14 あのときの事は子供の喧嘩ですんだが、俺も三人も病院送りにしておいて、今後普通に生きていくなど出来る訳も無い。三人の仲間だとかほざいて、仇を打ってやるとか言って攻撃してくる連中がわんさか湧いて出てくるものだから、仕方無いので相手をした。そうして新たに恨みを作った結果、また追われる羽目になり、喧嘩、喧嘩、喧嘩を繰り広げた結果、中学二年の後半頃には、地元では有名な不良になっていた。 勉強態度も悪く無いし、話しかけりゃぁ普通に対応もするのに、どうして男ってヤツはこうも血気盛んなのか、とも思ったが、その頃から、俺は、ちょっと喧嘩が楽しくなってきてしまった。叔父の言う通り、今現在進行形で、小競り合いが楽しくなって来てる時期になったという事だ。喧嘩は楽しい…心のどこかの、埋まらないモヤモヤを埋めてくれる。 叔父の言う通り、俺は何も悪の心があって、アイツらを痛めつけてやろうとかそんな気持ちがある訳じゃない。 ただ純粋に殴り合いがしたいのだ。 喧嘩を仕掛けてくるのは基本的に向こうだ。それも結構卑怯な手を使ってきたりもする。とくに一人に対して複数とか、金属バットとかを使う奴、俺はそういうのが許せない。だから、その場合のみで工具を使うのだ。『テメェらは本当にクズだな』という意味を込めて。 ただ、複数に至っては、まぁ戦略の一つであり、そこまで身を体して番長を守る姿勢は素晴らしいとは思っている。複数VS複数戦なら許せる。が、複数VS一人は許せん。 俺だって喧嘩は好きだが、何も卑怯な事しようって思ってる訳じゃない。相手に仕掛けるときは真っ向から、しかもそこで、相手の力量を測ってからにしている。それは相手側には理不尽に感じる事もあるかも知れないが、俺なりのポリシーだ。あまりにも弱そうなら何もせず諦める。骨がありそうなら、勝負しろと言う。 そんな喧嘩を続けて来て、中学の頃に出会ったのがマルクだ。気の良い奴で、とくに何か目立った事がある奴ではなかったけど、楽しい事が好きな奴だった。 しかも、俺といると自分自身も不良に狙われるとか、そんなの全く気にしてなかった。 『ツェペリ見てると、ワクワクするんだ、楽しい事が起こりそうって言うかさ、だから友達にならないか?』 中学二年の始業式でクラスが一緒になって、そう話しかけられた。楽しそうに笑った顔が今でも忘れられない。 今まで友人らしい友人も録にいなかったが、人からそんな言葉を貰うのは凄く新鮮で、俺も凄くワクワクした。 そうして俺も返したのだ。 『変なヤツだな、良いぜ』 と、こうして、友人らしい友人もいなかった俺にとって、マルクは初めての友人となった。 恐ろしい事に、マルクの奴は、好青年の顔して、めちゃくちゃ強かった。何でも父親がミリオタで、自身もその影響を受け、色々と鍛えられて来たらしい。 どっから仕入れて来たのか、変な薬品を持っている事もあるが俺はそこには目を瞑る。マルクも基本的には好青年なのである。基本的には、緊急事態及び、本気でアイツを怒らせたヤツが被害に会うのだ。それに、死人は今まで出てないし…俺にとっては良い友人なんだよ、うん。 きっと今回、生徒会長もそういう感じで連れて来られたに違い無い…。もっと普通に連れて来れねぇのか、とも思うが、緊急事態だ、仕方無い。 そんな訳で、喧嘩に巻き込まれても、一人で解決出来るマルクの存在は、俺にとってひどくありがたかった。 気付けば右腕てきな存在にまでなっていて、マルクまで不良の道に引きずり込んでしまって申し訳なく思ったが、むしろ楽しそうに 『やっぱシーザーの隣は楽しいなぁ』 と、本人はケラケラ笑うので、俺は拍子抜けしてしまった。良い友人に巡り合えた事を、今でも感謝している。 そうして、高校生になっていった俺だが、実は高校に行く気は無かった。 なるべく早く稼いで叔父にお世話になってきたぶんのお金を払いたい、もしくは、生活費ぐらいは稼ぎたいと思ったのだ。しかし、叔父に 『高校だけは行ってくれ!!』 と泣きつかれた挙句、マルクにも 『高卒の方が絶対に良いって、丁度寮生活出来る高校があってさ、シーザーの成績なら奨学金だって余裕だし、行き成り仕事金稼ごうったって難しいぞ、まずはバイトから経験してみてさ…』 と言われてしまった。暴れもするが、それで馬鹿だと言われるのも不服だし、それで叔父や家族に迷惑を掛けるのは嫌だった俺は、勉強に関しては物凄く頑張ってきた。 喧嘩も大事になるとマズイので、中学からはそれなりに隠すようになった。大人から色々あれやこれや言われるが、常に爽やかな笑顔とマルクばりの好青年を演じていれば、大人にはわりとバレないものだ。 