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別に体育は嫌いじゃないけど、今やってる短距離走はあんまり好きじゃないのよね…だって、何度も何度も全力で走らなきゃならないのよ?ったく、疲れるったらありゃしない!まぁ、校庭を無意味に何周も走る長距離走よりかはマシだけど…
つーわけで、今日の体育ももちろん短距離走で嫌々走るあたし達女子。はぁ…男子はいいわよね、走り高跳びなんだから。あたしも走り高跳びでベリーロール無双したいわよ…



「アスカ、あなたは座らないの?」

「んー…」

「…何を見ているの?」

「男子」

「なぜ男子を見ているの?」

「ずるいから」

「なぜずる「綾波さん、アスカは本当は碇くんを見てるのよ。だからそっとしておきましょう?ね?」」

地面に座りもせずピョンピョンとバーを跳び越えていく男子を見てるあたしに声をかけるレイと、見当違いなことを言うヒカリ。
あぁもう…ヒカリが変なこと言うからレイも「そう、アスカは碇くんに見惚れていたのね」って変なこと言い始めちゃったじゃない!しかも、微笑ましいものを見るような目であたしのこと見てくるし……はぁ…何だかなぁ…


…って、何でこのあたしがシンジなんか見なきゃいけないのよ!あんな跳ぶ度にバーと一緒にゴロゴロとマットに転がったり転がりすぎてマットから落ちたり落ちた拍子に頭を打って身悶えるようなやつなんか見るはずないでしょ!
ったく、変な勘違いすんじゃないわよ!もう!



「あ、あたしは別に「隙ありっ!」」

「きゃあっ!」

「わっ!ア、アスカ!?」

「…霧島さん、膝カックンは危ないからしてはダメ」

「えっ…あ、あー…うん、もうしな「アスカッ!」」

あたしとしたことが、マナに隙を見せるなんて…アスカ、一生の不覚!
そんなわけで、あたしはマナのせいで校庭のど真ん中…でもないけど、真ん中に近いところで動物みたいに手足を地についてる。つまり、膝カックンをまともに受けてその場に崩れ落ちたのよ。

あいたたた…ちっちゃい石が食い込んで痛い…


…って、誰よ!あたしの名前を叫んでるバカは!そんなでかい声であたしのこと呼ぶんじゃないわよ!
そう思いながらいまだに「アスカ!アスカッ!」って叫ぶバカのほうを見ると、そこにはすごい勢いでこっちに走ってくるシンジがの姿が…!

ちょっ…な、何してんのよあいつ!何でこっちに……あっ!



「シンジッ!」

シンジが転んだ。ズシャッ!って、小さな子どものように派手に転んだ。その瞬間あたしは手のひらや膝に小石を食い込ませたまま走り出していた。だってあの転び方、小さいころと同じ転び方なんだもん!シンジが絶対大泣きする転び方なんだもん!
だから、あたしは走る。シンジを抱きしめるためにあたしは全力で走る。


早く行かなくちゃ!早くシンジのところに行かなくちゃ!早くシンジを抱きしめなくちゃ!早くわんわん泣くであろうシンジを抱きしめなくちゃ!
早く!早く!早く…!



「シン「ア、アスカ!大丈夫!?」」

「…えっ?あ、あたしは別に「あっ!膝が赤くなってるじゃないか!先生!アスカが怪我をしてるので保健室に連れて行きます!」」

「ち、ちょっ…怪我してんのはあんたのほう……きゃっ!」

…おかしい。すごくおかしい。助けにきたのはあたしのほうなのに、転んで怪我をしたのはシンジのほうなのに、それなのにあたしは手のひらや膝を怪我したシンジにお姫さま抱っこされた挙げ句ドタバタとすごい勢いで保健室に連れて行かれた。
もうね、それがあまりにもおかしすぎて何も言えなかったわ。ただ「アスカ!僕にしっかり掴まって!」って言うシンジの言う通りシンジの首にしがみついて…で、気付いたら保健室にあるイスに座ってたってわけ。

