05

事の次第は今だ謎のままであるが、俺や、俺の祖父、孫、息子、ひ孫、は何の因果か、今までいた世界とは別世界で目を覚まし、この世界で生活する事になった。

俺の名前は、ジョセフ・ジョースター
前世界では、90歳代のそこらへんにいる普通のじいさんだった。が、この世界に来て、体が急に若返り、現在は、高校生をさせて貰っている。だが、若返った…のは良いのだが、左腕は何故か無いままで、義手のままだ。何か意味があるのかは分からないが、そこだけ前のままだと少し違和感がある。まぁ前のまま普通に生活すれば良いのだが

この世界の『家族』は、皆多少慣れはしたが、未だにギクシャクしてしまう事も多い。
前の世界での母、父がこの世界で変わってしまったり、父親が兄になっていたり、じいさんが兄になってたり…。
まぁ、ほとんど俺の事を言っているのだが…皆複雑な思いもあるだろう。

けれど、原因は分からずとも俺達はここでは、『家族』だ。笑って過ごせるに越した事は無い。
何だかんだ…俺は、今まで関わる事の出来なかったおじいちゃんや仗助と過ごせるのを嬉しく思ってたりもするのだ。
それに、精神的には家族の中で俺が一番年上だ。だから年上として、しっかりしたいと思うし、頼って欲しいし、甘やかしたいと思う。が、俺が誰かに甘えたいか?と言われると、それはちょっと…と思う。俺は…長く生きすぎたから…まぁ、今更、誰かに甘やかして貰うのは出来ないのだ。気恥ずかしいし、な?

家族の中では俺は『料理係り』という立ち位置にいる。正確には料理係その1か?ちなみに、その2は仗助だ。
我が家は、この世界の父親が会社の社長ということもあり、それなりに金持ちではあるが。子供達の自立を狙っているのか、料理や洗濯、身の回りの事は自分でしなさい。と、言うスタイルだ。

が、ここで問題が、承太郎や徐倫は料理が出来ない。承太郎は魚介類は上手いが俗に言う、男飯になってしまうし、徐倫もあまり…と言った感じだ。もっとも徐倫は今まで作って来なかっただけで、練習すれば上手くなっていってる。
今も俺が料理してるときは積極的に手伝ってくれるし…。

そして、ここで問題なのが、おじいちゃん…ジョナサンだ。
『おじいちゃんに料理を作らせてはならない』これは我が家の家族全員の総意である。試しに一度作らせて、台所の調理器具が全滅し、調味料が全て無くなるという自体が発生した。それ以来おじいちゃんには、調理場に入ってはいけない、料理も作らない。という、約束をして貰った。
…あれは兵器だ。あれをDIOに食わせれば一発KOだったんじゃないの?ってぐらいの兵器が完成していた。今考えるだけでも恐ろしい物体Xなので、そこは一先ず置いといて…。

そんな訳で料理係は、比較的まともなものが作れる、俺と仗助で回っている。
ちなみに義手をしていて料理なんて出来るの?と思うかも知れないが、長いこと左腕は義手だったし、この世界の俺の左腕の義手の性能が良いのもあってか、全然不便では無い。
そして、もっぱら朝の朝食作りは俺の仕事だ。朝は、仗助は髪のセットで忙しいので除外している。後、承太郎とおじいちゃんと俺が弁当が必要なので、二人に弁当を作ってやって、ついでに、仗助や徐倫が髪型のセットに時間が掛かるので、手伝いもする。セットに関しては、二人共いつも、気恥かしそうに

「「良い、自分でやれる!!」」

って言うんだが、朝は時間が押すもんだからなぁ…結局俺が手伝う事になる。後、自慢じゃないが、俺がセットした方が早いし、上手い。仗助も徐倫もそこを何となく理解してきたのか、完成すれば結構嬉しそうなのを俺は知ってる。
そうして、ある程度家事が終わったら、俺も適当に身支度整えて、承太郎と一緒に高校に行く。

