08
「…ん?」

何故か、無いはずの左腕が反応した。何かこう、ムズ痒いような…くそっ掻きむしりたいのに…。

「腕じゃねぇ、掌が痒い…っ」

これはあれか、腕は無いのに、まだ腕を切られた時の感覚があるって言う幻肢痛…?あぁ分かる分かる俺にもあったよ、若い頃にね…いや今も若いけどね、なんて一人ノリツッコミしたものの、これは痛いと言うより痒くて、どうにもムズムズとした感覚に耐えられない。

「義手掻いたって収まらないだろうしなぁ…」

何より神経の問題だから、自分ではどうしようも無い。仕方無い…収まるまで我慢だ。他の事でも考えていよう。

「にしたって、何なんだこの量は…」

夏休みから一ヶ月ほど立ちまして、現在10月、杜王学園では、文化祭と体育祭が始まる季節になりました。

杜王学園の文化祭は特殊で、中学生は体育祭、高校生は文化祭という分け方をされていた。
日本の高校を過ごしていた承太郎や仗助でさえ、何だこの制度は訳が分からないと言っていた。
通常は、体育祭と文化祭、両方行うそうなのだが、杜王学園は生徒人数が多すぎて、二つの行事を両方やっている暇など無いのだそうだ。それで良いのか…と思いつつ、それで学園が成り立っているのだから、それで良いのだう…。

まぁどちらにせよ、高校は現在文化祭準備真っ只中にある。

俺、ジョセフ・ジョースターは杜王学園高等部生徒会室で、展示会場の許可書等を見ながら判子押したり、地図探したりしている。
学園の展示物許可、クラスの出し物の最終確認は生徒会長である俺の仕事なのだ。キチンと予算範囲内か、どこかにミスは無いか、生徒会室の机を離れたり、座ったりの繰り返しで、物凄く忙しい。

行事って中々楽しいと思うけど、自分が指揮する側だとやっぱり面倒な事が多いのが世の中の常って奴だよな。不動産王と呼ばれていた時期もある俺からすれば、あの時の仕事量に比べれば、何てことは無いけれど…。

あぁ懐かしの不動産王時代…あの頃に比べれば大分マシだと思う。
うん、すっげぇ簡単だとは思うよ?でもさぁ俺に振り分けられてる仕事が明らかに、学生の範囲を越してる気がするんだが…何だよ、展示会場許可って、俺が出すのか?展示の最終チェクとかクラスの代表とか決めてやれば良いじゃねぇか…などなど、色々思う事はあるが、とにもかくにまぁあれだ…

忙しかったんだよ、この数週間!!この世界の事全然分からんから、すっげぇ困った事沢山あったしね!!
爺の精神をどれだけ酷使させれば良いんじゃ!!とか喚いたし、スージーQに沢山小言言われたけど、でも、ワシ頑張ったんじゃよ!!

「今日の作業が終われば!!明日は文化祭当日だよぉぉ!!」
「うるせぇぇぇ!!!」
「いだっ!!」

言った瞬間、承太郎が生徒会室の扉をバンッと開いて、入って来たと思ったら、頭殴られた…酷い…

「何だよ!!承太郎!!」

ちなみにこちらも、生徒会の仕事に風紀委員の仕事に忙しかったらしく、若干キレ気味だった。
今更睨まれて怯む事も無いが、我が孫…いや、我が弟ながら、人一人射殺せそうな顔をしている…この顔で、本気で怒ってる訳じゃないってんだから、そっちの方が俺は怖ぇよ…と思いつつ、殴られた文句の一つでも言わなければ、と、殴られた頭を撫でて、口を開きかけた瞬間、承太郎はそのまま俺を抱き寄せて、ギュゥゥと音がしそうなぐらい強く抱きしめ、俺の肩に頭を乗せた…あ、れ?

