10-2


「ねぇ、シンジ」

「ん、何?」

「あんたさ、勉強とか運動とか…何で真面目にやりだしたの?」

ひとりで悶々と考えすぎてシンジにどうなってほしいのかよくわからなくなったあたしは、これまたいろいろと考えた末にあたしの思考回路をショート寸前にしやがった憎いあんちくしょうであるシンジに直接聞いてみることにした。ほら、タイミングよくシンジがあたしの隣に座ったことだし、聞くなら今っきゃないでしょ?
つーか、またまたいろいろと考えたときにわかったことなんだけど、あたしってばシンジがそうなった理由をまだ聞いてなかったのよね…


いや、別に興味がなかったわけじゃないのよ?むしろシンジがおかしくなったんじゃないかと思って気が気じゃなかったんだから!
…えっ?じゃあ、何でそのときに聞かなかったのかって?だって、よくよく考えたら勉強や運動を真面目にすることもあたしから離れることも別におかしいことじゃなかったんだもん。それどころか、シンジにとってすごくいいことだったから…だから聞かなかったのよ。

ったく、こんなことになるならさっさと聞いとけばよかったわ…



「えっ…何でって、そんなのアスカと赤ちゃんのために決まってるじゃないか」

「あ、あたしと赤ちゃんのため…?」

「そうだよ。僕はアスカと赤ちゃんにふさわしい男になるために日々がんばってるんだよ」

「…ふーん」

生意気にも胸を張りながらそんなことを言うシンジと、そんなシンジを見てちょっとイラッとするあたし。
何よ、偉そうに胸なんか張っちゃって。つーか、赤ちゃんって何?あっ、もしかしてこいつ…誰かを妊娠させたんじゃ……って、それはないか。シンジにそんな度胸があるとは思えないし。

きっと、おばさまが妊娠したのね。それで兄としての責任が芽生えたんでしょ。うんうん。



「ま、生意気なのはともかく、いい心がけね」

「えへへっ」

「でも、あたしにふさわしい男になんかならなくてもいいわよ。今は赤ちゃ「な、何で?!」」

「きゃっ!」

今は赤ちゃんとおばさまのことだけを考えなさいって言おうとしたのに、シンジが急にあたしの肩を両手でがっちり掴んだ挙げ句大声を出すもんだから最後まで言えなかったわよ。ったく、何なのよこいつ…いきなりでかい声出してんじゃないわよ!びっくりするでしょ!
あと、いつまであたしの肩掴んでんのよ!痛いんだけど!


って、怒鳴ってやろうとしたんだけど「ぼ、僕…僕っ…アスカのためにがんばってるのに…アスカにふさわしい男になるために苦手な勉強も運動もがんばってるのに…本当はいつだってアスカにくっついていたいけど、それじゃあアスカにふさわしい男になれないから必死に我慢してるのに…なのに何で?何でそんなこと言うの?ねぇ、何で?何でなんだよアスカ!」って狂ったようにあたしの肩を揺するから怒鳴るに怒鳴れないっつーか…

えっ…ど、どうしちゃったのよ一体…



「あ、あの…シンジ?」

「何だよ!」

「あ、赤ちゃ「そんないもしないやつよりアスカのほうが大事だよ!」」

「なっ…!」

「僕はアスカにふさわしい男になりたいんだよ!アスカのために「バ、バカッ!」」

「あうっ!」

最初はいつもと違うシンジに怯えてたあたしだけど、シンジがあまりにも最低なことを言うからぶっ叩いてやったわ。だって、これから産まれてくる赤ちゃんにたいしていもしないやつって言ったのよ!?ぶっ叩かれて当然よ!
だけど、シンジはそうは思わなかったみたい。あたしの攻撃で一瞬怯んだけど「何すんだよ!」ってあたしに掴みかかってきやがったのよね。


そこから先はもうひどいもんよ。シンジの家にいたんだけど、あたしもシンジも掴み合いの怒鳴り合いでリビングを右に左にゴロゴロ転がりまくり。もう体中痛いったらないわよ。
でも、そのときは頭に血がのぼってたからそんなの全然気にならなかったんだけどね。シンジも同じなのか全然痛そうにしてなかったし。


…しっかし、こんな派手にケンカしたのって何年振りかしら?ちっちゃいころはしょっちゅう……いや、あのときはいつもあたしが一方的に怒ってただけだ。シンジは怒ってない。

そう…どんなときでも怒るのはあたしでシンジはいつもそんなあたしにたいして「ごめんね、アスカちゃん」って眉毛をハの字にして謝ってた。でも、今は…



「…ねぇ、シンジ」

「何だよ!」

「ごめん」

「…えっ」

「あたしにはシンジがどうしてこんなに怒るのかわからない。それどころか、産まれてくる赤ちゃんを蔑ろにしたシンジが許せないわ。でも、あたしには怒ったことがないシンジがこんなにも怒るってことは何かわけがあるのよね?だから…ごめん、シンジ。わかってあげられなくてごめんね」

「アスカ…」

このあとあたし達はお互いになぜ怒ったのか徹底的に話し合った。

赤ちゃんのことに関してはおばさまは妊娠してないみたい。だったら何で赤ちゃんの話題なんか出したのよって話よね…シンジいわく「い、いつかは必ず産まれるから…それで…」だって。そんな、いつか産まれるらしい赤ちゃんのことで怒ったあたしって一体…
で、シンジが怒った理由なんだけど「アスカのためにいろいろとがんばってたのに、その張本人のアスカがそんなのしなくていいって否定したから…それで…」だって。あー…確かにそんなこと言ってたような…ま、まぁ過ぎたことを気にしても仕方ないわよね、うん。


んで、そのあと「つーか、あたしのためにあたしのためにって言ってるけどシンジのすることなすことすべてあたしのためになってないんだけど。だってあたし、シンジがあたしにふさわしい男になることなんて全然望んでないし。てか、シンジはそのままでいいのよ。あたし、今の無理してがんばるシンジより元のダメダメなシンジのほうがいいし…無理やり変わることなんてないわ。ま、勉強も運動も適度にできたほうがいいけど。あっ、あとあたしとの距離も適度に保ってほしいわねぇ」ってなんとなく思ったことをシンジに言ったら「ア、アスカッ!」ってすごい勢いで抱きつかれた挙げ句これまたすごい勢いで泣かれたんだけど…今まで必死に我慢してたであろうシンジに免じて許してあげるわ。

だからもういきなり変わろうとするんじゃないわよ、シンジ!



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