長い人生いろいろあったが、まさか、もう一度『高校生』を経験するとは思わなかった。
しかも日本とイギリスの高校では大きく違うし、ここは俺が若い頃の年代からかなり月日が経っている。
一度放校した事もあるので、学校にあまり良い思い出は無い。
だが、もう一度体験出来る。と思うと、何だか嬉しく思えてくるから、学校って奴は不思議だ。
制服も、ある程度改造が加えられていたものの、若い頃の自身が好きそうな服を、現代に上手くアレンジされていて、
精神的にも若さを少し抑えられている為か、着やすかった。

試しに着てみて、承太郎や仗助や徐倫にOKサインが出たので、大丈夫だろう。ただ、三人からの意見が

「もっと派手でも良いんじゃねぇか?」
「承太郎さんの言う通りだぜ、せっかく若いんだから、服だって今しか着れないもんがあるだろうし」
「そうね、ひいおじいちゃんはもっと露出しても良いと思うわよ」

である。三人には非常に悪いが…見た目は若いかも知れないが、俺の精神は、90歳の爺さんだ。あまり派手で若すぎると、その精神が、ちと若すぎるんじゃないのかのぉ?って思ってしまう。
っていうか徐倫…そういうの軽々しく女の子が言っちゃダメだからな?
確かにひいじいちゃん、若い頃は、腹出しルックとかやってたけどね!?今でもやろうと…思えば…!!
出来る…ぜ?だって、今は若いし…うん、若いし…ごめん、やっぱり無理。

だってワシは爺ちゃんだったんじゃぞ…?

…っと、この世界で、この口調は禁止なんだった。見た目の若い姿でやると、違和感がありすぎる。と、じいさん言葉を、家族全員に改善命令されたのだ。一人称を『ワシ』から『俺』へ、語尾を『じゃ』から『だ』に。気を抜くとすぐに出て来てしまう…こういうのは中々改善が難しいが、暫く、俺で通して入れば多分慣れるだろう。

そんな訳で、承太郎と、今日の晩飯何食いたい?とか、仗助が当番だっただろ、という会話をしながら、学校まで歩いて行く。我が家から学校までは、徒歩15分ほどでそこまで時間は掛からない。俺も家事とかいろいろあるし、承太郎は先に学校に行っても良いのだが、先に行かないで待っていてくれるあたり、うちの孫…いや、今は弟か、は、本当は優しい子である。

高校の名前は『杜王学園』俺と承太郎は『高等部』、中等部もあり、そこには、仗助と徐倫が通っている。
パッと見は、前世界で仗助が通っていた。ぶどうヶ丘学園に良く似ているが、承太郎の談によると、承太郎の通っていた高校にも似ている所があるようで、つまり、お互いの高校の外装や内装をドッキングさせた不可思議学校である。
…まぁそこまでは良いのだ。
家族仲良く過ごして、二度目の高校生活、体も若返ってるし、そこまでは良い。

ただ一つ、この世界で生きる俺には、高校生活で、とある役職が与えられていた。

「あ、おはようございます!!生徒会長!!」
「おはよー生徒会長!!」

…何で俺が『生徒会長』なんてやっているんだろうか…。
この世界のジョセフ・ジョースターは、ジョースター家、五人兄弟の次男坊で、杜王学園高等部生徒会を切り盛りする『生徒会長』である。何がどうなっているのか、最初は理解出来なかった。

補足しておくと、俺達が、この世界に来たのは、一般学生で言うところの『夏休み』だったんだ。
だから、夏休みの『一ヶ月程』を俺達は活用し、この世界の事を知っていった訳だ。
だから、夏期の研究とかもあった。大学生のおじいちゃんならまだしも、俺、承太郎、仗助、徐倫は、学校には全然行ってなかったし、前世界での仲間に合えないのは多少不安だったが、結構自分の事で手一杯だった。

で、夏休み明け当日、俺は、始めての高校に、若干緊張しつつも、少しだけワクワクしながら、承太郎の後を付いて行っていた。そうしたら、その数分後、後ろからヤケにタッタッタと軽快な足音がした。何だ?と思っていたら、俺は、その足音の持ち主に

『JOJOぉぉ!!!!夏休み何処行ってたのよぉぉぉ!!!』
『だっ!!!』
『!!』

俺は、飛び蹴りを食らわされた。蹴りの衝撃はあまり無かったが、急な事でうまく受身が取れなかったせいで、俺は地面のコンクリートと顔面衝突した。ちなみに承太郎はといえば、あっさり避けていた。
コノ野郎…でも怪我が無くて良かったか…そう思いつつ、俺に飛び蹴りを食らわした急に何しやがる!!と顔を抑えつつ立ち上がって、後ろを思って振り返れば…

