03
『私』…いや、ここでは『俺』と言っておこうか。
俺、ディオ・ブランドーは、貧民街で産まれ、何の因果かジョースター家へ養子入りを果たした。そこでジョースター家の乗っ取りを考え、それに失敗したが、ジョースター家の部屋に飾ってあった石仮面の能力により、吸血鬼になり、世界を手に入れようと目論む、が、後、ジョースター家の一人息子であるジョナサン・ジョースターの活躍により、一度は海底へと眠る事になる。
しかしその百年後、そのジョナサンの体を乗っ取り、再び『DIO』として世界掌握の為に復活したが、ジョナサンの子孫である空条承太郎を怒らせた結果、この世から完全に死去した。

しかし、俺は、空条承太郎に敗れ、そうしてまた目を覚ます事になる。
しかも生身の人間の体で、平成2000年頃の日本の大学の法学部に通うハーフの大学生、になっていた。
だから『私』ではなく『俺』なのだ。精神はどうあれ、仮にも現役大学生なのだから…。


こちらの世界に来て、最初は全てを理解するのに時間がかなり掛かった。
一度百年後に目覚めていたものの、この世界は、前世界とは違って、電子機器がかなり発達していて、その使い方を覚えるのにまず苦労した。買い物の仕方、通貨の数え方、など、覚えなくてはならない事は沢山あった。
それから、勿論肉体は人間になってしまったので、吸血鬼の能力は使えなかったが、スタンドまで使えなくなっていた。しかしこれは、基本的には広い場所での使用は可能だと、調べた結果分かって来た。
スタンドの能力を自由に使えないのは、中々大変で、

戸惑いも多くあったが、約一ヶ月程で、多方、この世界の日本についてや、スタンドが出現出来る場所、などについて、理解する事は出来た。

そうして、分かった事は、取り敢えず、もう一度、新しい人生を与えられたらしい。と言う事だった。
あるいは、すでに大学生として生活していた自身を考えるに、この世界に元々いたディオ・ブランドーの精神なり魂なりが、今の自身と変わってしまったのか…。


この世界で俺は、母子家庭で生活をしている。その母親は…幼い頃に無くなった筈の『母』にとても良く似ていた…。
いや、自身がもう一度この世で目を覚ました事を考えると、これは母本人なのかも知れない。

ブランドーと言う姓はそのままだが、それは母の姓であり、この世界での父親は、驚く事に、あの忌々しい父親ではなかった。母の婿養子で、日本人男性であるらしい。ソイツは、俺が物心着く前にこの世から亡くなっていて、母は一人で俺を育てて来たようだ。

しかし、俺の父親がダリオ・ブランドーではない、という確証はどこにも無い。
母がこの世界の父に秘密で、何処かで身ごもって来たかも知れない、または体を奪われたかも知れない。そんな事を最初は、考えたりもした。が、この世界での俺の人生を確認する為に、部屋の中を探って見つけた。母の持つアルバムには、幸せな結婚式、家庭生活、そして俺を身篭った時の病院の病室の姿、俺を抱く見た事も無い父親、どれもこれも、本当に幸福そうな物ばかりで、母のその目に、夫を裏切った時の負い目のような物はどこにも見えず。
唯一の例外があるとすれば、この世界での父親が亡くなった頃の写真で、その一年後には、また、何かを吹っ切ったように明るく笑っていた。

俺は、この写真を見て、非常に感覚的ではあるが、俺は、『あの、前の世界での最悪な父の子では無いのだ』と言う事を信じた。写真の母は、強くて、凛としていて、その瞳は、まるで自分の宿敵のジョナサン・ジョースターのようで、少しイラつきはしたものの、だからこそ、その真っ直ぐさを、信じられる要因になっていた。

この世界に来て、一番感謝している事かも知れない。
俺は、あの父親の血に、いつまでも縛りつけられるのは、もう真っ平だったのだ。

この世界での母は、今では自身の大学資金を稼ぐ為に働いている。その顔立ちや髪色は自身にとても良く似ている女性だ。いや…俺が彼女に似ている。と言うべきか、一児の母、しかも大学生の息子を持っている筈なのに、その容姿は若々しく美しく。誰かどうみても美女で、忙しい人だが、明るく優しい。
貧民街でいつもダリオに殴られ泣かされていた彼女とは大きく違った姿が、そこにはあった。

忙しいくせに、休みが取れると必ず帰って来て『ディオ、ただいま』と笑って、軽く冗談交じりに俺を抱きしめたりもする。その行動に、俺は、どうしようもない程驚き、焦る。
まさかあのディオが母親に抱きしめられたぐらいでこれほど動揺するとは、と、思うかも知れないが、記憶にある母に抱きしめられた記憶は、もう遥か昔、ジョースター家に来る、それよりもずっと前の事で、今更そんな事をされるとは思っても見なかった。それに自身は大学生で20を過ぎている。
そんな子供にも、親はこんなふうにスキンシップを取るのだろうか…今まで経験した事の無い触れ合いに戸惑い、俺は母の前だと、未だに、普段の自身の姿ではいれなくなる。

そうして驚くと同時に、この人が、『幸せ』そうで良かった。と思ってしまうのだ。
誰よりも、何よりも、自身の『母』が笑っていて、心の底から『良かった』と、そう、思ってしまう。
本当にらしくもなく、俺は、この世界で母と触れ合って、前の自身とは大きく違う思いを抱くようになってしまった。そんな気持ちが、あの悪逆非道を繰り返して来た自身にあった事に、驚いたが、この感情を中々悪くは無い。と、思っている自分がいる。

そんな風に、この世界に来てからは、ただただ、平穏に、幸せに暮らしていた俺だが、一つ問題がある。
そう、つまり

「ジョジョ…」

俺がこの世にある限り、ジョースター家との因縁を引き剥がす事は不可能なのである。
まさかここでもそうなのか、と思ったが、もはやこれは運命なのだ。と諦める事にした。

この世界に来てから自身に付いては、かなり詳しく調べて来た。そのアルバムに、昔からあの、ジョナサン・ジョースターの姿が見えるのだ。今の技術力は中々凄いのだな、と写真写りを見て関心しつつも、幼い自分があの、ジョナサンにやけに世話を焼いているような写真ばかり見ていると、眉間に皺を寄せたくなる。極めつけは高校の入学式の写真だ。楽しそうにアイツの頭を撫でている自身を見て、思わず鳥肌がたった。

「何故このディオがあんな奴に、こんなに優しく構ってやってるんだ!!」

この世界で今まで生きて来たディオにも、ディオなりの生活があったのは分かる。
だが、これはあんまりじゃないかと思いたくもなる。少なくとも自分ならジョナサンにそんな事しない。
しかし、写真の関係を考えるに、俺達はここでも幼馴染という関係であろう事は分かる。だが、この数ヵ月全く出会っていないとはどういう事なのだろうか…いや、出会わなくても良いが…。

アイツにもアイツの子孫にもかなり痛手を食らった。もう一度会いたいとは…あまり、思っていない。
今の…母に対する気持ちを持ったままで、アイツに出会ったら、本当に自分らしくもなく『罪悪感』なんてものが湧き上がりそうで嫌なのだ。

アイツと俺は、出会わない方が良い。
そもそも、俺とジョースター家との因縁は、ジョナサン・ジョースターと俺の出会いから始まった。
俺と同じ状態の人間とは出会った事は未だに無いが、俺は自身の本能で、この世界で俺が最初に出会う前世界の人物は、絶対にジョナサン・ジョースターであると何となくだか、分かっていた。

しかも、アイツと再開すると、俺自身が何か大変な目に合うような気が心底する。

だから、余計に、俺とアイツは出会いたくない。

そう、思っていた矢先に、まさか本人に出会うなんて、誰が思うだろうか…。
…この世界は、基本的には優しいが、人間関係においては意外と不条理だ。

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