02
「……」
「……」

取り敢えず、何故こんな状況になったのか、説明させて貰いたい。
今日僕は近所の大型スーパーに買い物に来ていた。何故かと言うと、僕らはもう大学生に高校生(仗助と徐倫は除く)と、良い年だし、僕らの自立も兼ねているのか、家事全般は僕ら兄弟でこなす事になっているのだ。

我が家で一番料理上手なのは、ジョセフで、その次に仗助。徐倫は今まで、家事に手を出した事が無かったらしく、始めて作る料理に悪戦苦闘しつつも、進んでジョセフ達の手伝いして、料理の腕はどんどん上がって来ている。承太郎には、魚系の料理はとても美味しいが、その他は良くも悪くも大雑把なものが出来る。
そうして僕はと言うと…『壊滅的に料理が出来ない』

家族には大変申し訳ないのだが、どうも、あの手の繊細な作業は僕には向かないらしい。力加減を間違えて料理器具を何度かダメにしてしまうのだ。
こう考えると僕は良く波紋修行をこなせたなぁ、何て思う。あの時は、かなり切羽詰ってたからなぁ…。
正直、僕自身は、自立の為に自炊をする事になっているのに、このままではダメだと本気で思っているのだが、家族全員から、台所には絶対に入るな!!と言われてしまったので、自然と僕は『食材調達係』になっていた。
そうして、今日も僕は家族の為に、今日の夕飯の食材を買いに来ただけ、だった。

でも、だ。
まさか彼との出会いがこんな所になるとは誰も思うまい、僕だって思わなかったし、相手も思っていなかっただろう。
出来れば、もう少し雰囲気のある場所でカッコ良く登場したかったし、して欲しかった。なんてことを思う。
しかし、ここは、日本のどこにでもあるスーパーの仲で、しかも場所は『野菜売り場』

僕は、主婦の方々に教えて貰ったビニール袋になるだけ一杯詰め込む方法を駆使した。本日特売の、かなり膨らんだ胡瓜の袋を持ち。彼は手元に長ネギを二本ほど握った状態だ。
そもそも前世界で吸血鬼だった筈の彼が昼間の今、普通に買い物を出来ている事を考えると、彼の肉体は完全に『人間』になっているようだ。
しかし、失礼だが、スーパーが似合わない、前の彼の性格を知っているとより一層そう感じる。

だが、こんな状態で何を言えと…そもそも彼は記憶が無いかも知れない。何て思ったが、その考えは、彼の、心底呆れたような、けれど、僕にとってはとても懐かしい声で、否定された。

「…何やってるんだ…貴様…」

いや、君にだけは言われたくない…と思いつつ、この反応、彼に違いない、これで、彼は前世界での記憶は持っている事が判明した。しかし正体を知った所で、どうすれば良いんだろう…。
目の前の彼も何だかしまった。と言う顔をしているので、彼としては、完全に無視をするか、アルバムを見ているなら、陽気な幼馴染のフリをするかで、誤魔化せば良かったのに、ボロを出してしまった事をマズイと思っているようだ。うん、相変わらずの、この詰めの甘さ、やはり間違いなく彼だ。

「っと言うか……何だその量は…っ」

呆れた顔から一変、彼は僕の手元の胡瓜の袋や、手元の買い物かごを、心底驚いた顔で見ていた。
僕としては、ちょっと多かったかなというレベルなのだけれど、彼の様子を見るに買い過ぎているようだ。
でも一応食べ盛りが四人も暮らしているのだし、これぐらいは妥当かなぁと思ったのだが…

「あ、これかい?実は今、僕、五人兄弟で暮らしてるんだ…」

そう返せば、彼はまた驚いた顔をしてから、途端頭を抱え込んだ。

「金銭感覚が狂ってやがる…」
「え?で、でもここのスーパーが一番、家から近いし…」
「もっと安い所があるだろうが!!」

そう言い返せば、彼は僕をキッと睨み返して来た。腕を汲んで仁王立ちする姿は中々迫力がある。
…ネギ持ってるけど…。
そうして、どうやら彼は量が多いとかそういう話をしている訳では無いらしい。

「貴様、世の中の主婦が安い食材をその手に掴むために、どれだけの苦労を重ねていると思ってる!!甘えるな!!」

彼が何故こんなにも怒っているのか僕には理解出来ないのだが…僕の買い物は相当な間違いをしているようだ。

「ご、ごめん…」
「大体、キチンと毎日チラシを確認してんのか!?第一何なんだこの大量の胡瓜は!!何に使うんだ!?」

彼の言葉に、僕は思わず言葉を詰まらせた。…正直胡瓜の使い道は何も考えて無かった。
コレは、主婦の皆さんに進められるままに買ってしまった物なので…。
でも、後で、どうにかいろいろと調理すれば良いかなぁと考えていたのだが…。
僕の反応を確認し、恐らく望んだ買い物では無いと理解したのだろう、彼はそれはそれは深い溜息をついた後、僕の買い物かごを引ったくってしまった。

「使い道も考えて無いのに、無駄な買い物をするな!!だから、貴様はグズのノロマなんだ、貸せ!!」
「な、何をするんだ!!」
「自炊するつもりがあるなら、少しは考えて買え!!お前はこの世界でも金持ちなのか!?金は湯水のごとく湧いて出てくるもんじゃないんだぜ、ジョジョ!!」
「は…?」
「このディオに出会った事を感謝するんだな!!今から、お前に買い物の何たるか、教えてやる!!」
「え!!?」

そうしてディオは、僕の買って来た商品を買い物かごから幾つか商品棚に戻して、スタスタと先に行ってしまった。
心なしか目が生き生きしているのは何故なんだろう…。

「ま、待ってよ!!ディオ!!」

それに、相変わらず自分勝手なのに、ディオは心なしか僕に対するトゲが小さくなったように思う。
驚いた…雰囲気が柔らかい。こんなディオは始めてみるので、少々戸惑う。
アルバムの、僕に対して面倒見の良いディオを見るのでさえ、驚いたのに、ディオの精神そのままで、トゲの無い反応をされると、前世界での彼を知っている僕からすると、本当にどうすれば良いのか分からない。

けど、一つ確実なのは、ディオの心情に変化を起こす程の何かが、この世界には起こっている。って事だ。彼はディオで、でも違う。とても、不思議な気持ちだった。けれど、心のどこかで、ディオに変化をもたらした何かへのモヤモヤとした何とも言えない気持ちを持ちつつ、けれどそれ以上に、嬉しいと思っている自分がいた。

…ディオを含めて、皆が幸せになる事が出来る未来を、ずっと、夢見ていた。
あの時は、もうディオは手遅れで、僕の仲間を人を沢山殺し、僕はそれをもう許せず。
そんな事が叶わないのは分かっていた。けれど、心のどこかでは、ずっとずっと、望んでいた。

「…何だ」

振り返ったその顔が、酷く懐かしい…輝く金色の髪も、作られた彫刻のように美しい容姿も、そのまま、あの時の、彼のままで…。会いたく無かった。恨めしい、憎い、君といると苦しい事ばかりで、沢山の仲間が死んで、愛するつ人と引き剥がされて、僕の居場所を奪う君が、他人の命を弄ぶ君が、僕は心底大嫌いだった。
辛い事ばかりで、僕が、死んでからだって、僕の体を乗っ取ったあげく子孫に迷惑かけまくった事だって、承太郎やジョセフに教えて貰っている。

でも、それでも、僕は君を許したかった。
もう二度とこの恨みが晴れる事は無いと分かっていながら…けれど、それでも、君は、僕の片割れの星なのだ。
だから、もう自分の気持ちに嘘はつけない。会いたく無かった何て…嘘も良いところだ。…本当は…っ

「…っ」

本当は、君に…『会いたかった』

「…泣くな…うっとおしいぞ」

僕は、ここが人通りのあるスーパーだと言う事も忘れて、ただ、静かに泣いていた。
それを、不服そうにしながらも、ハンカチを押し付けてくれるディオが、前とは全然違くて、それがさらに嬉しくて、
僕はみっともなく、そのハンカチに目を押さえつけて、ただ、ただ、涙を流した。

「ディオ…ありがと…」
「…ふん」

こうして、僕らが出会う事で、ジョースター家とディオの縁は再び構築される。

そうして、『彼』は、不良抗争に巻き込まれ、他校の女性好きなボスと出会い、ゲームセンターを通りかかった『彼』がプロゲーマーの青年に出会い、運命は僕ら二人の出会いを持って、再び、回りだした。


ちなみに、無理やり連れて行かれたディオとの買い物は、徒歩でかなり遠出をし、かなり苦労したが、良い運動になったし、日本の主婦の皆さんがとても苦労しているという事も学べた。セールって怖いんだな…と、心底思った。

そして、ディオの主婦力の高さにちょっと驚愕したが、何だか楽しそうで、今のディオの方が、昔のディオよりも好きになれそうに思えた。

僕に前世界の記憶がある限り、あの日を、吸血鬼になった彼の残虐非道な行いは、決して許せるものではない。
けれど、ここはもう前の世界では無く、前世界の関係は一度リセットされた。
この世界でのディオは、いたって普通の青年で、だからこそ、この世界の僕は、彼が二度と悪事に進まないように止める。という一種の使命のような物を持っているのかも知れない。

だから、僕は、ディオが嫌がっても、意地でも側に張り付いててやろうと思う。なんたって僕らは幼馴染だ。
それに…少しずつでも、今のディオを知る事が出来たら、嬉しいな、と思う。

まずは、買い物を終えた後、お茶でも誘ってみようか…僕はもっと、君を知りたい。

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