おむかいさん

全員生存エンド後でメモリなどの軽微損傷により中身のみ幼くなってしまったコナーとアンダーソン家の向かいに住む人のほのぼのとした日常夢。




アンドロイドが命をかけて主張した、アンドロイドの自由・人権を政府及び人類が認めはじめてからまだそう経っていないある日、向かいに住むハンクアンダーソン氏の家に男性型アンドロイドがやってきた。
コールが生きていた頃は、私の家の庭にある小鳥の餌台に集まる小鳥や近くの木に設置している巣箱に住んでいた鳥を見にやってくるコールとの繋がりでハンクとも付き合いはあったのだが、コールが不慮の事故で亡くなってからは外で会っても会釈をする程度のわずかな関わりしかなくなってしまった。
息子を亡くし自暴自棄になるハンクをどうにかして以前のように戻せないかと悩み、彼を気遣うときもあった。しかしハンクの「もう俺にかまわないでくれ」という一言で彼と関わるのをやめた。きっと私を見る度にコールのことを思い出してしまうのだろう。それからは極力彼とは顔を合わせないようにし、時折窓から彼の家を眺めてはどうか彼が幸せになれますようにと願う日々を送っていた。
そんなときに現れたのがその男性型アンドロイドであるコナーだ。この前、庭で飼い犬のスモウと戯れていた彼がハンクにそう呼ばれていたのでそれが名前なのだろう。アンドロイドの解放デモでいまだに混乱している中やってきたそのアンドロイドは、ハンクの家にきた当初はアンドロイドと書いてある服を着用していたが、何日かするとハンクの服を借りたのかダボダボと身体に合っていない服に身を包み、さらに数日経つ頃にはジャストサイズのラフな格好をしていた。きっとハンクが買い与えたのだろう。しばらくのあいだ嬉しそうに着ている服を眺めていたコナーのその人間染みた表情が印象に残っている。

さて、なぜ私がこのように向かいの家に住む今は何の接点もないふたりのことをこんなに知っているのかというと、在宅の仕事をしているため食料や日用品を買いに行く以外は基本家にいるので窓からアンダーソン家をいつでも見られる状況にあるというのがその理由である。通りに面した窓の傍に小鳥の餌台が置いてあり、毎日そこにパンくずを置き小鳥がくるのを待っていたり、飼い猫と一緒に餌台のうえで小鳥がパンくずを食べているのを眺めたり、窓を開けて身を乗り出すと見ることができる木に取り付けた巣箱に住んでいる子育て中のすずめの様子を窺ったりしているときなどに時たま垣間見ることができるのだ。アンダーソン家の様子が。


今日も朝早くから表に出てパンくずを餌台に置く。小鳥達は早起きで夜が明ける頃にはもう庭の木や電線にとまっていることにまだ餌をやり始めた頃に気付き、それから起床後すぐに餌を置くようになった。そのあと朝の支度をし、目覚ましのコーヒーを淹れて窓から外を見れば丁度小鳥達が餌台の上で食事をしている姿を眺めることができる。ピィピィとかわいらしく餌をつまむ小鳥達を眺めながら飲むコーヒーは格別なのだ。
窓の外の世界が知りたくて壁をよじ登ろうとしてボロボロにする飼い猫のために作った足場にやってきた猫と共に小鳥達の姿を眺めていると、不意に視線を感じた。ぽつぽつと数少ない道行く人達の視線かと思い目の前の通りに目をやるも、誰もこちらを向いていない。勘違いかと思い小鳥達に視線を戻そうとしたまさにそのとき、その視線を送る人物と目が合った。コナーだ。コナーが家の中からこちらを見ている。
一方的に彼の姿を眺めることはあれど、このようにあちらから眺められるといった経験は皆無だったため動揺してしまい思わず深く頭を下げてしまう。しかしここは窓の前。盛大に額をぶつけるという失態を犯し、音に敏感な小鳥達は空高く飛んで行ってしまった。ちなみに飼い猫も驚いて部屋の奥に逃げてしまった。
小鳥達に悪いことをしたと思い額を手で押さえつつ外を見ると、木や電線にとまる小鳥達を確認することができて安心する。遠くに行っていないところを見るとしばらくしたらまた餌台までやってきて食事を再開するだろう。だけどそれを喜んでいる場合ではない。コナーが目を丸くしてこちらを見ている。
今度は軽く会釈をして窓から離れる。本当は戻ってくるであろう小鳥達を窓辺で待ちたかったのだけれど、いまだにいつもと違い丸々とした目でこちらを見るコナーのその視線に耐えられる自信がなかった。

