▼苦いものを見るお話
なら私はどうすれば良いのだ。
私は今まであの人の為だけに生きてきたと言うのに。
あの人を失ってしまったら、私は、
「『あの人の為』なんて、ただの言い訳だ」
感情の無い声で金色は言う。
「どうすればいいかなんて、自分で考えろ。自分のことは自分で決めろ。『あの人』なんて、自分で考えられないことへの言い訳だ」
その声にふと顔を見上げれば、綺麗な金色は苦虫をすり潰したかのように表情を歪めていた。
「自分で、自分自身で決めなきゃいけないんだ」
その目はまるで私を通して別の何かを見ているようだった。
私は彼のことなど一握りも知らない。しかし彼からは何処か、懐かしい匂いがしていた。
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