◆ 3日目
ふわふわと宙に浮かぶような体。頭の中は全体的に白い。ただ、すべすべした感触が気持ち良くって無意識にそれに顔を擦り付けると、クロロの匂いがした。 ああ、ここはベッドの中だ。
彼はいったいどこに行ってしまったのだろうか。
ぼんやりとモヤがかかったような頭のまま眠り続けていると、隣の部屋から僅かに聞こえる声が耳に入ってきた。 「例の………チェーン…」
「念…ミィ…イニ…ル」
私の、名前? クロロと、…シャルナークだろうか。話の内容までは上手く聞き取れないが、僅かに2人分の声が聞こえる。一体なんの話をしているのだろうか。
起き上がろうと試みるも、上手く力が入らず、その体は柔らかいベッドに深く沈み込んだ。
とにかく眠いのだ。ここ最近寝ても寝ても眠い気がするのはなんでだろう。不思議だなあ。…あ、…私、猫になっちゃったんだっけ?そっか、だからか。
あれ?でも私…、 なんで猫になったんだっけ…?
「……ッ!」
恐ろしい考えが脳を過り、思わず飛び起きた。心臓はドクドクと早まり、呼吸が乱れる。
今、私、自分が人間だってこと、忘れかけてた…!
恐ろしい考え、とは正にそれで、一瞬であるが完全に自分が猫であるかのように感じてしまっていたのだ。
気のせいだよね…。 気のせいだよね…。
「ん……ミィ、起きたか…」
心を落ち着かせようと、必死に念じていると、突然上から降って来た声に顔を上げた。そこには寝起きのような顔で目を擦るクロロが。 ベッドで眠っていたはずの私はいつの間にかクロロの膝の上に移動させられていたようで、辺りは薄暗くなっている。 ようやく状況を把握できるまでに覚醒してきた頭。徐々に落ち着いてきたところで、冷静に昨日からの状況整理をする。 多分、あれからシャルナークが連れて帰ってくれたんだと思うけど、昨日、あの建物に入ってからの記憶があまりない。
明らかにおかしい。 あの建物に、落ちていた何かに、きっと手がかりがあるはず。それは間違いない。
「……ん ミャウ…」
考えていると、脇の下にクロロの手が入り込んできて、私の体は軽々と持ち上げられた。柔らかく良く伸びる体はクロロの思いのまま、顔と顔を近づけられてじっと私の目を見つめたあと、湿った鼻の頭にキスをされた。
唇が離れた後も、また暫く私を目の前に起き、視線を反らさない。クロロの真ん丸で大きな漆黒の瞳を見つめていると、心臓がどうしようもなくキュンと疼いたので、甘えて首元まで体を伸ばした。すると大きな手のひらが優しく背中を這う。
「…………ミャア…」
「………ミィ、…」
心なしか、いつもと違うように聞こえたクロロの声を不思議に思ったが、私の体はぎゅうとクロロの胸に抱き締められていてその表情を確かめることは出来なかった。
寂しい…。
猫になって3日目、 初めて抱いた感情だった。
( ずっと傍にいてね )
そう思いを込めて、首元にちゅうをした。
「…俺が傍にいるよ」
「………ミャウ…」
あるはずがないのに、なんだか伝わった気がした。
Good morning cat
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