それからというもの晴れの日も雪の日も曇りの日も、つまり毎日家の中からこちらを見るコナーと目が合うようになる。はじめは彼がなぜこちらを見るのか理解できなくて小鳥達が餌を食べているのが確認でき次第家の奥に引っ込んでいたのだが、あるときふと私ではなく小鳥達を見ているのでは?という考えが浮かび翌日細心の注意を払い彼の様子を窺うと、やはり私ではなく餌を食べにきた小鳥達を見ていて自分の自意識過剰さを恥じると共に興味深そうに小鳥達を眺める彼を微笑ましく思い、その日から以前のようにコーヒーを飲みつつどんな天候でも餌を食べにくる小鳥達を眺めることにした。時々窓辺にやってくる飼い猫と共に。
そんな穏やかな朝が数週間続いたある日、いつものように餌台にパンくずを置こうと外に出ようとしたら珍しく飼い猫が玄関までやってきた。外に出たいのだろうか。そう思い飼い猫をコートの胸元に入れて外に出る。飼い猫は胸元から顔を出してキョロキョロと辺りを見回していて、あまり動くと落ちてしまうと声をかけても動き続ける飼い猫はついに胸元からまだ誰も踏みしめていない雪の中へと落ちてしまった。幸い大事に至ることはなかったが、雪が冷たいことを必死に鳴いて訴える飼い猫を再び胸元に入れると、もう冷えてしまったのか身体を私にすり寄せ暖をとり始める。そのしぐさはとてもかわいらしいのだが、いかんせんくすぐったい。それを訴えても相手は猫なのですり寄り、猫毛によるくすぐったさが限界になったときに足を滑らせその場で尻餅をついてしまった。
くすぐるからこんなことになってしまったのだといまだにすり寄る飼い猫をくしゃくしゃと撫でればわかっているのかどうなのか、にゃあとかわいらしい声をあげる。それに癒されていると向かいからドアを開閉する音が聞こえ、きっとハンクが職場に行くため出てきたのだろうと音の鳴るほうを向くと、そこには焦ったようにこちらに向かってくるコナーの姿が。
てっきりハンクだと思っていたため反応できずにいる私の傍にやってきたパーカーにハーフパンツというTHE寝間着姿のコナーは「大丈夫ですか!?」と尻餅をついたままの私に手を差し伸べ、混乱して固まっている私に痺れを切らしたのか「失礼」と一言断ってから腕を掴み一気に引き上げた。腕に全体重がかかるのに加え、重力も加わり嫌な音をたてる腕に顔をしかめると「すみません…」と謝罪されたあと「手当をするのでこちらへ」とハンクの家へ連れて行こうとする彼に腕も尻も飼い猫も無事だと伝えると、彼は安心した表情を浮かべた。そんな彼に礼を言うと「いえ、あなたが転倒したのを目撃したので…」とそわそわとこめかみ辺りを黄色くしながら落ち着きなく話し出す。
礼を言われることに慣れていないのだろうか。と、その様子を見て思うも一般的にアンドロイドに礼を言う人間は少ないということを思い出す。そうだ、私の家には両親が存命だった頃からアンドロイドがいなくて今でも接し方などまるでわかっていないのだが、世間はアンドロイドを物扱いする。デモ後はそういう扱いをする人間は減ったと思うが、それでも時々アンドロイドにきつい物言いをする人間を見ることがある。
私はそのきつい物言いをする人間とは違うということをわかってほしくて思わず彼の手を握り再度感謝の気持ちを伝えると、彼は「あっ…いえ…」と視線を彷徨わせ、今まで黄色く光らせていたこめかみを赤く変化させた。アンドロイドのことがわからないながらもこの色は警告色だと思い焦る私と、ぐるぐると赤く点滅させ続けるコナー。どうすれば元の青に戻るのか一生懸命考える私の耳に入ってきたのは「おい!何やってんだコナー!」というハンクの声だった。
「ハンク!」と窓からこの状況を見て声を張り上げたであろう彼の声を聞いてぴゅっと自宅に戻るコナーの後ろ姿と、気まずそうに私に頭をさげるハンクを見てやるせなく思いながらも雪の上に転がる袋を拾い、小鳥達の餌を餌台に置く。また私のせいでハンクに嫌な思いをさせてしまった。しかも今度はコナーにも。

その日の夜遅く、ハンクがやってきた。「こんな時間に悪いな」と申し訳なさそうに言うがデモ後のまだ混乱するデトロイトに警官は必要不可欠だと首を振り、家に招き入れる。「お構いなく」と言うハンクにそういうわけにもいかないとコーヒーを差し出し用件を聞くと、やはり今朝の件のことについてだった。
コナーに助けてもらったにもかかわらず恩を仇で返すようなことをしてしまい申し訳ないと謝ると「いや、お前が謝ることは何もねぇ。むしろこっちこそコナーが悪かった。毎朝お前さんの家に集まる鳥を見てることは知ってたんだが、まさか接触するとは思わなかった」と逆に謝罪されてしまった。そして「…コナーの態度に気を悪くしただろうが、お前さえよければあいつに鳥を見せることを許してやってほしい。いや、図々しいことはわかってるんだが…」とも。
なぜそこまで懇願するのか尋ねると、ハンクはコナーのことを話し始めた。何でも、コナーはサイバーライフ社から派遣された捜査専門の最新試作アンドロイドであり、あのアンドロイドのデモにも関わっていたらしい。本来の彼は見た目通り中身も成人男性の人格を宿し、変異体という感情を手に入れた心を持つアンドロイドになってからはより人間味を増していたのだが、そのデモ後になぜか人間でいうところの幼児退行を起こし、口調はそのままに思考や行動が子どものようになってしまったとのこと。
そのことについてサイバーライフ社で何とかしてくれないのかと聞くと「俺はあの会社がどうにも信用できなくてな…」と苦虫をみ潰したような顔をしたので、きっと何かあったのだろう。「まぁ、それでもある程度は頼らざるを得ないんだけどな」と諦めたように笑うハンクを見て悲しくなる。アンドロイドに関係することは現時点ではサイバーライフ社にしか頼ることはできない。信用できないところに大なり小なり任せなくてはならないのはつらいだろう。ハンクとコナーとの関係がどんな関係であれ。
「…これからはアンドロイドも自由に暮らしていける世の中になっていく。けどそれは今じゃねぇ。いくら政府がアンドロイドとの共存を許しても、まだアンドロイドを嫌ってるやつが山ほどいる」「だから少し休ませてやろうと思ってな。アンドロイド嫌いが減るまで」「ま、こんなこと言っててもどうせすぐ駆り出されることになるだろうけどな。なんたってあいつはああでも捜査の腕は一流だからな」と話すハンクの表情は柔らかい。コナーといい関係を築いていることがわかる。
コナーに自宅からだと小鳥を見るのに少し距離があるだろうから、明日からは私の家から見ないかと彼に伝えてくれと言うと「いいのか?」と嬉しそうな顔をする。それには定期的にスモウを思う存分撫でまわさせてくれることが条件だと自分にできる最高にあくどい表情で続ける私に「なんて奴だ…だが、コナーのためなら仕方ねぇ。いつでも撫でにこい」とにやりと一芝居うってくれるハンクを見て思う。私の知ってるハンクが帰ってきたと。


翌朝、今日も外に出たいと騒ぐ飼い猫を昨日と同じようにコートの胸元に入れドアを開けると、目の前にもこもことしたコートを着たコナーが立っていて思わず声を出してしまった。彼がいきなり現れたことに驚いたのか、それとも私が大きな声を出したことに驚いたのか、飼い猫も驚いて胸元から腹の辺りまで潜り込んでしまった。飼い猫を必死になって上に押し上げようとする私に、目を丸くしながらも「僕はコナー。デトロイト市警に派遣された捜査専用アンドロイドです。昨日はすみませんでした」と律義に自己紹介と昨日の謝罪をするコナー。それに対して飼い猫を押し上げながら自己紹介、飼い猫の紹介、同じく昨日の謝罪をする私の姿は彼の目にはどう映ったのだろう。
やっと胸元まで押し上げた飼い猫に興味を示すコナーは、彼をジッと見ている飼い猫のことを穴が開くほど見つめている。彼は小鳥だけでなく動物に興味があるのかもしれない。飼い猫の頭を撫でてみるか尋ねると「いいんですか?」と目を輝かせ喜ぶ彼は表情豊かで、とてもアンドロイドには見えない。しかしこめかみにある丸い輪が彼をアンドロイドだということを証明している。
人間とは、そしてアンドロイドの違いとは一体何なのだろうとなりつつ、彼が飼い猫の頭を撫でやすいように胸を張るかたちになると「では、失礼」と彼は恐る恐る飼い猫に指を近づけ、彼のことが気になって仕方がない状態の飼い猫の頭を撫でようとしたが、ぺろりとその指を舐められ固まる。動物に舐められるのは苦手かと聞けば「いえ、舐められた感覚がスモウと違っていたので」と返し、今度こそは頭を撫でようとまだ舐めよう顔を上げたままの飼い猫に果敢に挑む。猫の舌は犬とは違いザラザラしているからと話すと「えぇ、新鮮な感触です」と再び指を舐められ困った顔をしている彼がそう返してくる。とりあえず今は飼い猫を撫でることは諦め、小鳥達の餌を置こう。家に入れば飼い猫もここから出て撫でるところも頭だけではなくなるため、撫でられる確率はあがるからとコナーを促し、彼にパンくずの入った袋を渡した。「僕が置いてもいいんですか?」と言う彼の顔は、昨日私がコナーへ伝えてくれと言ったことに対して嬉しそうにしていたハンクとよく似ている。

朝の支度があるからとコナーにソファーに座るよう促し、支度を終え自分の分はもとより彼の分のコーヒーも携え戻るも既に彼は飼い猫と共に窓辺で小鳥達の食事風景を窓に手をつき食い入るように見つめていた。先ほどまでは礼儀正しくてほんの少し幼いイメージだったが、ここにきてハンクの言うように思考や行動が幼いということを実感した。彼は動物に興味がある小さな男の子だ。
先ほどまで撫でようとしても撫でられなかった飼い猫が近くにいるのもかかわらず目の前の、それにしてはガラスなどの障害はあるのだが、とにかく彼の家よりは近くにいる小鳥達に夢中なコナーにコーヒーにミルクや砂糖はいるかと聞くと「アンドロイドに飲食の必要はありません」とこちらを見ることもなく返すので思わず笑ってしまった。自分の興味のあること以外はどうでもよさそうにしているところなど、まさに幼い子どもだ。彼用だったコーヒーをテーブルに置き、今日は仕事前にアンドロイドのことについて調べようと心に決める。それと男の子が好きそうなものも。
そしてしばらくのあいだ小鳥達を眺めていたコナーだったが「そろそろ帰らなければ。では、失礼します」と素早く窓から離れスタスタと玄関まで行き、そのままドアを開けて帰ってしまった。そろそろ帰らなければということは、ハンクにこの時間になったら帰ってこいとでも言われたのだろうか。それとも彼をあまりにも小鳥を見ることに熱中している幼子のようだと笑ってしまったのが嫌だったのか。
今思えば口調も礼儀正しいというよりかは淡々としていて、初対面にもかかわらず馴れ馴れしい私を少しでも遠ざけようとしていたように思える。やはり私が無意識に彼に何かをやらかした挙句、最後に彼を笑ってしまったことで堪忍袋の緒が切れてしまい帰ってしまったのでは…。と思い項垂れていると今しがた閉じられたドアが開き、そこから顔をひょっこり出し私を見るコナーの姿が。「あの…また明日もきていいでしょうか?」と聞く彼は今までとは違いおどおどしている。
明日も明後日も明々後日も、コナーがここにきたいと思ったときにきてくれてかまわないけれど私にいい感情を抱いていないのでは?と、思わずそのおどおどとドアに隠れるコナーに聞いてしまったのだが、それに対して「いい感情を抱いていない…?」と首を傾げたので、今度はわかりやすく私のことが好きではないのなら無理してこなくてもいい、餌台に餌を置いておくからその後に庭においでと言うと「僕はそんなこと、思ったこともありません…」と途端にしょんぼり。大慌てで彼に近寄り、いきなり帰るから嫌われているのかと思ったけれどそんなことはなかった。申し訳ない。と謝るも「ハンクがあまり長居すると迷惑がかかるから、と…」と引き続きしょんぼりしているコナーに、答えはそっちだったかと頭を抱える。私のことが嫌だったわけではなくてハンクとの約束のほうだったのか。
しかし変なことを言って申し訳ないと謝罪したあと「いえ、僕がちゃんと言わなかったのが悪いので…」と力なく首を振るコナーの頭を撫でてどうにかしようとしてしまい目を丸くさせてしまったので、やはり彼に嫌だと思われたかもしれない。
やってしまった…。

普段あまり人と関わりを持たないせいで人との距離感が物理的にも心理的おかしいと数少ない友人に言われているのにやらかしてしまったため、もうコナーは家にきてくれないだろうとその日は仕事もそこそこに飼い猫の腹に顔を埋めて落ち込んでいたのだが、翌日何事もなくやってきた彼に驚いて昨日同様声をあげてしまった。「どうしました?」と首を傾げる彼にこれまた昨日同様私のことが嫌になったのではないかと聞こうと口を開いたのだが、昨日のように落ち込ませることになるかもしれないと思い直し、何でもないとだけ口にする。彼はしばらくのあいだ首を傾げていたが、私が餌をあげに行こうと言うと「はい」と目を輝かせ、今しがた入ってきたドアから我先にと出て行った。そして渡した袋からパンくずを餌台に置き、家の中に入ると昨日と同じように食事中の小鳥達を窓に手をついた状態で夢中になって見ていた。
それからコナーは毎日私の家にくるようになった。はじめの何日かは彼にまた何か不快な思いをさせてしまうかもしれないとくる度に緊張していたが、毎回小鳥達の様子を目を輝かせながら見つめている彼を見て、彼の目的はこの小鳥達なのだし私が何かをやらかそうとあまり気にしないのではないかという思いが芽生え、今では緊張せずに彼と接することができている。


「あの…少しいいですか?」

いつもなら「ハンクやスモウの食事の支度をしなければならないので今日はこれで失礼します」と帰ってしまう時間なのだが、今日のコナーは窓から離れても帰るそぶりを見せなかった。それを不思議に思い尋ねるとおずおずと今大丈夫かと聞かれ、内心首を傾げつつ大丈夫だと答える。すると「もし、あなたがよければ…その、早朝以外にもここにきてもいいですか?」と先ほどと同じようにおずおずと聞いてきた。
他人行儀、というのは違うかもしれないが、妙にかしこまった口調の彼がこうして少し砕けた口調になるときが徐々に増えてきたのは、きっと私に慣れてきたからだろう。このあいだハンクの家でスモウを撫でていたときに「朝からあんなかたっくるしい言葉遣いされて息苦しいだろ。悪いな。でもあいつガキになってから人見知りになっちまってな…。ん?人見知りには見えないって?あぁ、あいつのあのかしこまった態度、あれ人見知りしてるときのやつだからな。普段はもっとすげぇぞ」とハンクに教えてもらったおかげで少しずつだがコナーのことがわかるようになってきた。
ものを頼むときにこうしておずおずとしてしまうコナーをかわいいと思いつつ、仕事があるためコナーのことをほぼ放置してしまうことになるがそれでもよければいつでも、何時間でもここにいていいと言うと「本当ですか!」と嬉しそうにする。かわいい。しかしすぐその表情を崩し、ここには私と彼しかいないのに「…このことは他言無用でお願いします。ハンクに知られるといろいろと厄介なので」と私の耳に口を寄せ話すので思わず動揺してしまう。中身はともかく見た目は完全に成人男性なため、至近距離でこういうことをされるのはいろいろとまずい。私は顔立ちがいい男性に免疫がないのだ。
急いで彼から離れる私をどう思ったか知らないが、彼が何か言おうと口を開けると同時にハンクには言わない。これはふたりだけの秘密だと話すと彼は「ふたりだけの、秘密…」とはにかんだ。そういえば自分も昔、父とふたりで買い物に行ったときに母には内緒だと小さなおもちゃを買ってもらったことがある。そのときに言われたふたりだけの秘密という言葉に何か特別なものを感じて嬉しく思ったことがあるが、彼も今そのような思いを抱いているのだろうか。
「僕と、あなただけの秘密」とはにかむコナーを微笑ましく思い、彼の手を取って彼の小指に自分の小指を絡めると「一体何を?」と目を丸くする彼に約束だと言い指切りげんまんと続ける。最後まで言いきり、まだ不思議そうにしている彼にこれをすることで私はハンクには絶対に言わないとあなたと約束をした。もしその約束を破ったら針を1000本の飲むと言うと「ダメだ!そんなことをしたら体内が傷つき下手をすれば命を落とす可能性もある!」と大声で警告する彼に、それくらいの覚悟があるという意味で本当に飲むわけではないと話す。すると「よかった…」と安堵するので、少しは私も彼にとっての何かになることができているのかもしれないと嬉しく思う。
この頃にはもう彼の存在が私の心を占める割合が半数を超えていた。



「今日こそは僕もあなたと一緒に行きますからね!」

このあいだまでは何かしてほしいことがあるとおずおずとしていたのが嘘のように、今では何でもかんでもズバズバとお願いするようになったコナー。今も買い出しに行こうとドアに手をかけた私の服を掴み、自分もその買い出しに行きたいと訴えている。
コナーとの約束によりハンクが仕事に行っているあいだ、この家にコナーがきていることをハンクには言っていないのだけれど、さすがにここより遠いところに連れて行く場合は保護者であるハンクに許可を取らなければいけないと思い、今まではこうして外へ出たいとねだるコナーを何とか宥めてきた。今も飼い猫と共に留守番をしていてほしい、両親が昔私のためにと買ってくれた絵本や図鑑を見て待っていてほしい、留守番をしていてくれたらこの前買ってきた小さな動物のフィギュアがついたお菓子を買ってきてあげるから、と宥めたのだが「一緒に留守番しようにも、もう既に眠っていて僕の相手をしてくれないので嫌です」「もうすべて読み終えてしまったので嫌です「自分で選んでみたいので嫌です」と拒否されてしまい途方に暮れている。
デモ直後はピリピリとしていたこのデトロイトもだいぶ落ち着き、アンドロイドひとりで外を出歩いても過激な反アンドロイド団体などに破壊されることもなくなった。しかしそれでもまだアンドロイドを嫌う者や恐れる者は多い。こめかみにあるLEDを隠せば人間にしか見えないコナーだが、もし万が一その過激派に彼がアンドロイドだとバレて襲われることがあったとしても私に守りきれるかどうかはわからない。もし守れなかったら、守れなくてコナーが破壊されてしまったらと考えると、とてもではないが連れて行こうとは思えない。
とにかく、ダメなものはダメ。そんなに行きたいのならハンクに許可を取ってからにしてほしい。だけどその場合、朝以外もここにきていることがハンクにバレてしまうけれど、それでもいいのならどうぞ。とぷんすかとLEDを赤くするコナーの手をどうにかして服から離そうと四苦八苦する私に「…それは僕が今この場でハンクに許可を取れば、これからはあなたが外出するときに僕も一緒に行ってもいいというですか?」と人が苦労して剥がそうとしているにもかかわらず一向に服を掴んだまま離さないコナーが静かにそう言った。それに動揺してつい頷いてしまったが最後、相変わらず服は離さないまま彼はLEDに手を当て「あぁ、ハンクですか?」とひとり話し始め、一体何をしているのかとポカンとする私をよそに「僕に彼女との外出許可を。訳は後で話します。ですから早く、許可を!」と声を荒げ「ハンクから許可を取りました。では行きましょう」とにっこり笑いながら私の手を取り、そのまま外に出ようとする。ちょっと待ってと彼を制し、今のは何だと聞くが「ハンクに連絡を取りあなたとの外出許可を得ました」となぜか得意げに言われて意味がわからない。ただひとりごとを言っていただけではないか。
結局自分でハンクに電話をし「何が何だかわからねぇがコナーのことよろしくな」と言われ、コナーが本当にハンクに外出の許可を取ったことがわかり、釈然としないまま彼と共に買い出しに行くことに。まさか携帯端末がなくても連絡できるとは思わなかった。

「いつもここで買い物をしているんですか?」と問うコナーは常にキョロキョロと辺りを見回していて危なっかしいので、迷子にならないよう手を繋いで移動している。
ということで、車で数十分のところにあるスーパーマーケットにやってきた。家から割と近いところにあるため、てっきりコナー達もここで買い物をしているのだとばかり思っていたが「必要なものはほぼすべて僕が注文しているので買い物に行くということがありません」という言葉でアンダーソン家の買い物事情がある程度把握できてしまった。私もすべて注文で済ませていたこともあったけれど、あまりにも人との関わりが希薄になってしまい何だかよくわからなくなってしまったため、今の買い出しスタイルに落ち着いた。少しは人と関わらないとダメだということをこのとき初めて思い知ったのである。
カートを押すにも片手ではできないので、私から離れないようにときつく言ってからコナーの手を離して大きなカートを押す。しばらくは私の横で「今日は何を買うんですか?」「あれは何に使うものなんですか?」「これはあなたがおいしいと言っていたものですね」と話していたのだが、あるエリアに近づいた途端、ぴゅっと先へ行ってしまった。彼に何かあるといけないのでこちらも大きなカートを思いきり押して後を追うと、あるところで目を輝かせる彼を発見した。私が毎回買い出しの度に彼に買って帰る小さな動物のフィギュアがついているお菓子が置いてあるところだった。
どれがほしいかとコナーに聞くと、キラキラした目が瞬時に細められ微かにキュルキュルと機械音が聞こえてくる。これはもしかしなくてもスキャンして箱の中に入っているものを見ている。私もよく全身をスキャンされ身体の調子などを確かめられては「いつも言っていますが筋力が大幅に不足しています。従って僕と一緒に毎日スモウの散歩をすることを推奨します」と言われ続けているのでわかる。
堂々と反則行為を行うコナーにそうやってスキャンして中身を調べるずるい子はあまり好きではないというようなことを言えば「えっ!」と顔をあげ、慌てて私を見るコナー。そんな彼をジッと見つめると「…すみません」と目を伏せ「でも、これはほしいです」と目を合わせずに両手でお目当ての品を差し出してきて気持ちが大いに揺らぐ。ここでOKしてしまったら彼はこうすればずるいことをしてもいいと思ってしまう。しかししょんぼりとする彼はかわいい。何でも与えたくなってしまうくらいかわいい。一体どうすればいいのだろうか…。
厳しくするか今日のところはと甘やかすか、どちらが彼にとっていいのだろうとぐるぐる考えていると「もうしないと約束するので…お願いします」と小指を目の前に差し出すコナーに約束するならと小指を出すと、彼は嬉しそうに自分の小指を絡め指切りげんまんと歌いだす。私が指切りをしてからというもの、何かあるごとに指切りをせがんでいたのだが、特に約束をするようなこともなかったため今までせずにいた。それができたのも嬉しかったのだろう。大きな声で最後まで歌いきり「次からはもう不正行為は行いません!誓います!」と言う彼の顔はずっと嬉しそうなままだ。
コナーにつられあがる口角を隠すことなく彼の目当ての品を受け取りカートに入れる私は、きっと仮の保護者としてはダメな部類に入るだろう。けれどもうしないと約束をしたのだ。約束を破ったら針を1000本飲むという覚悟と共に。それなら今回くらいは見逃してもいいではないか。
私とコナーの約束だと頭を撫でれば「はい、僕とあなたの約束です」とふんわり笑うコナーがそこにいる。コナーはアンドロイドのかたちをした幸せなのかもしれない、そんなことを思いながらふわふわと笑うコナーを撫で続けた。

