18
「ん?」
「あ、いや…?」

また小さな違和感が胸に引っかかり、俺は首を振った。いかんいかん、今はこっちに集中。

「話はまとまったか?」
「「あぁ!!」」

マルクが声を掛けて、俺達二人は首を縦に振った。
意気揚々と、3人で、既に壊われている教室のドアから出たら…ガシャンッ、ビー!!!

「「え…っ!!」」

そんな音が聞こえ、二人であたりを見渡せば、何故かマルクだけ教室に残っていた。あれ、3人で廊下に出なかったか?マルクはあはは、と焦り顔で、俺達二人に手を振ると、

「二人共、ごめん…っ!!!」

パンッと両手を叩いて謝って来る。

「「何…」」

が…そう二人で言いかけた瞬間、チッ、チッ、チーンッ!!!という、どこぞのカーレースでも開始するのかという音が聞こえ、廊下の隅から、巨大な岩がコチラに向かって転がってきた。

「「は…」」

そこで俺は思い出す。すっかり忘れていたのだが、廊下には、マルクが対エイジャ学園侵入者を迎える為に作り出した、様々な、えげつないトラップがけしかけられていたのだった。

「「はぁぁぁぁぁ!!!!!???」」

ゴゴゴッ!!と岩がコチラに向かって転がって来る頃には、二人してその場から走り出していた。

「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」」
「ごめんってばーー!!!トラップの事すっかり忘れてたんだよーー!!って言うかシーザーが全部通ってきたと思ってたーー!!」
「アホかぁぁ、そんな自分に害があるって分かっててあっさり通る訳ねぇだろうが!!」

遠くからマルクの声が聞こえるが、自分だけちゃっかり危機回避しているところに、大きく殺意が沸いた。
よーし、マルク後で、絞める確実に絞める!!!

「何でこんな事になってんのぉぉぉ!!!俺今日拉致られたりで災難続きじゃんかよぉぉ!!!」
「非常に申し訳無いと思ってるが、この件に関しては俺はノータッチだからな!!!!」
「自分の相棒の世話ぐらい自分でどうにかしろぉぉぉ!!!!」

半泣きでJOJOが叫びながら、それでも走る速度を早めていく。どこかで曲がる所があれば助かるのかも知れないが、残念ながらこの道まっすぐ一本道で、玄関到着である為逃げられない。
さらに俺の感が正しければ、マルクは行きも帰りも、敵を囲い込む為、この策を、到着予定地にもう一つ仕込んでいる可能性がある訳で。だからこそ俺とJOJOが罠にハマって挟み撃ちされそうになっているのだが。

「アイツの好き勝手さは今に始まった事じゃ…って前!!前向けJOJOぉぉぉ!!!!」
「…え…って、うそぉぉぉぉ!!!!」

案の定、マルクはもう一つ岩を仕込んでいたらしい。さて、どうやって逃げるかな…っ
マルクは非常にいろいろ仕掛けて来るが、一応回避出来る所が必ず一つはある筈なのだ。
正確には、自分が作る時にその罠に巻き込まれないようにする為に作っていた場所、だが。
つーか、あのデカイ岩はどこから仕入れて来たのだがろうか…薬といいアイツは本当に、どうしてこう…。
とにもかくに、そういった場所は自分が冷静にならないと見つけられない。

「そういえば、シーザーどうやってこっちまで来たの!?」
「馬鹿、廊下の窓から教室のドアまで、蹴破ったに決まってんだろ」
「超人かよ!!!?」
「んな訳ねぇだろ!!あの時はたまたま……って」

目を見開いて驚いているJOJOにそう言われた瞬間、

「見つけた…っ!!!」

壁と壁の隙間に人が入れそうなスペースを発見した。
それこそ逃げ回る事に必死になっていたら、分からないような所に設置してある所が、マルクの正確性を表しているようで、俺は思わず苦笑した。…しかし、俺とJOJO、マルク単体で、単純に身長差や肩幅を比較してみよう。