人間、あまりにもおかしなことに直面すると言葉が出ないどころか記憶まで吹っ飛ぶのね…校庭から保健室まできた記憶が見事にないわ…


…それにしてもシンジのやつ、いつの間にあたしのこと抱えあげられるようになったのかしら?…あっ、火事場の馬鹿力か。まぁ、そうよねぇ…火事場の馬鹿力でなけりゃあのもやしっ子なシンジがあたしのことをお姫さま抱っこなんてできるはずないもんねぇ。
……って、そんなことより!



「ふぅ…これでよし。もう大丈「よ、よかないわよ!このバカ!バカシンジ!」」

「えっ…な、何「怪我してんのはあんたのほうなのに……もうっ!ここ!早く座りなさい!手当てするから!」」

「い、いいよ「いいから座る!ほら、早くっ!」」

「う、うん…」

あたしの膝に包帯を巻いて満足そうに息を吐くシンジをイスに座らせ、傷の具合を見る。膝も手のひらも血と砂にまみれてひどいことになってる…
とりあえず水で濡らしたガーゼで傷口をきれいに拭いて、消毒液をこれでもかってくらいぶっかけた。消毒液がしみるのかシンジはうーうー呻いてたけどそれを無視して包帯を巻いていく。

…こ、これでいいのよね?大丈夫よね?


つーか、こんなときに保険医がいないってどういうことよ!保険医ならずっと保健室にいなさいよ!もう!



「あ、あの…ありが「これはあくまでも応急処置だから、またあとで保険医にやってもらうのよ。いい?わかった?」」

「うん、わかった」

「…で、何でこんなことしたの?」

「えっ?こんなこ「何であたしをここに連れてきたのかって聞いてんのよ!」」

あたしがそう言うと、シンジは「だって、アスカが転んだから」ってさも当然のように言ってきた。あれのどこが転んだように見えるのかしら…まぁ、百歩譲って転んだように見えたとしても膝の具合を見れば転んだわけじゃないってすぐわかると思うんだけど。
それでシンジにそう言い返したら「でも、アスカの膝…赤くなってたから」ってムスッとしながら言ってきて、何かもうシンジのことがよくわからなくなってきたわ…

何で膝が赤くなってるだけで保健室まで連れてくるのよ…しかも、お姫さま抱っこまでして…



「あんたねぇ…たかが赤くなっ「…たかが?」」

「…えっ?」

「あのね、アスカは僕のお姫さまなんだよ。大事な大事なお姫さまなんだよ。だからどんな些細なことでも気になるし、ほんの少しでも傷付いてほしくないんだよ。いつまでもきれいでいてほしいんだよ」

「なっ…な、ななっ…何言っ「だからね、アスカ。たかがなんて言わないで?アスカの膝が砂や小石のせいで赤くなったことはたかがなんかじゃないんだからさ」」

「…じゃあ、あんたも自分のことよりあたしのことを優先するのやめ「やだ!」」

「ちょっ…!まだ最後まで言「やだ!」」

「シンジ!」

「やだ!」

「…はぁ…」

結局、やだ!しか言わなくなったシンジの相手をするのに疲れて体育が終わるまでここで休むことにした。
ちなみにあたしのことをお姫さまと言ってドキッとさせたシンジは、これ幸いとばかりに空いてるベッドにあたしを座らせてあたしの太ももに自分の頭を…ま、俗に言う膝枕ね。それを思う存分堪能してるわ。あたしは…特にすることもなかったからシンジの頭を撫でてあげてる。シンジったらあたしが撫でる度に嬉しそうに笑って、何だかあたしまで嬉しくなっちゃった。

んー…毎日は嫌だけどたまにならしてあげようかしら?


でも、その前にこいつの自分のことを後回しにする癖をどうにかしないとね。はぁ…



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