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シンジの甘え癖に危惧を覚えたあたしは、さっそく次の日からその甘え癖を直すべく学校の帰り以外あたしに話しかけたり接触することを禁じた。
シンジは最初こそあたしの話をぼけっと聞いてたけど、あたしが言ったことの意味がわかった途端「な、何で?!」って青ざめた顔であたしに詰め寄ってきたのよね。だから、そんなシンジから離れながら「このままだとあんた、ダメな大人になるわよ!」って言ってやったわ。
シンジは「別にダメな大人になってもいいよ!アスカちゃんがいてくれればそれでいいよ!」って離れるあたしを捕まえようと必死になってたけど、それを華麗に回避しながら「やーよ」って言い続けてたら…シンジ、泣いちゃった。「ぼ、僕…アスカちゃんがいなきゃ生きていけない…」って…
いつもならここであたしがもういいわよって折れてなぁなぁになるんだけど、そのときはもういいわよも何も言わなかった。だって、ここでまたあたしが折れたらシンジの甘え癖は一生直らないから。だから、あたしはめそめそ泣いてるシンジの涙を拭いたいという衝動を必死に抑えたわ。
それはもう、噛み締めた唇から血がにじみ出るくらい必死にね。
しばらくするとシンジも泣き疲れたのかうとうとしてきたから、そのときにシンジの甘え癖がいかにみっともないかとかをこれで最後だからねってことで優しく抱き締めながら説明して、うっとりとあたしの胸に顔を埋めるシンジに半ば強引に約束させた。
こんなことほんとはしたくなかったんだけど、こうするとあたしの言うこと何でもきくから仕方なく…
うぅ…シンジのスケベ…
というわけで、シンジとは学校の帰り以外話すどころか目すら合わせてない。
ほんとならシンジと一緒に帰るのもやめたかったんだけど…シンジのやつ、変質者に襲われたでしょ?そんなことがあったのにひとりで帰らせるほどあたしも鬼じゃないわよ。まぁ、しばらくしたらひとりで帰らせるけどね。
甘える対象であるあたしから離れれば、そのうちあの異常なまでの甘え癖も直るでしょ。うんうん。
って、思ってたんだけど…
「…ねぇ、アスカ」
「な、何?ヒカリ」
「碇くん、またアスカのこと見てるわよ…そろそろ許してあげたら?」
「だ、だからケンカなんかしてないってば!」
たった1週間!シンジにあたし離れをさせてからたった1週間しか経ってないってのに、シンジのやつ学校にいるあいだずっとあたしのこと見てくんのよ!それも今にも泣き出しそうな顔で…!
しかも、ちゃんとご飯食べてないのか心なしか頬も痩けてきてるし、足取りもふらふらしてておぼつかないし…
何なのよ、あいつ…あたしに甘えられないのがそんなにつらいの!?
つーか、そんなこといったらあたしだってシンジのご飯が食べれなくてつらいんだからね!それに、シンジのせいでみんなにケンカしてるって誤解されてるのも地味につらいのよ!
だから、あんたひとりがつらいみたいな空気出すのやめなさいよ!バカ!
「…ケンカしてないのなら、何で碇くんはアスカのことあんな顔で見てるの?」
「そ、それは…」
「何があったか知らないけど、話だけでも聞いてあげたら?」
…ヒカリはただあたしがシンジと仲直りしやすいようにしてくれてるのよね…あたしのためを思ってそう言ってくれてるのよね…
あぁっ!言いたい!ほんとはシンジの甘え癖を直すためにあたし離れをさせてるんだって言いたい!だからそんな的外れなこと言わないでってヒカリに言いたいっ!
でも、シンジに甘え癖があるのを知ってるのはあたしだけ…
あぁん!もう!どうすりゃいいのよこれ!
何であたしがこんなめに合わなきゃなんないのよ…!
「ちょっとシン「アスカッ!」」
「ひっ!」
「い、今僕の名前呼ぼうとしたよね?シンジって呼ぼうとしたよね?うん、僕はシンジだよ!アスカの家の隣に住んでる碇シンジだよ!」
「ち、ちょっ…シンジ…?」
「僕は…碇シンジは小さいころからアスカと一緒にいる幼なじみだよ!これからも一緒にいる予定だよ!死ぬまでずっと一緒にいる予定だよ!だから、僕と結「うぉぉぉりゃあぁぁぁぁ!!!」」
「あぐっ!」
怒りに任せてシンジに話しかけたあたしも悪かったと思うけど、ガタガタンってイスを倒しながら立ってあたしを驚かせた挙げ句、クラスのみんなの前で言っちゃいけないようなことを言おうとしたシンジのほうが悪い。
つーわけで、シンジのアゴにアッパーを食らわせて即KOよ。フッ…キマった!
…だけど、シンジはあたしに何を言おうとしてたのかしら?あたしの第六感がこれ以上シンジにしゃべらせるなって訴えかけてきたから黙らせたけど…うーん…
……って、そんなこと考えてる場合じゃないわ。シンジを保健室に連れて行かないと。で、起きたら説教してやらないと。
さーて、何から説教してやろうかしら。ふふふっ!
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