「…一人しか入れねぇじゃねぇか…っ」
「え、何!!?」

180はある俺の身長を軽く越しているJOJO、しかも二人共地味に筋肉を鍛え上げているので、かろうじて入れたとしても一人ぐらいだろう。俺は、こんなところで人生終わらせる気何て無いが、けど…。
隣にいる涙目のJOJOを見る。俺は、絶対にコイツを守るって、約束した。なら、迷う事何て無いだろう。

「…っJOJO!!!」
「うぇ!?」

俺はJOJOの腕を掴んで、その体をグンッと引っ張って隙間に投げ入れた。

「…っシーザー!!」
「はぁぁぁ!!?」

つもり、だったのだが、一瞬腕が離れた瞬間、自分の腕を逆にJOJOに掴まれて、JOJOに抱きつく形で、俺も隙間に体を投げ入れる羽目になった。
って待て待て!!!どう考えても入らねぇっての!!!

「おい!!!」
「ダメだ!!」

俺は思わず声を荒げたが、JOJOが必死な声をして、俺の体を抱きしめて来た。

「…JOJO?」
「ダメったらダメだ!!絶対離さないからな!!」
「お、おい」

痛いぐらいに強く抱きしめられて、思わず息が詰まる。二人も入らないと思っていた狭い壁のスペースは、JOJOがこうして俺を抱き潰すんじゃないかと思う程強く抱きしめている為か、何とか二人入れたようだ。…凄まじく狭いが。足を一本でもずらせば、大岩に潰されて持って行かれそうな程、ギリギリの距離感だった。

「…っ!!!」

背中越しにヒュッ!!と高速で転がる岩が通りすぎる感触がして、思わずヒヤリとしたが、それも一瞬の事だ。
遠くで、ドォォンッ!!!ドガァッ!!!という、岩同士がぶつかる恐ろしい擬音が聞こえ、壁にヒビが入ったような音もしたが、取り敢えず岩同士の衝突は、多分ここから、教室二つ分の距離がある場所だと思うので、何とか被害はまぬがれたようだ。まぁ自分が被害を逃れる為のスペースで、出口が岩に挟まれて出れなくなるなんて、間抜けな事をマルクはしないだろうが…。
しかし、JOJOは目の前の事に精一杯なのか、何も耳に入っていないのか。ギュゥギュゥと遠慮無く俺を抱きしめた。

「お前が…っそうやって…いつも、俺を、守って…」

筋肉質の大男に抱きしめられ、体は非常に痛かったが、だがそれ以上に、JOJOの今にも泣き出しそうな声に、胸が痛くなった。そんな声を出させてしまったのが、どこか申し訳なくて。けれど、

「泣くなよ」
「泣いて…無い…っ!!」

否定するわりには、肩に頭を乗せられて、グリグリと額を押し付けてくる姿が、子供の頃、幼稚園の送り迎えをしていた俺と分かれる時、妹が行かないで!!と大泣きした姿にどこか似ていて、JOJOのデカイ図体とのそのギャップに、不謹慎ながら思わず笑みが溢れてしまう。体は痛いぐらいだが、心だけは少しだけ暖かくなった。

「しょーがねーなぁ」

泣いて無いとは言うが、目が若干潤んで今にも泣き出しそうなのだ。こういう意地っ張りな表情や言葉が、分かりやすすぎて、どうにも微笑ましい。でもこういうとき…妹はどうやったら泣き止んでくれただろうか。

『兄ちゃん、ちゃんと迎えに行ってやるから、だから』

あぁそうだ、確か、こう…。

「泣くな」

身長の高いJOJOの服の襟元を軽く引いて、俺は距離の近くなったJOJOの、額に小さくキスをした。

「……へ」

チュッと軽く音をさせて、その体が離れて行く。
同じ男として、見下ろして出来ないのが何とも不服だが、ここは仕方無い。
JOJOの間の抜けた声があたりに響いて、その瞬間に、強く抱きしめられていた腕の力が少し緩んだ。

「は…?」

ポカーンッと呆けた顔をしているJOJOの顔がおかしくて、俺は自分の頬が緩んでいくのが止められない。

「泣き止んだか?」
「え…?」

瞬間、JOJOの顔が熟れたトマトよろしく、ジワジワと真っ赤になっていくのを見て、あぁ、だめだ耐え切れない。
俺はついに吹き出した。

「ぶはっ」
「な、なななな!!!」

思わず俺のキスされた額を両手で抑える姿が可愛いくて好ましい、見た目に反して以外に純情だ。

「何すんだよ!!!」
「わ、悪い…あんまりにも、は、反応が…ふは、あはは」

あまりにも良い反応をしてくれるものだから、ついついからかってしまいたくなって。
でも、良かった。

「もう泣いてないな」
「だーかーら!!泣いてねぇって言ってんじゃん!!」

真っ赤になった顔で、睨まれても全く怖く無い。

「いーや、泣いてたね」

そう言って、ニヤァと笑ってやると、JOJOはぐっと顔を顰めて、そのまま真っ赤になった両頬を掌で覆って、

「何でいつもこう…いや、スケコマシ野郎は昔からだったけど、でも、アイツってこんなに甘かったっけ?初対面のときはもっと、厳しかったっていうか、ギスギスしてたっていうか……何だか雰囲気が優しくなったのかな、でも、こんな事男にする奴だったけ…?あーもう、絶対深い意味とかねぇんだろうな…っ!!妹にするみたいな気持ちだったに違い無いんだ、きっとそうだ…深い意味は無い、無い、絶対無いんだぁぁぁぁっ」

うーうー唸って、何やらぶつぶつ呟きだした。

「そこまで気にするなよ、たかが額だろ?」
「たかが額、されど額だかんね!!イケメンだからって何しても許されるもんじゃないのよ!?」
「あ、イケメンだと思ってくれてんだな、サンキュー」

結構モテる方だとは自負しているが、そう言って貰えるのは中々嬉しいものだ。

「がぁぁ、褒めてんじゃねぇんだよ俺はぁぁ!!」

いや、それは分かってるんだが、お前の反応が良すぎるから。
だが、いつまでもからかってはいられない。そこまで気にする事だったのだのなら、謝るべきだろう。

「悪かったよ、からかいすぎたな」

そう言って腕を伸ばして、JOJOの頭を軽く撫で回してやる。

「う…いや、あの」

JOJOは少し困った顔をして、口を開きかけ、閉じて。
そうして、身長が高いくせにどこか、俺を伺うように、耳まで真っ赤にしてこう言って来た。

「ちょっと安心したから、でも恥ずかしくて、だから…ごめん」
「…っ」
「でも、ありがとう…ね?」

そうして、えへへ、とどこか照れたようにはにかまれた俺の気持ちを、誰か分かってくれるだろうか。
…っ急にデレるのは卑怯じゃねぇかな!!!?

「っと、いつまでもこうしてられないな、急ごうぜ、シーザー!!」

そうして俺は、JOJOに背中を押され、狭い隙間スペースから、離れた。

「…っ」
「シーザー?」

……しかし、今度は俺が顔を真っ赤にさせられる番だったのは、仕方無い事だと思って欲しい。
たった数時間、正確には、昔命を助けて貰った恩人。大切な人には変わりないけれど。
ほぼ初対面で、こんな気持ちになるなんて思わなかった。
笑って泣いて、くるくる変わる表情が眩しくて、意地っ張りな言葉が愛おしく思えて。
コイツといると、俺は今にも声をあげて笑いたくなるぐらい、幸せだと感じられるのだ。

この気持ちの、答えはもうすぐそこまで出かけている。最初あんなに否定したくせに、気付いたら落ちている。
いや、落ちかけている?『一目惚れ』何て、俺は信じていなかったのだが。

「シーザー…?」

俺がいっこうに返事を返さないので、どこか不安気にJOJOがコチラを覗き込んで来る。

「あぁ、悪い」

とにもかくにも、気持ちの整理を付けるのも、左腕の真相を効くのも、もう少し後にしよう。
さっき急いていた気持ちが、今は嘘みたいに落ち着いていた。
大岩に追われたことで、少し冷静になれたのだろうか。

いや、一つ分かってる事が、俺にはあるからだ。
俺達には、まだまだたっぷり時間はある。
何故だか分からないけれど、事を急ぐ必要は無いと思うのだ。

そう悪い結果にはならない筈だ。
何となくそう思った

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