もどかしいと思ったことがないと言えば嘘になる。
伝えたい、伝えたい………
「昌洙」
あかぎれに気付かないほど長く外にいた。
近付きたいと、もっとも強く願っているのに後ずさりをして距離をとる。
怯むなんて、僕らしくない。
「!」
「冷えきるまでここにいたのか?」
逃げようとしたことがバレたのかバレなかったのか、無遠慮に手を掴まれて体が強張って。
そこからの展開に困って混乱したあげく、それを振り払った。
彼は一瞬目を開いたあとに、反省したような顔になる。
やってしまった、と後悔するも為す術なく、「シ…シモヤケニナルヨ」ともごもご言葉を噛み砕いた、彼に聞こえたかどうかは分からない。
「んな言葉覚えてんなら、もう少し実用的な日本語勉強しろ」
溜め息混じりにそう言われて、嫌われたかもしれないと泣きたくなったと同時に、ばさりと何かが覆い被さってきた。
「ちゃんと袖通せよ」
彼のウインドブレーカーだ。
うっかり彼の匂いなんかかぎつけてしまって、ああもう、黙れ心臓!
「昌洙?まさか風邪とか引いてないよな?」
さっきからほとんど喋ってないぞお前…、顔をのぞき込まれたけれど、目の前がチカチカして、ただ頬だけがやたら熱く火照っている気がした。
「……ホシノ、待ッテル」
「はぁ?俺に用事か?」
「ホシノ待ッテル!ズット!」
足りない足りない足りない。
まだ全然足りない。
想いの大きさに語彙が追いつかない、ねえ、星野!
「………ッ」
「あー……とりあえず、一緒に帰るか」
僕 は あ な た に 伝 え た い !
繋がれた手が彼の温度を分けてもらってじんじんとむずがゆくなっていく。
伝わらない言葉、繋がる心
「ダカラ言ッタノニ……」
「何笑ってんだ、お前」