「……承太郎…?」
「……疲れた…」
「あぁそうかい…」

おや珍しい…コイツが甘えてくるなんて…。
まぁ理由は何となく分かる…ような気がする。コイツは人と関わるのがあまり得意ってタイプではない。なのに、生徒会の書記ならまだしも、生徒の服装チェックなどや、文化祭の食品関連を扱う生徒の、検便の回収とか…人と多く関わるうえに、らしく無い風紀委員なんてやってるせいか、疲労もそのぶん大きい。

後、抱きしめてくる承太郎から、少しだけ香水の匂いがした…成程…これは女子に絡まれて揉みくちゃにされて来たな…畜生モテ男め…とは思うものの、流石は俺の自慢の孫とか思ってしまったりもして、俺は以外と承太郎がモテるのが誇らしかったりする。抱きついてきた体を抱きしめ返し返して、背中を軽く叩いてやった。

「なんだなんだー?…女の子にでも絡まれたか?」
「……っ」
「…お、やっぱり」

そう言ってからかうように笑ってやれば、承太郎は俺の肩にさらに額を押し付けて来た。

「…どの時代も女はうるせーな…」
「前の世界で嫁まで貰っといて何言ってんだよ…しかもお前、精神年齢50代だろ?女の子には優しくしろー」
「…嫁は俺の女だし、徐倫は俺の娘だが、その他はただの女、だろーが」
「おぉ…カッコイイ事言うじゃねぇの」

承太郎の言葉はつまり、俺にとって大事な女以外は、興味の欠片も無いと言う事であり、その他の女性には大分失礼な発言となるが、対象者にはとても一途な発言だ。
しかし、何だかんだ弱者を邪見に出来ない性格をしていたりするもんだから、余計に女の子が集まる原因になっているのだが…。

「それに自分の精神より年下、しかも娘と同年代ぐらいの女の相手なんて出来るかよ…っ」

そこまで言って、承太郎がしまった。と、言うように言葉を詰まらせた。

「…あー…」
「…悪い…」
「…いや?」

まぁそりぁ、俺は60代で不倫した男だが…捻くれたって仕方ねぇし、事実は事実だ。しかしだからこそ言える事は、女性は思ったよりヤワくは無い。油断してると食われるのはこっちの方だし、朋子との詳しい事は話さないけど、邪見に出来なければ出来ないほど、女は強いのだ。
承太郎に俺が一つアドバイス出来る事と言えば、お前に近づく女の子は、お前の性格も熟知して近づいて来てるんだから、怒鳴り散らしたぐらいじゃビビって逃げようなんて思わない…って事だ。
お前はもっと、女性相手にブチギレる覚悟で挑まないから、いつまでたっても絡まれるんだぞー、DIOとの戦いでも女がどれだけ厄介なのかも知っるだろ。と思いつつ、そういう孫の女、子供に甘いとこが結構好きなので、じじいは一先ず何も言わずに様子見をしているのだが…。

それに…

「なぁ、承太郎…」
「…」
「他に何か、気がかりな事は無いのか…?」

そうして黙り込んでしまった承太郎に、思わず苦い感情が体を駆け巡る。
これは、俺個人の見解だが…承太郎も…大分焦ってるように思うのだ。アブドゥルが見つかった今、絶対に彼がどこかにいると思っているのだろう。俺が、この世界でシーザーを探しているように、承太郎にも、一生忘れられない相手がいる事を、俺は知っている。彼の最期を…助けられなかったのは俺だった。
俺はいつも無力で、大切な人を守りきれなくて…不甲斐ない奴で、でも…

「…元気出せ…じいちゃんは、できる限りお前の側にいてやるからな」

目の間で元気の無い孫を、元気づけられるぐらいの存在ではいたいから。
そう言って、孫の頭をワシャワシャと撫でてやれば、アイツは逆に俺を元気付けるように、俺の掌にグリグリと頭を押し付けて来た。どことなくその耳が赤いのが見えて、俺は思わず笑ってしまう。

「ふはっ」
「笑ってんじゃねぇーぞ」
「はは、悪い悪い」

承太郎は俺を腕から放して、逆に俺の頭をワシャワシャとかき混ぜるように、撫で返して来た。
照れ隠しなのか、あまり取る事の無い帽子を深めに被り直して、承太郎は小さな声で、俺にこう返して来た。

「…じじいにも…俺が…いる…だろ」
「…!!」

やれやれ参った…どうやら、俺も焦っている事は孫に筒抜けであったらしい。

「…そーだな」

小さい頃はいつも「じいちゃん、じいちゃん」っと後ろを追いかけてくる子だった。母親思いで、正義感が強くて、学生の頃は反抗期だったけど、俺が年を取ってからは、介護も良くやってくれた。そうだな、いつも無愛想で、気づかれ憎いけど、お前はとても…優しい子だ。孫の気遣いが嬉しくて、胸が暖かくなった。

「承太郎」
「……」
「サンキュー」
「……」

そう言って礼を言って笑えば、承太郎は一瞬困った顔をして、それから、少しだけ、その相好を崩した。

[back]/[next]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -