぜ?とでも言うように首を傾げるコナーに手を差し出し、もうすぐ家に着いてしまうから早くしたほうがいいと言うと「それは大変だ!」と、勢いよく差し出された手を掴むコナー。かわいい。
「あなたと手を繋ぎたいと、ずっと思っていたんです」とふわふわはにかむコナーにつられてふわふわ笑っていると、服の裾を強く引っ張られてよろける。そんな私を助けようと繋いだ手を引っ張ろうとするコナーよりも先に私を助けてくれたのはナインだった。今は片腕しかないのにその腕を使い、私が転ばないようにしっかりと抱えてくれている。まだ変異してはいないが、それでもこうして助けてくれる彼はもうすでに優しい心を持っているように思える。

いいことをしたら褒めるというのが私の教育方針なので、まだ私を抱えたままでいるナインにぴたりとくっついて偉い偉いと褒める。本当は頭を撫でてあげたいのだけれど、彼に抱えられたままな上にコナーともまだ手を繋いだ状態なのでそれはあとでにしよう。
そんなことを思っていると「こうなったのはRK900のせいですよ」とコナーが不機嫌そうに言い、どういうことなのかと聞けば、先ほどの服の裾を引っ張ったのがナインとのことだった。もしかして、私がコナーばかりにかまっていたのがおもしろくなかったのだろうか。
コナーばかりで嫌だったのかと聞けば、微かだが首を縦に振るナイン。コナーの嫉妬するナインがあまりにもかわいくて、このままでは母性が爆発してしまいそうだ。それをどうにか抑えつつコナーばかりでごめんね。ナインも手を繋ごうね。と言うと、ナインは抱えたままだった私を離し、恐る恐るといったかたちで私の手を掴んだ。
「もう、RK900ばかりずるいですよ。僕のことも見てください」とぷんすかするコナーもかわいいし、私の手の感触を確かめるように触り続けるナインもかわいいしでどうにかなりそうだ。



何とかどうにかなる前に無事帰宅し、「僕達のことはおかまいなく」とキリッとするコナーとナインを微笑ましく思いつつ食事やシャワーを済ませ、そろそろ寝ようかという時にまた大変なことが起こってしまった。その発端となったのが「もう就寝しますか?」と聞くコナーに対して頷いた後の「あの、眠るあなたの隣にいたいのですが…いいですか?」という言葉だ。
回りくどい物言いにポカンとしてしまったのだが、「あなたと共に朝を迎えたい…ダメ?」と両手を包み込むように握られ、ゆっくりと私の額に自身の額を合わせてきたことにより、やっとのことで事の事態を把握する。これは危険だ、いろんな意味で。
まさかこんな展開になるとは思っていなかったので油断していたが、コナーも男だ。…たぶん。外見だけを見れば男にしか見えないので彼は男だと思う。きっと。わからないけれど。
…まぁ、とにかくコナーは子どもではないということが彼の発言によってわかったわけである。こんな、私達以外誰もいない時にわかりたくはなかったのだけれど。

急に“男”になったコナーに内心かなり動揺しているのだが、身体はあまりの驚きで固まっているというよくわからない状況の中、彼は額を離し、ゆっくりとした動作で耳元に口を寄せ「あなたの一番になりたい…」と囁いた。
そんないい声で囁かれたら誰だって腰が砕けるだろう。ということで、がくりと腰を抜かす私をコナーは「おっと」と、いとも簡単に抱える。そして「大丈夫ですか?」といつもの調子で言うものだから、そのあまりの変わりようにクラクラしてしまう。一体どちらが本来の彼なのだろう。
しかし、ぼんやりとそんなことを思う私を抱えなおし、頬や首元に自分の頬を擦りつけ「はぁ…ずっとこうしたいと思っていたんです…」と甘えるように呟くコナーを前にすると、やはりいつもの頭を撫でられふにゃっと笑う彼が本来の彼なのではないかと思ってしまう。
けれど、そうなると先ほどの彼は一体何なのか。夜にだけ出てくるアダルトな人格とか、そういうあれなのだろうか。

ぎゅうぎゅうと私を抱きしめ続けるコナーをしり目に、ハンクは今はまだ生まれたての赤ん坊だと言っていたけれど、成長したらあのアダルトなコナーになるのだろうか。そうしたら署内の女性の腰がぐにゃぐにゃになってしまうのでは…?などと考えていると「離れろ」という声が聞こえてきた。それは滅多に聞くことができないナインの声で、そういえば先ほど「どちらがベッドメイクをするか勝負だ、RK900」と、自分でするからしなくてもいいと言っているのにもかかわらずふたりにしかわからない勝負をして、そして勝負に負けたらしいナインがベッドを整えに行ってしまったのだった。
久々のナインの声にテンションが上がり、コナーの腕の中でもぞもぞとしていると「あぁ、もう終わったんですか。残念」という声と共にコナーが離れ、明らかにムッとした顔をしているナインがやってきて、すごい勢いで私を担ぎ上げ、そのまま寝室へ。
いろいろと言いたいことはあるけれど、ナインが初めて無表情以外の表情をしてくれたからもういいや。