『…え…』

酷く懐かしいが、とても見慣れた姿、俺はこの姿を知っている。
承太郎にも縁がある身内…うん、コイツは…俺の『嫁』だ。
しかも若い頃の姿。涙目で俺を見上げる小さな背丈を呆然と見ていたら、彼女はもー!!と声を上げて怒り出した。

『夏休みは、生徒会皆で海行くって言ってたじゃない!!』
『え?』
『承太郎もよ!!』
『…え…』

そうしてビシッと承太郎を指差した彼女は、頬を膨らませて、全くこの兄弟は!!と溜息をつくと

『取り敢えず私も、朋子ちゃんも、シュトロハイムも皆楽しみにしてたんだからね!!謝りに行くよ!!』
『え…っ』

今何か物凄い懐かしい名前と、あまり聞いちゃいけない名前を聞いた気がするんだが…。
しかし、彼女は俺達の手を繋ぐと、ほらほら!!急ぐよ!!と急かす。
俺はともかくとして、若い彼女を見た事がない承太郎は困惑気味に俺を見て、誰だコイツ…と言っている。
仕方ないので、俺は彼女の手を握り返して

『ちょっ、待てよ!!スージーQ!!』

途端、承太郎が物凄く驚いた顔をした。そうだよ。コイツは、前世界での、お前の『おばあちゃん』です。


それから分かった事だが、学校内は予想以上に前世界での仲間や敵が大勢いる場所だった。
とくに俺や承太郎にゆかりのある奴らが高等部に集合している。

スージーQに連れて行かれ、俺は自身が生徒会長である事、そうして承太郎は生徒会書記である事を理解した。
承太郎は生徒会以外に風紀委員も担当しているらしく、そこで、アヴドゥルと出会ったようだ。
前世界の記憶持ちだったらしく、この世界での生活に最初は戸惑いつつも、アヴドゥルも俺達と同じように、前世界での精神が目覚めたのが夏休み期間中だったらしい。そうして、この世界で出来た家族に、いつから学校なの?と散々聞かれていたらしく、なんとか学校に来くることが出来たようだ。

俺も暫くして、承太郎を仲介に、アヴドゥルと会った。アイツは最初こそ俺が若返っていたので、かなり驚かれたが、アヴドゥルも人の事は言えず、結構若くなっていた。
だが、俺はその事に驚くよりも先に、アイツの姿を見た瞬間には、アヴドゥルを抱きしめて大泣きしてしまった。アイツは困ったみたいに、泣かないでくださいよジョースターさん、と俺を抱きしめ返して慰めてくれたが、やはり死んだ奴ともう一度再会出来るのは、本当に奇跡みたいなもんなんだ。前世界での記憶が無いかもしれないし、だから、コイツが、あの時の仲間が、俺を覚えていてくれたことが凄く嬉しいと思った。

ここに、後、『もう二人』
明るくムードメーカーだったポルナレフと、あの時…DIOの能力のヒントをくれて若い命を散らしてしまった花京院が、この場にいれば良いのに…そう強く、思った。

しかし、アヴドゥルも承太郎もお世辞にも、校則を守っているような服装はしていないのにお前らが風紀委員で良いのか、と思ったが、俺も人のことは言えないのだと気付く。
この学校は…人の選択を大きく間違っている気がする。俺が生徒会長やれるとか、絶対何か裏がある。

ちなみに『生徒会』だが、メンバーは、
生徒会長である俺、副委員長のスージーQ、書記の承太郎、会計のシュトロハイム、補佐の朋子、で回っている。
その中で、スージーQと朋子は前世界での記憶が無いようだったのだが、あの夏休み明け当日、スージーQに無理やり連れて行かれた、生徒会室で、シュトロハイムだけが

『…JOJOぉぉぉ!!?お、お前、生きてたのか!?』

と驚いていたので、あ、コイツ、前世界の記憶あるなって理解した。頭は冷静だったが、内心は驚きすぎて、泣くに泣けなかった。アイツとは何だ、敵以上友人未満みたいな関係だったせいもあったのかも知れない。
でも、シュトロハイムとの出会いだって、俺は凄く嬉しかった。

