take6
痛みは錯覚なんかじゃなかった。
錯覚なんかじゃない、そうだろ、確かに幾度となく愛を交わしたはずだ。
真綿のように優しいキスも。今頭に感じている鈍痛も。
全部、本物だと思ってた。
「僕には君の愛し方がわからないよ」
残念だけどね。
そう言っておどけたように片眉を上げる。
頭痛は止まずに、悪化する痛みに思わず目眩がした。
すると、ひょいと顔をのぞき込まれた。
「大丈夫かい?」
まるで形式ばった其れ。
いよいよ視界が陰りを見せた。
今度は吐き気を伴いずるずると地の底に引きずりおろされるような気分になった。
さすられる背中が急速に冷たくなっていく。
唾液ばかりが虚しく分泌されて、叫びたいのに声が出なかった。
すぐ横には、決心が鈍るような笑顔。
ほんの数分前までは、その笑顔を信じきって幸せであるという自覚があったのに。
嘘だったなんて。
どこからが終わりだったのか。
自分が気付かないだけで始まってなどいなかったのか。
(悪い夢なら早く目を覚ませ!)
「落ち着くまでこうしてるよ」
衣擦れの音は聞こえるけれどもう背中に感覚などなかった。
音と声の区別もつかなくなった頃、この男を疑いきれない自分を微睡みの中見つけた。