あたしとふたりのときはアスカちゃんアスカちゃんってしつこいほど甘えてくるシンジだけど、さすがに人前で甘えてくるだけの度胸はないみたい。
…まぁ、そんな度胸あっても困るけどさ。

だから、シンジが本当は甘えん坊で泣き虫でちょっぴりわがままなことはあたし以外誰も知らない。…おじさまとおばさまは薄々気付いてるみたいだけど。
ま、当たり前か。仕事であまり家にいないっていってもシンジのパパとママであることにはかわりないわけだし…そのくらいわかるわよね、普通。


そんなわけで、外ではシンジも年相応に振る舞ってる。
あたしとしてはずっとそのままでいてくれるといろいろと負担が減ってありがたいんだけど、なかなかそうもいかなくて…もう、何だかなぁってかんじよ。

…あたし、あいつのママじゃないんだけどなぁ…


「シンジ、お弁当」

「うん…はい、アスカ」

「…一緒に食べる?」

「う、うんっ!」

この前も言った通り、あたしはなぜか料理があまりうまくない。それで仕方なくあたしよりも料理ができるシンジがあたしの代わりに毎朝早起きしてお弁当を作ってくるの。
ほんとはお互いママに作ってもらうのが一番いいんだろうけど、あたしのママもシンジのママも帰りが不規則だから…それでシンジが作ってるのよ。


でも、正直あたしはママの料理よりもシンジのほうが好き。だって、シンジはあたしの好きなものばかり作ってくれるんだもん!それにとってもおいしいのよ、シンジの料理!だからあたしシンジのご飯大好き!
…あっ!べ、別にママの料理がまずいってわけじゃないのよ?ただ、たまにあたしの嫌いなものを出すから…それでちょっと、ね。

…ピーマンなんか食べなくたって生きていけるもん…


「えっ、アスカ今日シンジくんとお弁当食べるの?じゃあ、私も「ダメよ」」

「えー、何で「とにかく、ダメったらダメなの!ほら、行くわよシンジ!」」

「う、うん。霧島さん、ごめんね」

「ぶー、アスカだけずるーい!私もシンジくんと一緒にお弁当食べたいのに!」

シンジの手を掴んで教室を出るあたし達の後ろでブーブー文句を言ってるのは、このあいだ転校してきた霧島マナ。
明るくてハキハキした結構いい子なんだけど、シンジにまとわりついてくるのがねぇ…それがなきゃとってもいい子なんだけど。

マナのやつ、シンジのことが好きなのかしら…?
…まぁ、マナのことはヒカリやレイに任せるとして…あたし達は屋上を目指して階段をずんずん登っていく。
この学校には屋上でお弁当を食べようってやつがいないのか、いつ行っても誰もいないのよねぇ。だから、たまにこうしてシンジを連れて屋上まで足を運ぶってわけ。

べ、べべべ別にシンジの様子がおかしいから連れてきたわけじゃないんだからね!き、気晴らしよ気晴らし!たまにはヒカリ達以外のやつと食べたかっただけよ!
シ、シンジのことなんか別にどうでもいいんだから…!



「…で、どうしたのよ?また誰かにいじめられたの?」

「えっ…?」

「はぁ…何かあったからあんな暗い顔してたんでしょ?ほら、早く言いなさいよ」

「う、うん…でも僕、そんなに暗い顔してたかな?」

屋上に着いていつもの場所に座ったあとすぐシンジにあのお弁当を渡すときの浮かない顔のわけを問いただすと、シンジは首を傾げながらもポツポツとそのわけを話し出した。
何でも「今日はアスカ…ううん、アスカちゃんに触ってないなって思ったら何か悲しくなっちゃって…それでちょっと」ってわけらしい。


なーんだ、そんなことで落ち込んでたの、こいつ。あたし、てっきり誰かに…あたしにふられたやつらにいじめられたんだとばっかり…
…ほら、シンジってあたしの幼なじみでしょ?学校ではあまり一緒にいないようにしてるんだけど、幼なじみってことで標的になりやすいのよ。

シンジがいじめられないようにあたしもいろいろと努力はしてるんだけどねぇ…一緒にいればいるほどやつらの怒りを買うことになるみたいで、なかなかうまくいかないのよ。
はぁ…美しいってほんと罪よねぇ…


「このバカシンジ!」

「うわっ!」

「そんなくだらないことで落ち込んでんじゃないわよ!」

「ご、ごめっ…アスカちゃっ、ごめ…あはっ!だ、だから…ふへっ…あははっ!く、くすぐらないでっ…あはははは!」

「やーよ。やめてあげなーい」

「そ、そんなぁ…ひゃあっ!そ、そこは…はうっ!」

ま、とにかくシンジがいじめられたんじゃなくて安心したわ。だけど、このあたしを心配させた罪は重いわよ!というわけで、シンジにはくすぐりの刑をたっぷりと受けてもらった。
ふふっ、シンジったら相変わらずわき腹が弱いのね。真っ赤な顔してひぃひぃ言ってる。それに口の端からよだれまで垂らして…まったく、だらしないわねぇ。

でも、嫌いじゃないわよその顔。あんたらしくってさ。





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