(サカヒラ)





(……あ、)


見知った姿を遠目に捉えた、憶測を確かめるために目を凝らした瞬間に手前の違う人影によって視界を遮られた。
わざわざ姿勢を変える気にもなれなくて人影が去るのを待ってから同じ場所を見ると、当然探していた姿は見えなくなっていた。


後で本人に聞いてみようと前に向き直った刹那、気配に気づく前にそれの手のひらによって光を見失う。

突然の出来事に驚くことも出来ないでいると「だーれだ」と楽しそうな声が降ってきた。


「……おい、」
「電話しようかとも思ったけど反応見たくて」


つい今し方見かけたそいつが今度は背後に現れた。
やはり見間違いではなかったんだと自己完結し、こっちもお前を見つけていたとは言わないことにした。

調子に乗られる気がしたから。


「いい加減離せ」

「あ、ごめん冷たかった?」

「そうじゃない」


再び光を一気に受け入れたが眩しいとは感じなかった。

雪崩れ込むようにして、その割に身軽に向かい側の席に座り、肩に手を当て首を回している。


「コートとマフラーで拘束されてると意外と肩凝るんですよね」


そう言って歯を見せて笑う。

店員を呼ぶ様子もないので俺が珈琲を飲み終わったらそのままついて来るか俺を付き合わせるかするのだろう。
しかし俺の都合を先に聞いてくるのはいつも相手の方だった。



一応は待たせているのにこちらを焦らせないゆったりとした物腰は坂元の特徴だ。

実はそんなところに大部分で甘えているところがあるのかもしれない、温くなった安い珈琲の匂いを吸い込みながら思った。
俺がこんなことを考えているなんて気付きもしないだろう向かいに座るその人物は、窓の外の枯れたサルビアに意識を取られているのだ。


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