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いくら変質者に遭遇してかわいそうだったからってシンジを甘やかしたのは間違いだったかもしれない。
シンジがあたしから離れない
あたしがいるからもう怖くないっていうのがシンジなりの強がりだってことはわかりきってたから、泣きやんだシンジが家に帰ろうとしたところを強引に引きとめたのよ。
だって、あたしのところと同じでおじさまもおばさまも今日は帰ってこないって言うし…そんな誰もいない家に帰せるわけないじゃない。だから、今日は泊まっていきなさいってシンジの頭を撫でながら言ったわけ。
シンジったらあたしがそう言ったらすごい勢いで頷いてたわよ。首が取れるんじゃないかってくらい力強くね。
やっぱり、まだひとりにはなりたくなかったのね…まぁ、当たり前か。あたしだって変質者に襲われたら……はんっ!あたしはシンジみたいにぼけっとしてないから大丈夫よ!襲われたら返り討ちにしてやるわ!
ふんっ、あたしにはシンジを守る義務があるんだから弱気になんかなってられないのよ!
それでそのあとはシンジの家に行ってシンジの着替えやらなんやらを持ってきたり、シンジがあたしと一緒に寝るってわがまま言い出したから仕方なく客間にお布団を二組敷いたり、シンジが泣いたら小腹が減ったって言うから冷蔵庫に入ってたシュークリームをあげたり、そのシュークリームを食べさせてって口をパクパクしてくるシンジにこれまた仕方なくそのシュークリームを食べさせてあげたりでわたわたしてたんだけど、そこでひとつ思い出したのよ。あたし、まだお風呂入ってないって。
だからシンジにお風呂入ってくるわねって言ったら、僕も入るって…そう言ってお風呂場に行こうとしてたあたしについてこようとしたのよ、あのバカ。
もちろん、何言ってんのよ!って拒否したわ。だって、あたしもシンジももう14歳なのよ?一緒に入れるわけないじゃない。
なのに、シンジったら「やだ!アスカちゃんと一緒に入る!入るったら入るんだい!」ってあたしの腕にしがみついて離れないし…
こんなことになるならあのとき泊まっていけなんて言わなきゃよかったわ…
「…ねぇ、シン「やだ!」」
「まだ何も言ってないじゃない…」
「言わなくてもわかるもん!」
「そう…」
押しても引いてもあたしから離れないシンジに疲れて、今はお風呂に入るのは一時中断してソファーに座ってる。シンジは相変わらずあたしの腕にしがみついて嬉しそうにほっぺをあたしの肩にすりすりと擦り付けてる。
どうすりゃいいのよ、これ…つーか、何なのよこの状況…
ったく、「えへへ、今日はアスカちゃんと一緒…ずっと一緒…」じゃないわよもう…
…ていうか、ずっとってことは……トイレも?えっ、ちょっ…えぇっ!?
「は、離れなさい!今すぐ離れなさい!」
「やだ!離れない!ずっと一緒にいる!」
「い、嫌よ!トイレまで一緒なんて絶対嫌!」
「えっ、トイレ?トイレは別々だよ?」
「えっ…?」
トイレは別々なの?ってあたしがポカンとしてると、シンジが「一緒なのはお風呂までだよ。だから安心して、アスカちゃん」ってにっこりと笑いながら言ってきた。
何だ、トイレは別々なのね。ずっと一緒なんて言うからあたしてっきりトイレも一緒なんだとばかり…
まぁ、トイレが別々なら他はシンジと一緒でもいいか。
……ってよくないわ!全然よくないわよ、あたし!
トイレのインパクトが強すぎたせいでお風呂くらいどうってことないみたいなかんじになってるけど、思いっきりどうってことあるわ!むしろ、お風呂のほうがいろいろと…いや、やっぱりトイレが一番ダメね。お風呂は二番目くらいかな?
…とにかく、シンジのペースに完全に巻き込まれる前に気付いてよかった。もしこのまま気付かなかったら………ほ、本当によかったわ、気付いて…
「コラッ、お風呂もダメよ!」
「ちぇっ」
「ったく、油断も隙もありゃしない」
「…でも、僕はアスカちゃんと一緒にお風呂に入るよ。もう決めたんだ」
「あ、あんたねぇ…いい加減にしないと「お願いだよアスカちゃん、僕をひとりにしないで!僕を見捨てないで!僕を殺さないで!」」
「あー…はいはい、あたしはあんたのことひとりにしないしあんたのこと見捨てたりしないしあんたのこと殺したりしないわよ」
「じ、じゃあお風呂も一緒「殺すわよ」」
「うわぁん!アスカちゃんの嘘つき!」
…このあとシンジがあまりにも嘘つき嘘つきうるさいから、これ以上うるさくしたりお風呂一緒に入るって言ったらもう一生口聞いてやんないわよ!って言ったらあわわって言いながら手で口を押さえて黙った。
…最初からこうしとけばよかったわね。ま、最終的にシンジと一緒にお風呂に入らなくて済んだから別にいいけど。
ていうか、それよりもシンジの甘え癖をどうにかしないと…
このままだとシンジのやつ、ろくな大人にならないわ。
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