take2
横目でなんとなく、彼が傷付いた顔をしたのは分かっていた。
本当に試したつもりなんかはなくて、ただ『そういう形』になってしまっただけ。
それなのに彼ったら、この世の終わりみたいな顔をするんだから。
こみ上げてくる笑いを堪えたつもりだったけど、気付かれてないだろうか。
「……あの」
ホラ、きた。
案の定ぷりぷりしてる割に目が泳いだ彼が練習後話しかけてきた。
再び喉がくつくつと震え出す。
だめだ、今笑ったら台無し。
「…さっき……」
「うん?」
「なんで………目…」
「無視されたかと思った?」
「…やっぱなんでもな……え?ぅ、わっいてっ!」
無防備に驚いてくれた彼の目をすかさず手のひらで覆って、そのまま壁に押っつけると後頭部を少々ぶつけたらしく鈍い音がした。
「な…なにす……」
「可哀想に」
「……!」
耳元で囁いた瞬間息を飲むのが分かった。
つまり、習慣で生きている犬という生き物は僅かな変化にも敏感に反応するということだ。
この番犬もその例に違わない。
単純で純粋な生物。
「さっき君と目が合った時に目を逸らして他のチームメイトと談笑してたから不機嫌なんだろう?」
いつもなら目が合ったら彼に微笑みかけてやって、あからさまに目を逸らすのは彼なのだけど、というのも、いつの間にやら彼が無意識に僕が微笑むのを待つようになったから。
僕もそれが可愛くて最近では意識してやるようにしていた。
ところが今日はたまたま偶然ふと思い付いた用事を優先してしまったのだ。
最初に述べた通りそこに意図するものはないのだが、純情な彼には相当な衝撃を与えたようだ。
そして当の彼自身は、自分が落ちた穴も、今の状況もいまいち理解してない。
ただようやく後頭部を打った時に飛び交った目の前の星が消えたらしく、パチパチと何度かまばたきをした。
「…何言ってんスか?頭でも打ったんスか?」
「それは君だろう」
「………」
無意識にダジャレを言ってしまったみたいな顔をして気まずそうに俯いた。
短い割には上を向いた睫が伏せられる。
もやりと疼いた感情を抑えて鍵を鳴らす。
「おいで、送ってあげる」
君の家に、とは言わないけどね。