「…なぁ、RK900。本当はもう変異しているんじゃないか、君」

寝室に入るなりベッドに放り込まれ、息をつく暇もなくあまり大きくないこのベッドに入り込んできたナインは、驚きで目を丸くしている私の首の後ろに腕を差し込むと、カチコチに固まっている私を見て「フッ…」と微かだが口角を上げて笑った。えっ、また表情が変わった。すごい。こんなことならもっと早く彼を家に連れてくるんだった。そしたら彼のいろんな表情を早く見ることができたのに。
思わずナインの頬を撫で、今日はいろんな顔のナインを見ることができて嬉しいと繰り返し言っていると、後から入ってきたコナーがぽつりととんでもないことを言うものだから大きな声を出してしまい、ふたりから「「シッ」」と注意されてしまった。夜分遅くに申し訳ない。
だけどナインがもう変異しているかもしれないという疑惑をそのままにしておくことはできないので、彼の頬をむにむにと摘まみつつ、どうなのかと聞けば目を閉じて黙秘する姿勢に入るナイン。否定するのではなく黙秘というところが怪しい。これはコナーの言う通り、もう変異しているのではないか?
変異体になるのは悪いことではない。だから正直に言ってほしい。と、目を閉じたままのナインに言うも、話す様子も目を開く様子もない。そんなに変異したことを私に言いたくないのかと悲しく思っていると「…スリープモードに移行していますね」と、コナーが呆れた顔をしてナインのことを見ていた。今日は久しぶりに声を出したし、表情も初めて変えたからエネルギーをたくさん使ってしまい、もう活動限界だったのかもしれない。

「RK900は変異体にならないよう、徹底された造りでしたからね。彼なりに思うところがあるんでしょう」

ベッドの足元の開いたスペースに腰かけ、ナインのことを話すコナーの表情は穏やかで、もしかしたら彼はナインのことを弟のように思っているのかもしれない。
コナーがナインに対してあまりよく思っていないようなしぐさをするのは、生まれたばかりの弟に親をとられたと思って怒る兄のようなあれなのだろう。そう思うと、一方的に不満をぶつけられているナインには悪いが、コナーの今までの行いがかわいく思える。
「だけど、勝手にあなたの隣を独占するのはいただけませんね」と穏やかな表情から一変してぷんすかと怒り出すコナーと、スリープ中で何となくいつもより幼く見えるナインが微笑ましいやらかわいいやらで何だか眠くなってきた。人はかわいいものや微笑ましいものを見るとふわふわと幸せな気持ちになり、それで眠くなるのかもしれない。
とろりとした意識の中でそんなことを思う私の耳には「僕だってあなたに腕を貸して、一晩中あなたの寝顔を見ていたかった。あなたが目を覚ました時、視界を僕でいっぱいにしたかった。…あなたの一番になりたかった」と言うコナーの言葉がつらつらと流れ込んでくる。
……あれ?さっきもそういうことを言っていたような気がする。アダルトな感じで。でも、あの時は夜の営みのお誘い的なあれで……いや、言い方がアダルトだっただけで、さっきのもただ添い寝をしたいということを私に伝えていただけなのかもしれない…。

「えっ、あなたとセックス?いえ、そんなおこがましいこと考えたこともありませんが」

先ほどのアダルトコナーの発言に対して自分が勘違いをしているのか、それともそういう意味で言っていたのかを確かめてみると、自分の勘違いだったことがあっさりとわかり、あの時の自分を殴りたくなる。
いくらそういう雰囲気だったとはいえ、彼は一度もセックスがしたいとは言っていなかった。ただ私の隣にいたい、私と朝を迎えたい。としか言っていなかった。なのに私はアダルト的な早とちりをした挙句、ひとりで勝手に緊張して…自分が嫌になる。
自己嫌悪と眠気でぐったりしている私に「…もしかして、僕とのセックスを望んでいましたか?すみません…僕は捜査用アンドロイドなので、セックスをするにはセックス用のアタッチメントがないとできなくて…」と謝るコナーは本当に申し訳なさそうにしていて、これはぐったりしている場合ではないと起き上がり、必死にコナーとのセックスは望んでいないことを伝えると「そうなんですか?」と首を傾げてきょとりとしている。よかった、しょんぼりコナーでなくなって。
すかさず「ですが、挿入以外のことならできますよ?」という言葉が彼の口から出てきたような気もするけれど、それはきっと気のせいだろう。

何か言いたそうにしているコナーにもう寝ると伝え、ナインの腕枕めがけて寝ころぶと「明日は僕があなたの枕になりますからね」とむくれるコナー。かわいい。
だけど、そうなると明日も彼を家に連れて帰ることになってしまう。今日はハンクにコナーを託されたからいいとしても、さすがに明日はダメなのではないのだろうか。…まぁ、そこらへんはまた明日コナーやハンクと話すとして、今日はもう寝よう。そろそろ限界だ。
「明後日も、明々後日も、ずっとずっとあなたの枕は僕ですからね」というようなことを言うコナーにふにゃふにゃと頷き、おやすみなさいと言うと「はい、おやすみなさい。僕達の分までいい夢を」と優しく笑い、うまいことベッドに手をついて私の頬にキスをしてくれた。

今日の夢見はきっといいものになるだろう。
願わくばコナーとナインが夢に出てきてくれますように。


[ 15/18 ]

[*prev] [next#]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -