12 「お前が生徒会長のジョセフ・ジョースター?」 「は、はぁ…」 拝啓、天国のおじいちゃん、おばあちゃん、あ、いや、今はじいちゃん健在だったね、って言うか、俺の兄貴だったね、小説と漫画における出だしの常套句が使えないなんて、何て不便。 いや、その前に、ちょっと、ちょっと待って。 本日、杜王学園文化祭当日、生徒会長を務める俺、ジョセフ・ジョースターは、今日は、生徒会長として、開始準備に色々とやらなきゃならない事があるもんで、早めに学校を出た筈だ。 ちなみに承太郎は朝の仕事は無し、で、いつも通りの学校登校である、畜生…俺だってぐっすり寝たかった。 そんな訳で、ちゃんと家族にも 『明日は早いから朝食作れないけど、皆適当に作って食ってな、あ、おじいちゃんは絶対ダメ、台所入っちゃダメよ!?仗助と徐倫はちゃんと自分で髪型セットするんだぞー手伝ってやれなくてごめんなぁ…』 って言った。おじいちゃんに台所侵入は絶対にさせたはダメだ。絶対に!!念には念を入れておかなければならない。そうして、仗助と徐倫の頭を撫でてやれば、二人共顔を真っ赤にして、何か言いたげに口を開いたが、大人しく撫でられていてくれた。ここ二ヶ月近く、二人共俺の甘やかしに随分慣れたと思う。うんうん、良い傾向だ。 しかし、二人の髪セットするの最近の楽しみになってきたというのに…できなくて残念。 俺は自分が一番精神的に年上ってのもあるが、やっぱり家族をめいいっぱい甘やすのが大好きだ。 得に仗助の髪を弄れるのは、前世界で、父として何もしてやれなかった俺からすると、はじめて息子に何かしてやれているようで、凄く、凄く嬉しい。照れながらも 『し、仕方ねぇな…変な風にするなよ』 なんて最近は身を任せてくてる辺り、本当に仗助は良い子だと思う。きっと朋子の、そして仗助を育む周りが優しくて、だからこの子は優しい子に育った。俺がないくても立派に育ったこの子が、本当に、酷く愛おしくて、たまに切ない…ごめんと言っても謝りきれないほどに、辛い思いを沢山させてきた…。 そして、生徒会での朋子の事だが、その事はちゃんと仗助に知らせてある。 『一つ年上…かぁ…まぁ、親父が兄貴に、甥っ子が兄貴になるぐらいっすから…』 この世界では中学三年になる仗助は、そう言いつつも、とても服雑そうな表情をしていた。前世界だって頑なに俺と朋子を合わせないように必死になっていたのだ。そんな大事な母親が、俺とかなり顔を合わせる同じ生徒会役員なうえに、高校生である。 それに、ここにいるジョースター家の家族及び、その関係者は、皆、基本的に皆死んでから、この世界に来ているが… あくまで『基本的に』だ。例外もいる。その一番の例が仗助だ。 仗助は死んだのではなく、高校生活の最中、俺と承太郎と出会い、俺たちが帰ったその翌日に、こちらの世界で目が覚めた。前世界とのギャップに一番混乱しているのは、正直言うと、仗助のような存在なのかもしれない。 …まだ前世界での未練も沢山あった筈だ。けれど仗助は色々考えた末に 『杜王には未練はあるし、もう一度勉強し直さなきゃならないけど…お袋は、記憶は無いけど、聞くところによると、幸せそうだし…ここで…頑張ってみるっす』 そう答えを出した。 『承太郎さんがいる限りは、じじいと妙な事にもなるはずないだろうしね』 そんな事も言って、冗談混じりに笑ったけど、仗助もまだ、昔の仲間…億泰君や、康一君たちに出会えていないようだし…わりと普通に中学に通って楽しんでいるみたいだけど……俺としてはかなり心配だ。 母親と離れて辛くは無いだろうか、俺と一緒の生活は彼にとって幸福だろうか…ストレスにはなっていないだろうか…今のところ、頭を弄るのを受け入れてくれるところを見ると…多分、大丈夫、だと思う、いや、思いたいけど…。 何かの因果で弟として側にいてくれる事になった息子と、もう一度何か時間を築けるこの世界で、俺は、出来る限りの事がしてやりたくて、結構必死なのだ。 あと、承太郎もたまに徐倫の髪の毛を結ぶのを手伝ってるのを見るようになった。どうやら徐倫が手伝って、と声を掛けたのが切っ掛けのようで、あまり満面の笑みを見せることのない承太郎が、その日ばかりは、雰囲気から、顔に至るまで、心底嬉しそうなものだから、俺も釣られて笑いそうになった。 コイツも色々あって、娘を全力で甘やかせなかった。だから今、そうやって甘えてもらえるのが嬉しいのだろう。 しかし、妙なとこで器用なくせに、妙なとこで不器用なのが承太郎の特徴だが、娘の髪の毛を結ぶセンスは、正直言って全く無かった。 『もー、ひいじいちゃん直して!!父さん全然役に立たない!!』 グシャグシャになった髪型に、結局徐倫は俺に助けを求め、承太郎に少し睨まれたが、まぁ、1日ご機嫌だったし、対して気にはしていないようだ。 でもその日、徐倫は全然役に立たない何て言ったけど、その顔が本当は嬉しそうなのを俺はちゃんと見た。 その日から、承太郎が密かに三つ編みの練習してるのも知ってる。 あの調子なら、そのうち承太郎も徐倫の髪型を完璧にセット出来るようになるだろう。 そんな俺らの様子を見て、ジョナサンおじいちゃんは何を思ったのか、俺と承太郎の髪の毛を梳かしたいと申告してくるようになった。どうやら俺らが毎朝髪のセットをしているのを見て、少し羨ましくなってしまったらしい。 徐倫や仗助は俺らに取られてしまったから、 『承太郎とジョセフは僕がやってあげるよ』 『……いや……その』 笑顔でそう言って、櫛持って、さぁ来いとばかりに、両手を広げるおじいちゃんに、ハッキリ断りきれず心底困った顔をする承太郎を見て、俺は腹を抱えて笑ってしまった。 『ぶは…っははははは!!も、二人共サイコー!!』 そうして、思わず二人を抱きしめた。あんまりにも、今が最高に幸せなものだから。 承太郎にも、仗助にも、徐倫にも、勿論おじいちゃんにだって…幸せでいて欲しい。幸せにしたい。 悩みは沢山あって…いっぱい抱えているものがあるけれど、ここは争いもなくて、ただただ平和で、皆が生きていて、家族を慈しむ時間が沢山ある。この世界で…俺は、彼らに何をしてあげられることを今日も探している。 おじいちゃんは今日は文化祭を見に来てくれるらしい。…ちょっと、うん、いや、かなり嬉しいかも、授業参観は初めてだけど、学校風景の事はいつだってエリナおばあちゃんにしか報告出来なかった俺だ。 おじいちゃんが学校の様子を見に来てくれるって、何か新鮮で、それで凄く嬉しい。承太郎もジョナサンおじいちゃんが来てくれるって聞いて、嬉しそうだった。 俺も一人のじじいだった経験からして、学校では、いつも承太郎の学生生活が見れて嬉しいなって思ってる。 おじいちゃんも、そういう風に思ってくれたら嬉しいな、なんて、そんな事を思ったりして、家を出た。 で、現在に至る。今の状況を細かく説明すると、言えを出て数分……『拉致』られました。 細い道通り抜けたと思ったら横から、グッと体を引かれ、何か嗅がされて、気付けば、どっかの学校の教室内で腕縛られていた。 さらに、お前は生徒会長か?と、そこそこに爽やかなイケメンに話しかけられている。見た感じは全然悪そうな事してるふうに見えない好青年だ。しかし、世の中、顔だけじゃない。良い人の顔した悪人なんんて五万といるのだ。 …っていうか、…生徒会長ってこんなに不良に狙われる立ち位置だったっけ?話によるのか…? …にしたって俺が何したっての、普通に一般的に高校を送ってたんじゃないのか?何度でも言うが、前世界の記憶が目覚めてからまだ二ヶ月しかたっていないうえに、まともにアルバムとか日記とか付けてないせいで、まだ自分について分からない事すげー沢山あんだぞ…!? 「シーザーの狙ってるっていう杜王の生徒会長だろう?」 「…はぁ?」 何でそこでシーザーの名前が出てくんの…って言うか狙ってる?何、俺狙われてんの…。 っていうかこの世界のアイツ、不良なんだよね、番長なんだよな、通り名『鮮血の狼』なんだよな、くるもの全て工具でメッタ打ちにすんだよな……それに狙われてる俺って…。 「杜王の生徒会長といえば、有名な狂犬使いだからなぁ、飼い犬がいない隙をつくしかないってね」 兄ちゃんはニコニコ笑いながら、話かけてくる。 って言うか、狂犬…俺の周りに狂犬なんていたか?手に負えない犬のように狂った『人間』を言っているのだろうが、全く持って覚えが無い。一瞬承太郎の事かもと思ったが、俺は別にアイツを従わせてる訳でも無いし、残りの皆だって、特にこれといって暴れる事も無い、普通の学生、及び、学生をやってる筈だ。シュトロハイムとかアヴドゥルとか…。だが、使いって事は、俺がその狂犬?を従わせてるって事になる。まるで俺が飼い主だとでも言わんばかりだ。 考えるに、不良のシーザーが俺を狙う理由は、コレが大きいのでは無いか、とは思う。 そして、そのシーザーに関連して、何かしらの恨みがあるのが多分この兄ちゃん…かと思いきや…。 「俺を…囮にでもする訳?」 「いやいや、俺は何もしないから」 「拉致ったのに!?腕縛ってんのに?」 普通に優しい顔でそう返されて驚いた。が、優しい顔の分、コチラに来た経緯が、何かを嗅がされて気絶させられ、腕まで縛られた事を考えるに、人は見かけによらないと言うのは、多分この兄ちゃんみたいな奴の事を言うのだろう、と思って、少し恐ろしく感じた。 って言うか今『俺は』って言ったな、コイツ!?って事は他の奴は何かするって事かぁぁ!!? 「まぁ俺ら…うーん、シーザー・アントニオ・ツェペリって奴がいてね、ソイツに関連してお前の身ちょっと危ないから、俺が保護したって言っておく」 「保護…?」 「まぁまぁ、忙しいとは思うけど、暫く付き合ってよ」 「?」 「あっちは大変な事になってんだぜ?」 そうして、苦笑する彼の顔を、俺はどこかで見た事があった。あの頃は、帽子を被っていたし、あまりにも一瞬すぎて…でも俺は…彼を知っている。って言うか一目で気付かなかったのがとても申し訳無い。 あのとき守れなかった、彼、シーザーの…大事な大事な友人だ。 「俺はマルク、暫くよろしく、ジョースター」 彼は…マルクだ。 [back]/[next] |