(シムカタ前提ハタカタ・ひなり様へ捧ぐ)
時々息苦しさを覚える。
その頻度は割と高い。
肌を合わせても安心しなくて、ひどいと温度さえ感じなくなる。
摂取したものが消化吸収されずにそのまま流れ出るようだ。
縋るように見つめても、思うような見返りは期待するだけ無駄な場合が多い。
詰まるところ、変わり者を慕うことは楽じゃないのだ。
「カタ、お前太ったんと違うか?」
ふっかけてくる喧嘩腰の掛け声の合間に、機嫌を窺うような視線がちろりと混じる。
鈍感でも天然でもなければ気付いてしまう、痛々しいとさえ思う。
こんなにも冷静かつ横柄にいられる理由は、どうしても惚れているひとがいるからだ。
こいつは俺のことが好き。
俺は違うひとが好き。
よくある話だ。
気付いたところでわざわざ面倒事を起こそうとも思わないから気付かない振りをするけれど、こうもあまりにも健気に想われるとごくたまに、ふと浮かぶことがある。
「げっ、よくも分かりよったなハタ……」
「食い過ぎかお前!おーおー遠慮せんでどんどん太ったらええわ。そんで動きが鈍くなってしまえ」
「死ね!!」
こいつなら楽なのかな、と。
「ちょっと、君たち静かにできないの?」
「なんやハウアー!口の周りぶつけたんか!真っ青になってるで!」
「…今、ボクのこと侮辱したよね?」
自分の狡さに開き直ってなどいなかった。
彼が求めれば応えてくれるのも、重々知っている。自分が溺れて酸素を失うのを怯えているのだ。
自覚しているからこそ、苦しかった。
我が儘であることに反省はしないのに、我ながらどうしようもないと思う。
「つーかこのぐらいの肉すぐ落としたるわ!」
「どうだかなー。どれ、摘めるんちゃう、」
「カッタン」
「え」
畑が腹に向かって伸ばしてきた手を避けようとしたら、1人しか使わない呼び名を発するその声に、簡単に胸は鳴る。
飼い慣らされてる、その事実にさえ、甘い優越感を感じた。
蝕まれたいと思うのは、やはりこのひとだけなのだ。
「帰ろうか、」
「は?」
帰宅を共にする誘いが久しぶりすぎて、無理やり連れ出されるのも初めてで、すぐには動かない脳みそは更衣室全体のざわめきを妙に捉えた。
引きずられながら声をかけても、返事はない。
連れ込まれた車内でいきなりされたキスにようやく嫉妬だと気付くまで、三分前。