▼面の男の心中

長かった。ここまで来るのに随分と時間がかかってしまった。
あの日、彼から全てを奪ったあの日の出来事からもう何年も経ってしまったが、それは全て今日この日を成功で納めるためだ。致し方ない。と、誰に言い訳をしているのだ、と自分で自分自身に笑えてきた。心の内に留めておくつもりだったその笑みが、自然と口元を歪める。ついには堪え切れなくなり、身体を不規則に震わせていく。傍に控えていた雑魚が怪訝そうにこちらを見るのが嫌と言うほど分かった。しかし彼らを気にする心の広さは生憎と持ち合わせてはいなかったので、華麗にスルーさせていただく。
す、笑みを潜め、その場で立ち上がり時刻を確認する。予定していた時間まであと30秒を切っていた。20、10、9、8、7……と心の内だけでカウントする。そしてついにその時は来た。

「やあ、羅遠。久し振りだね」

面の内側でにこりと微笑むと、それが伝わったのか、はたまた親しげな自分の口調が気に障ったのか、遥か下に現れた彼のその眉間に皺が寄った。そんな顔せずに、笑えば綺麗なのに、とまるで場違いなことを思っていると、下方から氷柱が飛んできた。難無くそれを避けるが、下から送られてくる殺気が仮面すら通り抜け、肌にチリチリとした痛みを与えてくる。彼の中の憎しみは健在の様だった。
待ってて。今その憎しみを昇華させてあげるから。
だから、今はただ、何もかもをかなぐり捨てて。
私だけを、見て。

2012/02/28 13:08 (0)

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