(サクタン)
どんなに寒くても春はきて、当たり前だけど年をとって、好きなコのこと考えてえっちな妄想をしたりして、
桜は、花見をすることなく散ってしまった。
所々踏まれて黒ずみ痛んでいる花びらが地面にへばりついている。
桜というのは毎年、人のことを散々焦らしておいて前触れなく悠然と咲いては、あっさりと散るのだ。
弄びやがって、と拾い上げた花びらに爪を立てると、既に死んでいるそれは事も無げに爪を受け止めていた。
そこら中に無数散らばっている花びら達は、ほんの2、3日前はこの大木を彩っていたものとは思えないほど汚らしく感じた。
この木本人はどうせどの花びらがどこにあったかなんてのは覚えていないのだろう。
「用無しになったらさあ、」
前を歩く背中は振り返ることもしない。
それでも、ちゃんと聞いていることは目敏く気付くことができた。
「簡単に捨てられても忘れれるくらいの根性が欲しいよな」
「……なんの話だよ」
つーか『ら』抜き言葉、と多少の動揺が見られる指摘を返して、それきり返答はなかった。
甘えきれない甘ちゃんの俺を許して欲しいと思う。
早く話題を変えろという意思が伝わって地味に傷ついていることに気付いて欲しいと思う。
こんなとき、笑う以外の術を知らない。
「桜の話だよ」