そんな訳で、不良としてそれなりに有名な俺ではあったが、警官に捕まった事は一度としてなかった。 正直捕まるだろうみたいなギリギリのとこまで言った事もあったが、それは相手が最悪のクズだったからだし、俺とマルクの証拠隠滅がかなり巧妙だったせいか、バレていない。相手への口止めもバッチリだし、弱みも掴んでる。 しかし目下の悩みが家族への被害だった。 幸いな事に、妹達や叔父へ不良どもの被害がいった事は無かったが、これ以上喧嘩を続けていけば、そのことも考慮しなければならないだろう。何かあってからでは遅いので、俺を信頼してくれているであろう舎弟達に常に動けるように、仲間に見ていて貰っている…。舎弟、と言っても、別になんて事ない普通の中学と高校の後輩だ。 俺の何を見て、憧れたのかは知らないが、気付いたら何故か慕ってくれていて、妙にくすぐったい気分を味わった。 だが俺は、何もこいつらを不良の道に巻き込むつもりはない。ので、いつも舎弟はいらねぇと、追い払っているのだが、どうしても、と言ってくる奴もいる。 ので、妹や叔父の近辺の警護を頼んでいた。あくまで俺個人としては、舎弟ではなく、信頼出来る後輩に先輩からの頼み、なのだが、世間的にはやはり、番長が舎弟に何か命令をしてる。と見れる訳だ…。 そんな事もあって、俺の舎弟を諦めて貰ったり、家族の事を考えたりすると、一度、家族と離れた方が良いのかも…とは前々から思っていたのだ。 それに…まぁ俺も一応思春期の男って奴であって…妹達には言えない。女性関係のあれこれがあったりする訳だ、そういうモロモロを含めても、やっぱり一度家族を離れるべきだと思った。 そうして、俺は高校生になると同時に寮生活を始めた。妹達からは 『家から通えば良いでしょ!!』 『別に不良達に絡まれたってやっつけられるわよ!!』 と散々言われたが、叔父だけはそんな俺の背中を押して 『休みには帰って来るんだぞ』 と背中を押してくれた。高校でも基本的にやっている事はあまり変わらない。マルクとそれとなく馬鹿やって、喧嘩に関してやりすぎたら、上手く隠してる。 敢えて唯一変わった事があるとすれば、バイトだ。と、言うか、高校生になってからの俺は、基本的に、学校、喧嘩、バイト、俺の今のところの活動サイクルはこの三つで大体成り立ってる。 この中でもとくにバイトがサイクル上位と言っても良いだろう。叔父さんは俺に生活費とか細かい事は気にせず、自分の好きなものを買え、と言ってはくれたが、俺は叔父さんに金を返したいから、中卒で働こうとしたのであって、そこまで面倒見て貰う訳にはいかない。二人で真剣に話し合って、俺は寮代や生活金に関しては自分で稼ぐ事になった。 『どこまでやれるか試してみるといい、だが、無理は禁物じゃよ』 どこか諦めた様子の叔父さんに、分かったと言ってしまった手前、途中で逃げる訳にはいかない。 稼ぐと言う事は本当に大変な事だ。まだバイトで良かったとさえ思う、マルクや叔父さんの言葉を聞いて素直に高校生になって良かったと今では思っているのだ。 しかし、俺は不良なんてもんをやってるせいか、地元でやると色々面倒なので、二駅ほど離れた地域でバイトをやっているのだが、これが中々面倒くさい。 そうして日々を過ごしていたら、マルクばりに、先輩の側にいると楽しそうだから、という理由で側にいるようになった後輩が出来た。それが電話の相手、花京院典明だ。 何故か花京院は俺の舎弟扱いになっているが、違う、奴はただの、普通の妙に気の合う普通に可愛がってる後輩だ。 ただ機転が効くというか賢いので、参謀的な扱いに気付いたらなっていたというか…。 まぁ、花京院との出会いはもう少し複雑なので置いておくとして、一応単位を気にしつつも、バイトに追われて、高校にあまり顔を出していなかったら、急に通っていた学校が、他の学校と吸収合併することになりました、とか言われて、物凄く驚いた。 しかし、合併する方の学校には強い奴が多くいる、と聞いている。まぁ百歩譲って殴り合いは出来なかったとしても、俺は『勝負』も大好きだ。サッカーでもテニスでも何でも、張り合える奴がいるのは楽しい事だと思っている。 だから…俺は俺なりに、勝手に件の生徒会長を喧嘩のターゲットにしてしまった訳だが、それなりに生徒会長に会うのを楽しみにしていたのである。 一先ずは今日は文化祭であるので、相手も忙しいだろうから、一応配慮して、文化祭終了後ぐらいに絡んで、それとなく、相手がどれだけ強いか試す予定だった。 不良という立ち位置柄、殴って負かした相手に恨みを買われる事は多くあるが、生徒会長を餌に俺を呼び出そうって作戦に出ようとするとは…卑怯だ。俺は呼び出しにはいつでも応じるっつーのに…。 …繰り返し言うが、俺は…今日この日を、凄く、『楽しみにしていたのだ』 『何はともあれ…』 『……』 『どこの誰だか知らねぇが、俺の楽しみの邪魔をするのはいけねぇよなぁぁ?』 肩手に持った携帯が今度こそ、ビキビキと歪な音を立てていたが、そんなの気にしてはいられない程、俺はムカついていた。額に血管が浮かび、声が自分でも分かる程に低くなっていくのが分かる。 『そいつら今どこにいんだ?』 『それが…』 『あぁ?』 見つけ次第ぶっ殺す。と思いながら、情報提供をした花京院が言葉を何故か濁したので、思わず首を傾げれば。 『先輩…マズイ事になりましたよ…』 携帯の向こうで、何やら、パソコンをカタカタと打つ音が聞こえた後、花京院は焦ったように俺にこう言った。 『奴ら…杜王の文化祭に、乗り込んだみたいです』 …は、 『はぁぁぁ!!?』 杜王どうなってんだよ警備薄すぎだろ!!実際昨日行ってみたが、かなり厳重に見えたのだが…。 そう思ったが、花京院が電話越しで、違います!!と俺の考えを読んだのか即座に否定した。 『警備はかなり厳重です、通常、無理やり入れば大抵は捕まるはず…ですが…杜王の人間から、正式な招待状を奪ったか入手して、潜入したと思われます…』 『そうか…それがあれば、セキュリティの条件は余裕でクリア…だな』 『それにエイジャの生徒は今日、新しい生徒として、文化祭の中で、杜王の生徒と交流を…という目的もあるそうです…急な話でしたし、エイジャの生徒として、ごまかして潜伏する事も可能な筈…』 『俺らの学園が合併される事が、普段は厳しいセキュリティのシステムを若干緩めちまってるって事か……』 これは時期が相当悪いな…。俺もまさか、俺が生徒会長を狙ってから、相手がそんなに早く行動するとは俺も思っていなかったし、情報が早いと言うか…。 『しかし、どうします?これは完全に潜伏されましたよ…奴らの狙いは生徒会長、及び先輩ですが、きっとあっちはまだコチラが生徒会長を保護したのは知らないんでしょう、しかし、一般人の集まる文化祭に、不良が入って…そこで生徒会長が見つからないなんて事になったら……』 『とんだ大惨事だ…しかも生徒会長を拉致したのは、現在どんな建前があれども、どう考えてもコチラ側だ…生徒会の狂犬達が、現在の飼い主不在に黙っている筈がねぇ…』 『狂犬を敵に回すのは、先輩が喧嘩売ってからの後にして貰いたいですね…僕も、相手の情報がまだ不十分ですし…』 俺が招いた種で、かなりの人間に迷惑を掛ける事になっちまう。 『…一先ず』 出来るなら巻き込みたくは無い。 『俺のせいだからな、俺が片付けに行く』 『…先輩……罠かも…しれませんよ』 花京院が真剣な声でそう言った。確かにこれは罠かも知れない。俺が生徒会長をすでに保護した事を知っていて、敢えて、俺を学園に引き寄せて何かするつもりなのかも知れないしな。 『でも、逃げる訳にはいかねぇだろ?それに…』 俺がそうなるようにしてしまったんだから、俺が方をつけるべきだ。 『俺にはお前もマルクもいるしな』 本気で危なくなったら、頼る、そういう意思を込めて電話越しに花京院に言えば、花京院は 『仕方無いなですねぇ…先輩は、良いです、後ろは僕らに任せてください』 そう苦笑して、俺の背中を押してくれた。 しかし、一つだけ、非常に申し訳無いが。これだけはどうしても俺だけでは解決出来そうに無い事がある。 『だが、狂犬共俺の手に負えるとは思えない…』 『……』 単純に、他の奴らをぶっ飛ばすぐらいなら出来る。 俺の場合、花京院とマルクが後ろから色々相手の情報を調べてバックアップしてくれる。マルクはたまに喧嘩に参加するが、俺が一体一の勝負をするときは絶対に手助けしたりせず見守ってくれてるし、花京院はこのとおり、情報収集力が凄まじい。というか、たまに町の監視カメラをハッキングしたりしてる…普通犯罪だが、まぁ今のところバレてないようだし…俺にとっては良い後輩なので…マルクに言える事だが、俺の周爽やかな好青年の皮を被ったとんでも無い奴らばっかりだ。まぁ…嫌いじゃねぇけど。 だが、狂犬達を敵に回したときの事を考えて、ソイツらが、俺の手に負えるかどうかは今はまだ謎である。 我らが参謀殿も一目置く狂犬達…それに情報がまだ不十分だ。それは俺にも言える。 『勝手に俺らに保護された挙句、本当に申し訳無いが…』 『杜王に…連れて行くしか、無いですよね…』 『『生徒会長を』』 これはもう喧嘩とか以前に、生徒会長に謝るのが先かも知れねぇ…。 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