ちなみに入った瞬間、朋子には『ジョセフ先輩ぃぃ!!!』と抱きつかれ、スージーQに頭を叩かれた。

…理不尽だ。俺は確かに前世界で浮気をした。でもその事は、自分なりに凄く反省してるつもりだ…でもよぉ…この世界では何もしてなくねぇか?可愛い子に抱きつかれて嬉しくない男はいないと思うが、この世界の俺は潔白だ。
それに、スージーQと付き合っているという証拠は無い。
前世界だったら、デートとかは頻繁にしてたし、アイツから誘う事だって沢山あった。
のに、今はそれが無い。スージーQはそういう恋人同士の関わりを大事にする奴だ。そんな奴から、コンタクトが無い、と、言うことは、俺達の関係は、同じ生徒会の仲間で友人って訳だ。

しかし前世界の嫁と朋子にこう言うととても失礼だと思うのだが、愛人、がいるというこの状況は中々にカオスだ。
同じく生徒会室にいた承太郎の視線が、地味にトゲトゲしく感じて困った。

未だに焦った表情のシュトロハイムは、生徒会の話が多方終わった後、二人だけで話をした。

どうやら前世界の記憶があるらしいシュトロハイムは、気付いたときには、スージーQと朋子と共に、俺と承太郎が意図してではないがサボってしまった。海に行く為の、集合場所だった駅前で、その精神が覚醒したらしい。
その為、見慣れない景色に大混乱を起こし、軍人として死ねなかった!!と普通の駅前で喚いて、目の前のコンクリートに頭を打ち付けて、死のうとしたもんだから、一緒にいた朋子とスージーQが、叫んで、駅前の近所の人に救急車を呼ばれ、暫く病院で夏休みを過ごしたのだとか…ちなみに搬送された場所は、『精神科』だそうで…そりゃそうだ。
急に駅前で『俺は国の為に死ねなかったのかぁぁぁ!!!』と喚いて自殺未遂を起こした奴だ。
精神がおかしいと思っても仕方無いだろう。こういうシュトロハイムの話を聞いていると、アイツに悪いが、自分が目覚めた場所が、『家』の中で、知り合いのいる場所で、本当に良かった。と思う。

そういう事を思うと、知り合いのいない。俺達とは初対面の、おじいちゃんが、割と冷静に俺達の事を家族と認めてくれたのは奇跡だな、と感じている。
まぁ、俺達全員、とくに俺じゃ、おじいちゃんに顔がそっくりな訳だが…。

それはともかく、シュトロハイムは病院で、暫く合っていなかった懐かしい自身の親が見舞いに来るし、医療設備が進化しすぎだし、で、ここはどこだ!!と暴れたそうだが、コイツもまぁ馬鹿じゃないので、暫くして、大人しくしておいた方が賢いと思ったんだろう。そうして、大人しく夏休みを病院で過ごし、夏休み明け、シュトロハイムを心配したスージーQに引き連れられ、生徒会室にいたら俺と遭遇したって訳だ。

取り敢えず生徒会内に一人でも昔の知り合いがいて良かった…。何て思っていたら、この後、さらに衝撃の事実が発覚した。

『お、全員揃ったか』
『はーい!!』
『は?』

生徒会のメンバーが集まった生徒会室の扉を開いて出て来たスーツ姿の男が一人。俺がその時、間抜けな声を出してしまったのは仕方ない、なぜなら、ソイツは

『ワムウぅぅぅ!!!!?』
『JOJO貴様…教師を呼び捨てとは良い度胸だな?』

生徒会の顧問が『ワムウ』だった。俺はワムウに、掌底を喰らって、悶絶した。多分かなり手加減されたと思うのだが、痛いものは痛い。

『だぁぁぁ!!』

シュトロハイムはワムウに会った事は無いのだが、何となく感覚で、コイツは柱の男だと分かったのだとう。若干ワムウから距離を取って、ジッと俺達の様子を見ていた。
後からキチンと確認して分かった事だが、この学校、柱の男達が『人間』として、『教員』をやっている。いや、訂正、サンタナは事務員のおっちゃんでした。

…いよいよ、この世界はどうなってんだ…と思う訳だが、ワムウが予想以上に良い先生で…どうも気が抜けてしまう。前世界でも、究極生命体のわりに、その精神はかなり尊敬出来る男だとは思っていたが、人間になってから、戦いにおける精神が、生徒に向けられているようで、本当に生徒の立場になって考えてくれる良い先生なのだ。

柱の男達に前の世界の『記憶は無い』
ワムウは数学教師で、エシディシが国語教師、そうして…『カーズが高等部理事長』だった。
俺とシュトロハイムがこのことにとてつもなく嫌な予感を感じたのを分かって貰えるだろうか。
まぁ今は人間なのだから、職業について俺が文句を言う義理など無いとは思う。

ただ…あのカーズが理事長の学園…前世界での記憶が無いとしても、何か絶対裏があるに決まってると思ってしまうのだ。生徒会のメンバー、風紀委員のメンバー編成にも疑問を感じていた所だし、アイツが何か意図してこうしてるのなら…と考え出すと、キリが無い。
平穏に学園生活を送れる…かと思いきや、どうやらそういう訳にもいかないらしい

この学校に来て…シュトロハイム、スージーQ、朋子、奇妙な友人、大切な妻、自分のせいで一人にしてしまった女の子、前世界での大事な人には一通り出会った。
エリナおばあちゃんや、スピードワゴンにも、まだ会えてないけど、それは、おじいちゃんが絶対見つけるものだと思っているし、見つけてくれるって信じてる。
ポルナレフや花京院だって、承太郎が見つけてくれるのだと…信じている。

前の世界で、スピードワゴンやエリナおばあちゃんは、おじいちゃんが見つけた。花京院は承太郎が見つけたし、ポルナレフも承太郎との旅で仲間になる事が出来た。俺は、その『出会い』は、おじいちゃんや承太郎の『運命の出会い』だと思う。柄じゃないけど、きっとそうだと思うから。

…だからこそ『アイツ』だけは…アイツだけは、俺が見つけなくては行けないと思う。
アイツは俺の運命の中で出会った存在だからだ。
俺の人生の中で、一番忘れられない男、女ったらしでスケコマシで、でも兄貴みたいな俺の『仲間』

これだけ、俺と関わって来た運命の人が見つかって、お前だけ見つからないんじゃ、落ち着かない。

「シーザー…」

お前は今、どこにいるんだよ…っ

「…っ」

考えれば考える程、目頭が熱くなる。一番に誰よりも何よりも、忘れられない男だ。
あんな別れ方をしたくなかった。もっと話したかった。生きていれば、誰よりも大切な友人になる事を、俺は確信していたから…もしこの世界にいるなら、話がしたいのだ。記憶が無くたって良い、シーザーという男がいる事を、俺が確認して、ただただ生きている事に、喜びを感じたいだけだ。

気付いたら、いつも辺りを見回してしまう。どこかに、アイツはいないか…と、そうしていつもの癖で辺りを見回して、やっぱりいない姿に苦笑する。

「まぁ、いる訳なんて…」

だが…その日、俺の目の前を、一つの丸いシャボン玉が、飛んでいた。

「しゃぼん…玉?」

透明色だが、どこか彩の見えるそれは…凄く、見覚えのあるもののように見えて、一ヶ月程かけて見てきたせいか、少しだけ見慣れた通学路の真ん中で、唯一つだけのシャボン玉、それは酷く違和感があって、けれど、とても懐かしくて、もしかして…そう思って、俺は、そのシャボン玉に、思わず手を伸ばし…

「じじい?」

承太郎に呼ばれて、その瞬間、ハッとして返事を返した。

「お、おう!?」

その瞬間、俺の目の前には、もうシャボン玉は見えなくなっていた。気のせい…か?

後、承太郎、お前俺に散々、じいさん言葉にすんなとか文句言ったくせに、自分は中々変えないんだから!!
家の中ではじじいでも良いが、外ではダメだ。

「じじいじゃねーし!!兄貴だろ!?」

俺はそう言って、学校に行く為に、少し先に進んでしまった承太郎を追った。
俺を待つ為に、俺の方を振り返った承太郎が、俺の辺りを彷徨う一つのシャボン玉を、その目に止めて、
思いっきり睨みつけた事を知らずに…。

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