(ミヤバキというか宮野くんとバッキー)





なんてことはない。

死んだら心臓が止まるだとか、1たす1は2になるだとか。
そんな、この世にごくわずかにある「絶対」のこと。
宮野といると、そういう感覚が狂った。もちろん、悪い意味でなく。


彼女が出来たことを、誰よりも先に教えてくれたのが、嬉しいような、どこか胸の奥がスースーするような。
例えようのないむずがゆさから逃れるようにして、「おめでとう」と笑った。

いつもと変わらない、まるで新しいスパイクを買ったと言う時のような、普段通りの彼独特の明るさで言ったから、どうもこちらが大袈裟に祝福してやるのも違う気がして。
でも一言で終わらせる話題でもないと思ったので、もう少し聞いてみることにした。


「どういう経緯でそうなったわけ?」

「んー、地元の子でさ、ていうかぶっちゃけ同級生なんだけど」

「へえ、同窓会かなんかで再会したのか」


そういえばこないだ、高校時代の友人たちと呑むとか言ってたかもしれない。


「じゃあお互いのこと多少は知ってるから、気遣わなくていいじゃん」

「まーそうなんだけど。なんてか、逆に照れがあるっつーか……いや、照れてんのは向こうだけだ」


だから、正直たまにちょっとめんどくさい。

軽い調子でそう漏らす宮野が言っていることは、分からないでもない。宮野はなんというか、裏表がないというか男らしい性分で、友人でも彼女でも、大差なく接するタイプなのだろう。しかし彼女となると、やはり多少態度を変えるのか。その辺りは見たこともないので、はかりかねるが。
めんどくさいなどという結構ひどい言葉を吐く唇は相変わらず微笑んでいて、頬は緩んでいる。つまりそういうことだ。

きっと彼女を大切にしているんだなと思いながら、宮野を見つめた。


「楽しそうだなぁ」

「えっ、楽しそうに聞こえること話したっけ?」

「聞こえるっていうか、見える」


宮野の前では緊張せずに笑うことができる。年齢とかそういう条件もあるだろうが、宮野の天性の包容力みたいのが効いてると思う。宮野の彼女が宮野のどこに惹かれたか、友人である俺でさえよく分かるのだ。


「でも楽しさで言ったらさぁ、お前といた方が楽しいよ」


突然言われた言葉の意味を上手く拾えなくて、ん?と首を傾げる。
宮野はテーブルにぺたりと頬をつけたまま見上げてくる。

「椿と付き合ったら超楽しそう」

「…………、」

おかしいな、死んでないのに心臓が止まったかと思った。

ぎょっとする俺とは裏腹に、宮野は冗談で言っているのが丸わかりのニカリとした笑顔だ。


「……っえ!?」

「ま、ありえねーけどな」


自分の頬が熱を持つ理由が分からない。
さっき止まったと思った心臓は今度は耳に響くほどバクバク鳴りだした。
こんなに動揺している自分にも驚くが、しばらくは落ち着けそうにない。


宮野、こんなの、同級生でなくても、照れるよ。




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