これでまた当分外に出なくてもいいという量を買って帰ってきたわけだけど、なぜかコナーがそわそわと手を擦り合わせていて落ち着かない。いつもなら飼い猫に話しかけたり、窓を開けて巣箱に住むすずめの様子を見たり、仕事の合間や休憩中、そしてこうして買い出しに行ったあとなどは私と話したりしてくれるのに、今はただそわそわと家の中をいったりきたりしている。ついさっきまではにこにことご機嫌だったのに一体どうしたのだろう。外では彼から目を離さずにいたし、特に何も起こることなく帰ってこられたから大丈夫だと思っていたが、もしかして私の隙をついて誰かに何かをされたのだろうか。もしそうだとしたら早急に聞き出して適切な処置をしなければ。
そわつくコナーを座らせ、どうしてそんなにそわそわしているのか、もし先ほどの外出の際に危害をくわえられたのなら隠さずちゃんと言ってほしいと手を取り懇願する私に「損傷度ゼロ、至って正常です」と答えるコナーは依然として落ち着かない。LEDも赤く光っている。だったら一体なぜそんなにも視線を彷徨わせているのか。
お願いだから隠し事はしないでほしい。私はあなたのことを大切に思っているから心配で仕方がないのだ。と握りっぱなしだった手をもう一度握り直しながら言うと、ハッとした表情の彼が私を見る。やっと言ってくれる気になったかと思っていると「あの、これ!」と先ほど買ってあげた動物フィギュア付きのお菓子をポケットから出し、彼の手を握っていた手に無理やりねじ込んできた。そして彼の意図がまったくわからずポカンとしている私に「このシリーズは僕が特に好きなシリーズで、中に入っている動物はきっとあなたも大好きだ。だからあなたにあげます。僕の大好きなものを、大好きなあなたに」と言い、いまだによくわかっていない私の頬にキスをした。
今まで彼が私にキスをしたことはない。今日が初めてだ。
ぼんやりとしていていつの間にか帰ってしまっていた彼からの贈り物は、飼い猫と同じ柄のかわいいかわいい猫のフィギュアだった。


コナーの私に抱く好意と私の彼に抱く好意が違うものになってしまったのに気付いたのは、頬にキスをされた翌日だ。いつものようにやってきた彼の顔を見たときにはもう顔が火照り、そんな私に「体温の上昇を確認しました。なぜ?風邪?」と近づく彼に胸がありえないほど高鳴る。あぁ、これは恋だ。私はコナーに恋をしているからこんなにも胸が熱く、苦しいのだと思ったときに、彼と私の好意の違いに気付いてしまったのだ。
それからはただひたすらコナーに自分の想いを知られないよう努力をしている。とは言え、彼はスキャンで身体の異常をすぐに見つけてしまうので「脈が早いようですが、どうかしましたか?」と聞かれればコナーが大好きだからドキドキしていると答え、「体温が高いようですが?」と聞かれればコナーが大好きだから身体がぽかぽかしていると答え、「…ストレスレベルが高いのは、一体なぜ?」と聞かれればコナーが大好きだから緊張していると答えているため、傍から見れば自ら進んで彼に自分の好意を伝えているように思えるだろう。まぁ、確かに彼への問いに対する返答はすべて私の本心だ。しかし“好き”ではなく“大好き”という親が子に言うようなニュアンスにすることによって私の本心は隠せていると思う。それに何より、コナー自身が私に友愛以上の情を持ち合わせていないので本人にもバレることはない。木を隠すなら森の中という言葉もあるように、好意を隠すなら好意の中だ。これなら嘘をついているかどうかすらわかってしまう彼に嘘だと指摘されることもない。だって、嘘ではないのだから。

「ハンク!僕に黙って彼女に何をしているんですか!」

「何って見りゃわかるだろ。お前が迷惑かけてねぇか聞いてんだよ」

「それにしては距離が近すぎます!そして僕は彼女に迷惑なんてかけていない!」

「…言いたいことは山ほどあるが、とりあえずお前が抱き着いてる奴の鼓膜が破れかねんからもうでかい声出すな」

今日はハンクが非番で「そろそろスモウ触りにくるか?」という彼の誘いに乗り、スモウを触りに彼の家にお邪魔しているのだが、私と一緒にスモウを撫でていたコナーが本格的にスモウを撫でることに熱中し始めたときにハンクに手招きされた。それでしばらくのあいだ彼とコナーのことについて話していたら、突然の衝撃と共に耳元で大きな声を出されて耳がキーンとなる。百歩譲って後ろから抱き着くのはいい。大好きと言いすぎたせいか近頃こうして抱き着いてくることが多いのでまだ耐性がある。しかし耳元で大きな声を出すのはダメだ。耳がおかしくなってしまう。もし大声を出したければ肩に顎を乗せた状態ではなく、直立不動の状態で出してほしい。それなら身長差によって何とか耳元ではなくなるから。
「鼓膜、異常なし」と耳をスキャンしたのかそう呟くコナーは、まだ微かに耳がキーンとしている私の肩に額を押し付け「大声を出してすみません…」とハンクに言われたことを気にしているのか謝ってきた。けれど別に耳がキーンとしただけで鼓膜も破れていなかったので大丈夫だと頭を撫でると「ありがとう…大好きです」と猫のように擦りついてくる。これもきっと私が彼に大好きと言いすぎたせいだろうが、彼もことあるごとに大好きと言うようになってしまった。

「それにしても、お前等いつの間にそんな仲良くなったんだ?」

「最初からです」

「嘘つけ。はじめの頃なんかお前人見知りしてたじゃねぇか」

「それは緊張していたからです。でも、緊張していただけで決してあなたのことが嫌いだったわけではありませんからね!」

私に抱き着いたままハンクの問いに答えるコナーが急に離れ、ハンクと私のあいだ回り込んだと思えば両手を掴み必死に人見知りの訳を話し出したため、コナーの後ろでポカンとしているハンクと共にポカンとコナーの人見知りの訳を聞くことに。
コナーの話によると、そもそも私に慣れてくるまでの彼の態度は人見知りではなく本当に緊張していたためああなっていたらしい。しかし「あの頃からあなたのことが好きだったので」と得意げに言うコナーのその一言で今度は首を傾げることになった。あの頃とは一体どの頃のことなのだろう。今は大好きと言葉にしてくれるため好かれていることはわかるのだが、それよりも前から大好きだと言われても実感がわかない。それくらい最初のときは素っ気なかったのだ。
私と同じように首を傾げていたハンクも同じことを思ったようで「あの頃ってどの頃だ?」と聞く。すると後ろを振り向き「まだ自宅から彼女を見ていたときですね」と答えるコナー。自宅から…?となる私をしり目に「おい…もしかしてお前、こいつの家にくる小鳥のこと見てるんじゃなくてこいつのこと見てたのか…?」「いえ、小鳥も観察していましたが彼女のことも見ていました」「お前…」「何ですか?」「それ、一歩間違えたら犯罪だぞ…」「…そういえばそうですね」「おい」と話を進めていく彼等についていくことができない。小鳥達だけでなく私のことも見ていた…?
だとすればあのときコナーに見られていると思ったのは勘違いではなかったということか。自意識過剰だと自分を恥じる必要もなかったということか。と、互いに窓から小鳥達を見ている時期に起こったことについての真相を知り、うんうんと頷いている私をよそに「…で、何でそんなときからこいつのこと好きなんだ?そのときはまだお前等会ってねぇよな?」「よくぞ聞いてくれましたね、ハンク!これには深い訳があるんですよ!」「あー…やっぱりいい。聞きたくねぇ」「ハンク!そんなこと言わずに僕の話を聞いてください!もちろんあなたも!」と再び話を進めていた彼等の片割れであるコナーによって、ハンクの隣まで連れてこられ「今から僕がなぜまだ初対面を果たしていない時期に彼女のことを好きになったのかをお教えしますね」と頼んでもいないのに話し始めた。
とはいっても「小鳥を見る目や飼い猫を撫でる手付きがとても優しかったので」としか言わなかったため、そう恥ずかしい思いをすることもなかったのだが。

「…それだけか?」

「えぇ、その時期はそのふたつの理由だけです」

「ということは、それはきっかけにすぎないってことか」

「さすがハンク、よくわかりましたね」

「バカにしてんのか、お前…」

正直に話すとそれだけ…?とコナーの話を聞いた直後は思ったのだが、ふたりの話を聞くにそれだけではないことがわかり口の端がむずむずとあがっていく。そのふたつはきっかけでしかないのだ。まだ他にも私を好きになった理由があるのだ。いくら私と彼の好意の意味が違うとは言え、好きな人に好きになったきっかけや話していないだけで好きになった理由がまだあると教えてもらえるのは嬉しい。それだけ彼に好かれているとわかるから。
「あとは後日、あなただけにお話ししますね」と抱きつき私の頬に自分の頬を寄せるコナーをよしよしと撫で、楽しみにしていると言葉をかけると「なので、あなたも僕の好きなところを話してくださいね」と無茶なことを言われ、思わず横にいるハンクに助けを求める。しかし「はぁ…ごちそうさん。末永くお幸せに」と呆れてスモウのほうへ行ってしまい助けてはくれず。
別にコナーの好きなところを本人に言ってもいいのかもしれない。今までも彼に疑問を持たれるごとに大好きだと言ってきたわけだし。だけど、彼に問われるのと自分から話すのは違う。もしかしたら告白していくうちに彼に対する本当の想いが溢れ出してしまうかもしれない。そのことによって彼が自分の好きという気持ちと私の好きという気持ちが違うものだとわかってしまうかもしれないのが怖い。それによって今の関係が壊れてしまうのが怖い。

コナーの無茶ぶりに対して、いつも言っているようにあなたの全部が大好きなのだから今さら話すことでもないと誤魔化す私に「…そろそろ本当の気持ちを話してほしいと思うのは、僕のわがままですか」と囁く彼のその低く身体に響く声色を、私は今までに一度も聞いたことがない。


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